連合「正念場」 賃上げ勢い維持できるか 春闘が事実上スタート

「経団連」と「連合」が賃上げの方針などを説明する「労使フォーラム」が24日開かれ、ことしの春闘が事実上、スタートしました。
賃上げの勢いを維持できるかやデフレからの完全脱却につなげられるかが焦点です。

都内で開かれた「労使フォーラム」には経営側と労働組合の代表など200人余りが参加しました。

経団連 十倉会長「ことし以降も加速できるかにかかっている」

中国を訪問している「経団連」の十倉会長はビデオメッセージで、「構造的な賃金引き上げの実現に向けて動き出したこの歯車をことし以降も加速できるかに、日本経済の未来がかかっている」と述べて賃上げを強く呼びかけました。

連合 芳野会長「ステージ転換を図る正念場」

午後は、「連合」の芳野会長が講演し、「経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換を図る正念場で、その最大のカギは社会全体で問題意識を共有し、持続的な賃上げを実現することだ」と述べ去年を上回る、5%以上の賃上げを求める方針を説明しました。

自動車総連「価格転嫁の取り組みが大きな柱」

産業別労働組合の代表も講演し、自動車メーカーなどの労働組合でつくる「自動車総連」の金子晃浩会長は「自動車関係の経営団体は仲間と家族などを含めて何千万人の人が関わっている。組合員のためはもちろんだが、日本経済のためにやれることやるんだという気概を持って役割を果たしていきたい」と述べました。

その上で「今回の春闘は価格転嫁の取り組みが大きな柱だ。価格転嫁をしっかり企業として経営としてやってもらっているのかを、組合からしっかり確認しようということもことしの取り組みだ。労働条件の向上の実現に向けて、組合に加盟していない組織へも賃上げを波及させていきたい」と述べました。

ことしの春闘では、30年ぶりの高い賃上げ率となった去年の勢いを維持できるかや、賃金が持続的に上昇する経済の好循環を生み出し、デフレからの完全脱却につなげられるかが焦点です。

また、中小企業で賃上げの原資を確保するための価格転嫁が進むのかや非正規雇用で働く人の賃上げの動きが広がるのかも課題となります。

春闘は来月、自動車などの労働組合が要求書を提出して交渉が本格化します。

連合 去年上回る賃上げを求める方針

連合は賃金の伸びが物価の上昇に追いついていないとして、ことしの春闘でベースアップ相当分として3%以上、定期昇給分をあわせて5%以上とおよそ30年ぶりの水準となった去年を上回る賃上げを求める方針です。これは1995年以来、およそ30年ぶりの水準となった去年の春闘を上回る高い水準です。

賃金と物価が安定的に上昇する経済社会への転換を図る正念場だとした上で、価格転嫁を伴う持続的な賃上げの実現と、地方や中小企業まで賃上げの流れを波及させる必要性を訴えています。

各産業別組合も例年以上の賃上げ要求へ

▼自動車や電機、鉄鋼などの労働組合が加盟する5つの産業別労働組合で構成され、組合員およそ200万人の「金属労協」はベースアップ相当分として月額1万円以上の賃上げを求める方針です。去年の要求額から4000円を上乗せし、現在の方式で要求を始めた1998年以降、最も高い水準です。

このほか、主要な産業別の労働組合では、

▼繊維、流通、サービス業などの労働組合で作る「UAゼンセン」がベースアップ相当分と定期昇給分を合わせて「6%を基準」とした賃上げを求める方針です。去年は「6%程度を目指す」としていましたが、「基準とする」と表現を強めています。

▼機械や金属産業の中小企業などの労働組合でつくる「JAM」はベースアップ分と定期昇給相当分を合わせて平均賃金で1万6500円以上を要求する方針です。これは去年の要求額より3000円高く、JAMが結成した1999年以来、最も高くなります。

▼自動車メーカーや部品会社などの労働組合でつくる「自動車総連」は、ベースアップの統一的な要求額は掲げませんが、企業内の最低賃金を去年より7000円引き上げ、月収18万円以上を求めることを基準としています。

