【解説】ロシアと北朝鮮 接近の理由は 小泉悠准教授に聞く

ロシアのプーチン大統領が満面の笑みで出迎えたのは、モスクワを訪れている北朝鮮のチェ・ソニ外相。ロシアと北朝鮮は、協力をさらに拡大しています。ロシアはウクライナへの侵略を続け、一方、北朝鮮は、年明けから砲撃を繰り返したり、弾道ミサイルを発射したりして、軍事的な威嚇を続けています。

ロシアと北朝鮮の緊密な関係は、日本をはじめ、アジアの安全保障に今後どのような影響を及ぼすのか。軍事情勢に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠 准教授に聞きます。

※1月17日「ニュースウオッチ9」で放送した内容です。
※動画は6分46秒、データ放送ではご覧になれません。

北朝鮮外相とプーチン大統領が会談 “軍事協力含め協議”

17日に入ってきた映像には、会談を終えた北朝鮮のチェ・ソニ外相の姿が捉えられていました。
そのチェ外相は、16日、クレムリンでロシアのプーチン大統領と会談しました。チェ外相には、北朝鮮で兵器開発を指揮する、朝鮮労働党の軍需工業部長も同行。24年ぶりとなるプーチン大統領の北朝鮮訪問に向けた調整も行ったとみられます。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、軍事協力を含めて協議したことを示唆しました。
ロシアはウクライナへの侵攻で北朝鮮から供与された弾道ミサイルを使っているなどとも指摘され、両国は、ともに対立するアメリカなどを念頭に協力を拡大しています。

ロシアと北朝鮮について、軍事情勢に詳しい小泉悠さんは、両国の関係がかつてなく深まっていると指摘します。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 准教授
「ロシアがウクライナ侵略を始めて以降というのは、“背に腹は代えられない”と、仲よくしてくれる国、特に、非常に重要な砲弾であるとかミサイルを送ってくれる国であればどこでも仲よくせざるをえない。北朝鮮というロシアと同じ旧ソ連規格の砲弾を大量に生産できて、備蓄している国、その国がロシアの軍事支援に踏み込んでくれているということは大変ありがたいだろうというふうに思います。ロシア側からも返礼として、相当量の民生品なんかを送っているようですね。ですからこのプーチン政権が発足して以来、最もロシアと北朝鮮の関係が密になっている時期と言っていいのではないかと思います」

挑発的な動き 相次いで見せる北朝鮮

一方、北朝鮮は、ことしに入ってから、挑発的な動きを相次いで見せています。

北朝鮮軍は年明けから、朝鮮半島西側の海上の、韓国との境界線近くに繰り返し砲撃を実施。砲声を装って爆薬を爆破する「欺まん作戦」も決行したと主張しました。黄海にある韓国のヨンピョン島(延坪島)では、一時、住民が避難する姿もありました。

さらに今月14日、北朝鮮は、固体燃料式の中距離弾道ミサイルの発射実験を行いました。従来の液体燃料式より迅速に発射できる固体燃料式への置き換えを進めることで、奇襲能力の向上を図るねらいがあるとみられます。

そして15日開かれた最高人民会議でキム総書記は、韓国を「第1の敵対国」とみなすよう、憲法の改正を指示しました。
「最大敵国の韓国が隣にある特殊な環境であり米軍が主導する軍事的緊張は激化していて、物理的衝突による戦争拡大の危険度は著しく高まっている」

これに対し、韓国のユン・ソンニョル大統領は、北朝鮮の挑発には強い姿勢で臨む考えを示しました。
「北の政権が反民族的で反歴史的な集団であることをみずから認めた。北が挑発すれば何倍にもして懲らしめる」

専門家は現状の国際情勢を「不安定な状態になっている」と指摘。その背景にアメリカの抑止力の低下があると指摘します。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 准教授
「アメリカは今もヨーロッパをロシアから守るために相当リソースを割かざるをえなくなっているということ。これが中国や北朝鮮やその他勢力からどういうふうに見えているかっていうのは、決して東アジア諸国の安全保障にとってよいサインではないんだと思う。アメリカが割けるリソースが制限されている分、どこまで東アジアにおけるアメリカの同盟国や友好国で、負担を肩代わりするのかであるとか、どこまで協力が進められるのか、我々自身の工夫の問題にもなってくるんだろうと思う」

朝鮮半島情勢は「1950年よりも危険」分析も

韓国の情報機関は、4月の韓国総選挙を前に北朝鮮が軍事的挑発に出る可能性が高いとして警戒を強めています。

そうした中、「38ノース」というアメリカの研究グループが先週、このような分析リポートを発表しました。

タイトルには、「キム・ジョンウン氏は戦争に備えているのか?」と書かれています。その中を見ていくと、最近の朝鮮半島情勢について朝鮮戦争が起きた「1950年よりも危険」という認識を示しています。

その上で、キム総書記が「戦争に向けて戦略的な判断を下した」という分析を紹介している。その根拠として、アメリカとは関係が悪化する一方、ロシアとの関係が特に軍事面で強まっていることを、北朝鮮がみずからに有利だと判断していると指摘しています。

こうした見方には、もちろん議論もあると思いますが、軍事的な誤算が生じることがないよう、ロシアと北朝鮮、そして、中国も含めた動きをよく見ていく必要がありそうです。