志賀原発 相次ぐトラブル 地震で何が起きていたのか?

震度7を観測した石川県志賀町にある志賀原子力発電所。

北陸電力は安全上重要な設備の電源は確保されているとしていますが、電源などの設備にトラブルが相次ぐ事態に。さらに、火災の発生や津波の情報をめぐり、訂正が繰り返されました。

志賀原発でいったい何が起きていたのでしょうか?

現場で何が起きていたのか

志賀原発の1号機や2号機では何が起きていたのか。北陸電力の対応などとともに、時系列でまとめました。

今回の地震で課題となったのが緊急時の情報発信です。

地震が発生した当初、北陸電力は変圧器が壊れた際に消火設備が作動したことや「爆発したような音と焦げ臭い匂いがあった」とする情報を原子力規制庁に報告しました。

これを受けて、林官房長官は緊急の記者会見のなかで「志賀原子力発電所では、変圧器の火災が発生したが、消火済みでありプラントに影響はない」などと述べました。(1日19:00~)

しかし、北陸電力はその後、現場調査をした結果として、「火災はなかった」と発表しました。

また2号機の変圧器が壊れたことで漏れ出た油の量についても、北陸電力は当初、およそ3500リットルと発表していましたが、その後、5倍以上のおよそ1万9800リットルだったと訂正しました。

油漏れは1号機の変圧器でも

津波についても、北陸電力は1月2日に開いた記者会見で、「水位を監視していたものの、有意な変化は確認されなかった」と発表していました。(2日11:00)

しかし、その日の夜になって、敷地内に設置していた水位計で3メートルの水位上昇が確認されていたと訂正しました。(2日 21:00)

北陸電力は、社内で適切な情報連携がとれていなかったことが原因だったとしています。

訂正が繰り返される状況に原子力規制委員会の山中伸介委員長は1月10日の会見で、「緊急時の情報発信は難しいところがあるが、情報共有のあり方は福島第一原発事故の大きな教訓だ。今回の対応には不十分な部分もあり、まだまだ努力してほしい」と述べ、北陸電力に改善を求めています。

志賀原発 再稼働を申請 審査中

志賀原子力発電所は2基の原子炉があり、
▽1号機が1993年7月に
▽2号機が2006年3月に
それぞれ運転を開始しました。

事故を起こした東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型と呼ばれるタイプで、出力は▽1号機が54万キロワット、▽2号機が135万8000キロワットとなっています。

いずれも原発事故があった2011年に運転を停止し、その後、新たにつくられた規制基準への対応が求められたことから、現在も停止したままです。

地震後に確認された原発敷地内の段差

このうち2号機は2014年に再稼働の前提となる審査を申請しましたが、敷地内の断層が将来動くかどうかの評価に時間がかかったことなどから審査は長期化していました。

原子炉内に核燃料はありませんが、燃料プールには▽1号機に672体、▽2号機に200体の使用済み核燃料が貯蔵され、冷却されています。

今回の地震では、志賀原発をめぐって、「モニタリングポスト」「避難」にも課題が指摘されています。

モニタリングポスト 一部でデータ得られず

今回の地震では、志賀原発から放射性物質が放出されるような事故には至りませんでしたが、原発周辺に設置されている放射線量を測定するモニタリングポストは、通信が途絶えた影響で一部でデータが得られなくなりました。

石川県と富山県ではあわせて116か所にモニタリングポストが設置されていましたが、1月1日の地震発生直後には13か所、4日には最大18か所でデータが得られなくなりました。

いずれも志賀原発から半径15キロから30キロの範囲にあり、このうち石川県内の17か所は原発の北側に位置する輪島市と穴水町に集中していて、この地域一帯で観測できない状態になりました。

モニタリングポストが設置された道路が通れない様子

原子力規制庁によりますと、通信が途絶えた影響でデータを送れなくなったことが主な原因だということで、その後、通信環境の回復や替わりの装置の設置などによって復旧が進み、現時点でデータが得られないのは土砂崩れで近づけない1か所のみになっているということです。

原子力規制庁は、今後、さらに原因究明を進めて対策を検討するとしています。

可搬型のモニタリングポストを確認している様子

国の原子力災害対策指針では、モニタリングポストで測定された放射線量に応じて、避難などを判断することが定められていますが、2018年の北海道胆振東部地震でも泊原発周辺のモニタリングポストでデータの欠測が相次ぎ、各自治体が通信回線を多重化するなどの対策を取っていたところでした。

環境中の放射能の解析に詳しい名古屋大学大学院の山澤弘実教授は、「原子力災害は、今回のような地震や津波が引き金になって複合災害として生じる可能性が高く、道路の寸断や通信の途絶といった状況でも、対策が機能するかという点が極めて重要だ。ポツポツと欠測が生じた場合は得られているデータから汚染の全体像を把握できるが、今回はある領域全体が欠測し、判断材料が全く得られなくなってしまった点で問題だと考えている。原因を究明して、強じんな防災計画を構築すべきだ」と指摘しています。