▼大手電機メーカーなどの労働組合でつくる「電機連合」は25日、鉄鋼や造船などの労働組合でつくる「基幹労連」は来月の中央委員会で、賃上げの方針を決める見通しです。

価格転嫁や事業拡大で賃上げ原資確保しようという動き

大手企業のなかには、大幅な賃上げを実現するため、価格転嫁や事業の拡大を通じて賃上げの原資を確保しようという動きも出ています。

社員およそ3300人の大手食品メーカー「味の素」は去年の春闘で、ベースアップ相当分と定期昇給分などを合わせて6%の賃上げを決めました。

経済の好循環に向けて、ことしも大幅な賃上げを目指しています。

ただ、賃上げにはその原資を確保する必要があり、この会社では手段の1つとして価格転嫁に取り組んでいます。

原材料費の高騰などを受けて2021年以降、調味料などのべ500余りの商品の出荷価格を最大で20%程度値上げしました。

コストの削減や生産性の向上などに取り組んだうえで、賃上げの原資となる人件費についても価格に適切に転嫁していく方針です。

また、持続的な賃上げには会社の稼ぐ力を強化する必要もあり、会社では主力の食品事業以外にも、今後成長が期待されるさまざまな事業に取り組んでいます。

▽生活習慣病などのリスクをチェックするための血中のアミノ酸濃度を分析するサービスや
▽再生医療に使われるiPS細胞などの培地の開発
▽より栄養が吸収されやすい乳牛向けの飼料の製造など、強みを持つアミノ酸の技術を生かした事業に力を入れています。

会社では2030年にはこうした事業の利益を食品事業と同じ規模に拡大させる計画です。

入社7年目の社員は「ふだんの生活でも物価の上昇を感じる場面が多い。家族がいるので賃上げに期待している」と話しています。

佐々木達哉執行役専務コーポレート本部長は「ことしの春闘では賃上げは5%くらいがスタートラインとして考えることになると思うが、労働組合の要求や会社の業績見通しなどを踏まえ、判断していきたい。経済の好循環は1社だけでなく社会全体で取り組むべきことで、われわれとしてもそういう社会づくりに貢献していきたい」と話しています。

交渉を待たずに早期に賃上げ方針 表明する動きも

ことしの春闘に向けて大手企業の間では、経営側が組合側との交渉を待たずに早期に賃上げの方針を表明する動きも相次いでいます。

ホンダの労働組合はことしの春闘で、基本給を引き上げるベースアップ分としての月額1万3500円に、定期昇給の相当分と合わせた月額で総額2万円の賃上げを要求する方針を固めました。32年ぶりの高い水準となる要求で、過去最高だった去年の妥結額を1000円上回ります。また、ボーナスにあたる一時金については、過去最も高い水準となる年間7.1か月分を要求する方針です。

ホンダの労働組合は、理由について、
▼物価が依然として高い水準で推移していることに加え、
▼車の電動化などの変革を進めるなか、組合員の士気を上げていく必要があるとしています。

去年の春闘ではトヨタ自動車やホンダなど自動車メーカーからは満額回答が相次ぎ、ことしの春闘に向けては、すでにマツダの労働組合がいまの形で要求するようになった2019年以降で最大の賃上げを要求する方針を決めています。

食品などのメーカーでは、
▽サントリーホールディングスがベースアップと定期昇給分などをあわせて去年と同じ水準となる平均7%程度の賃上げを実施する方向で労働組合と交渉する方針です。

従業員がやりがいをもって働き続けることができる環境を整えたいとしています。

▽キリンホールディングスも月額1万円ほどのベースアップと定期昇給分をあわせて、去年と同じ水準となる平均6%程度の賃上げを行う方向で検討を進めていて、人材の獲得につなげたい考えです。

小売りの業界では、
▽家電量販大手のビックカメラが8年連続となるベースアップを行う方針を決めました。人材の確保につなげようと例年の妥結時期よりも大幅に早い段階で方針を打ち出しました。引き上げ額は労働組合がつくられた2004年以降で最大だということです。

生命保険大手でも賃上げの動きが相次いでいます。

▽日本生命は営業職の賃金を平均7%程度引き上げる方針です。

▽第一生命ホールディングスは営業職も含めた社員の賃金を平均7%引き上げる方針です。新年度から従業員向けに株式を給付する制度を導入する予定で、この手当も含んでいます。

▽明治安田生命は社員の賃金を年収ベースで平均7%引き上げる方針です。新年度から年功要素を廃止し、実績や役職をより反映した賃金体系に移行する予定で、この方針に沿って支給する特別手当も含んでいます。

▽住友生命は営業職の賃金を平均7%以上引き上げる方針です。

一方、非正規の労働者では、
▽流通大手のイオンがグループで働くパートなどおよそ40万人を対象に、時給を平均でおよそ7%引き上げる方針を固めています。

会社ではパートなどを対象に去年も同じ水準の賃上げを実施していて、2年連続となります。