避難 計画策定も道路が通行止めに

今回の地震で能登半島では、道路が寸断されたり建物が倒壊したりする被害が数多く発生し、地震と原発事故の「複合災害」になった場合の避難などに大きな課題がつきつけられています。

2011年の福島第一原発の事故のあと、改定された国の原子力災害対策指針では、原発で重大な事故が起きた場合、
▽おおむね半径5キロ以内の住民はただちに避難し、
▽5キロから30キロ以内の住民は、自宅や避難所などの建物の中にとどまる「屋内退避」を行ったうえで、地域で計測された放射線量が一定の値を超えた場合に避難を始めるとされています。

志賀原発の周辺では半径30キロ以内に、およそ6万世帯、15万人近くが住んでいて、石川県と9つの市と町が避難計画を策定し、国道など11本の道路を主なルートに設定しています。

しかし、1日の地震のあと、能登半島から金沢市方面へ抜ける自動車専用道路が全面通行止めになるなど、原発から30キロ以内の国道や県道では主な避難路を含め20か所余りで、少なくとも5日以上は通れない状態が続きました。

加えて、避難計画では原発の北側に住む人は能登半島の先端部に近い輪島市や珠洲市などに避難する想定ですが、そうした地域で道路などにより大きな被害が出ています。

「屋内退避」できない場所も

また、建物の被害も甚大で、志賀原発から30キロ以内で1月20日までにわかっているだけで1万棟を超える住宅が被害を受けています。

このほか、志賀原発の周辺では、避難が難しい人などが集まって屋内退避をするために、放射性物質の侵入を防ぐ空調設備などを備えた施設が20か所整備されていますが、このうち志賀町の1つの施設は建物に被害が確認され、避難所として使用できなくなっているということです。

1月17日の原子力規制委員会の会合では、委員から「家屋が倒壊して屋内退避できず収容する場所もないとなれば問題だ」などと、複合災害が起きたときの屋内退避のあり方をめぐって意見が相次ぎ、委員会は指針の見直しも含めた検討を事務局に指示しています。

完全な復旧 半年以上かかる見通し

志賀原発は、今も外部から電気を受ける系統が一部使えなくなっています。

原子力発電所では、運転を長期間停止している間も核燃料を貯蔵する使用済み燃料プールの冷却を維持するために電源が必要になります。

志賀原発は▽50万ボルトの2回線、▽27万5000ボルトの2回線、▽6万6000ボルトの1回線のあわせて3系統5回線の送電線で電気を受けられるようになっています。

これらの送電線から電気を受けるには、変圧器を通して高い電圧を発電所内で使える電圧に下げる必要がありますが、志賀原発では、50万ボルト送電線から電気を受けるための変圧器が壊れ、現在も使えなくなっています。

また50万ボルト送電線につながる変電所で、絶縁に使うセラミック製の部品が壊れたことから、2回線のうち1回線が使用できない状況で、北陸電力によりますと、部品の交換には半年程度かかるということです。

現在、志賀原発では、▽27万5000ボルトの2回線、▽6万6000ボルトの1回線、あわせて2系統3回線が使える状況で、1号機、2号機ともに27万5000ボルトの系統から電気を受けています。

外部からの電気が受けられなくなった場合に備え、非常用ディーゼル発電機が1号機と2号機にそれぞれ3台ずつ設置されていますが、このうち、1号機の1台は1月17日に行われていた試験運転中に自動停止し、点検が行われています。

停止した非常用ディーゼル発電機

また、2号機の1台は地震発生前から定期的な検査が行われていて、3月末まで使えなくなっています。

北陸電力は、残り4台の非常用発電機は燃料が7日分確保されているほか、電源車もあわせて8台が使える状態だとして、安全上重要な機器を動かすのに必要な電源は確保されているということです。

発電所内の変圧器 耐震性の見直し検討も

ただ、外部の送電線が使える状態なのにも関わらず、発電所内の変圧器が壊れて電気が受けられなくなっていることについては、原子力規制委員会から検証を求める声も出ています。

原発事故後につくられた新しい規制基準では、福島第一原発で地震と津波によってすべての電源を失った教訓から、発電所内に非常用発電機など複数の電源を備えることが求められています。

一方で、外部電源については、送電線など発電所の外の設備に頼ることはできないため、所内の変圧器についても特別な耐震性は求めず、一般の産業用機械と同じ扱いになっています。

規制委員会では、発電所内の設備はもう少し強くしてもよいのではないかという声があり、地震対策の見直しが必要かどうか検討することにしています。