能登半島地震 土砂災害の被害分析 “危険エリア”で被害相次ぐ

今回の地震では「土砂災害」による被害も相次いでいます。

専門家が調査した結果、能登半島地震で土砂災害の被害を受けた建物は、少なくとも34か所にのぼり、8割以上が土砂災害警戒区域内だったことが分かりました。

土砂災害警戒区域は大雨によるリスクを想定したものですが、専門家は地震でも生かせるとして自分のいる場所が警戒区域か確認してほしいと呼びかけています。

大規模な土砂災害の現場は…

大規模な土砂崩れが発生し、複数の住宅が流失する被害が出た輪島市市ノ瀬町の1月22日の様子です。

大量の土砂が流れ込み、流失したとみられる建物も映っています。

土砂災害の建物被害 詳しく分析すると

国土地理院の解析では、今回の地震によって能登半島の2300か所以上で土砂が崩落し、石川県によりますと21日の時点で少なくとも8人の死亡が確認されています。

静岡大学防災総合センターの牛山素行 教授は、珠洲市と輪島市の中部・東部、能登町、穴水町で土砂が崩落した場所を空中写真などをもとに、詳しく分析しました。

その結果、土砂災害で倒壊したり流失したりした建物は少なくとも34か所にのぼり、このうち85%にあたる29か所は、住民の命などに危害が生じるおそれがある「土砂災害警戒区域」内だったことがわかりました。

このうち特に危険性の高い特別警戒区域内にあった珠洲市仁江町の現場では裏山が崩れて複数の人が亡くなりました。

また、記事のはじめでお伝えした輪島市市ノ瀬町でも警戒区域内にあった複数の住宅が流失する被害が出ました。

輪島市市ノ瀬町 被害場所と土砂災害警戒区域の位置関係

土砂災害警戒区域は、もともと大雨によるリスクを把握するためのものですが、今回の調査結果から牛山教授は、地震でも生かせるとしています。

静岡大学 牛山素行 教授
「能登半島は地盤が不安定になっていて地震で再び崩れるおそれもある。避難することで命が助かる可能性もあるため自分のいる場所が土砂災害警戒区域か確認し、区域内では大きな揺れがあったらすぐにその場から離れるなど身を守る行動をとってほしい。区域外でも油断せず土砂災害に備えてほしい」

“揺れたら避難決めていた” 警戒区域内の住人も

土砂災害警戒区域内で暮らす住民の中には、あらかじめ大きな揺れを感じたら山の斜面から離れると決めていて、今回の地震で避難した人もいます。

今回の地震で大きな被害が出た輪島市市ノ瀬町に住む男性は、当時、家族5人で家にいたところ、立っていられないような激しい揺れに襲われたため、揺れがおさまると急いで避難しました。

家の外に出ると木が倒れる音とともに地鳴りがしたほか、土のにおいがしたため、男性は家族と一緒に山の斜面から離れました。

地震からおよそ2分後、大量の土砂が流れくだり、近所の住宅が飲み込まれたということです。

男性の自宅は土砂でせき止められた水が流れ込む被害を受けました。

男性は自宅が土砂災害警戒区域内にあることをふまえ、あらかじめ大きな揺れを感じたらすぐに山の斜面から離れると家族で決めていたということです。

男性
「土砂崩れの危険性がある場所だと認識していなければ、すぐに山から離れようと思わなかったかもしれません。再び土砂が崩れるおそれがあると思うとここにはもう住めないと思っています」

地震による土砂災害 過去にも繰り返し発生

地震による土砂災害は、過去にも起きています。

国土交通省によりますと、2018年に北海道厚真町で震度7の揺れを観測した地震では、崩壊した斜面の面積が44平方キロメートルと、明治以降の主な地震災害では最も規模が大きく、土砂災害の件数は北海道内で227件にのぼりました。

死者は36人、負傷者は61人で、44戸が全壊しました。

また2016年の熊本地震では、熊本県南阿蘇村で熊本市と阿蘇地域を結ぶ阿蘇大橋が崩落するなど、熊本県を中心にあわせて190件の土砂災害が起きました。

これらの土砂災害で10人が亡くなり、住宅被害は全壊が22戸、半壊が5戸、一部損壊が8戸でした。

このほか2011年の東日本大震災でも広い範囲で土砂災害が発生し、19人が亡くなったほか、2008年の岩手・宮城内陸地震では48件の土砂災害が発生し、岩手県一関市では長さ95メートルの「祭畤大橋」が折れ曲がるように崩落しました。この時は岩手県と宮城県で崩れた斜面の土砂が川をふさぐ「河道閉塞」も発生するなどして、18人の死者・行方不明者が出ています。

「土砂災害警戒区域」の確認方法は

自分のいる場所が土砂災害警戒区域かどうかは国土交通省が公開している「重ねるハザードマップ」で確認することができます。

国土交通省の「重ねるハザードマップ」は、土砂災害や洪水のリスクがある場所を1つの地図に重ねて表示することができるサイトです。

トップ画面で画面左上の「災害種別」から「土砂災害」のアイコンをクリックすると、土砂災害のリスクがある場所が地図に表示されます。

このうち、黄色やオレンジが「土砂災害警戒区域」で赤や紫色が「土砂災害特別警戒区域」です。

警戒区域は▽急傾斜地の崩壊と▽土石流、▽地すべりの種類別に色分けされています。

土砂が崩れる危険性があっても住宅などがなければ警戒区域に指定されないことがあるため、自分のいる場所が急傾斜地の近くでないかなどを意識して確認するようにしてください。

土砂災害警戒区域は、「NHK全国ハザードマップ」でも確認できます。

今回の分析手法

今回牛山教授が調査したのは輪島市中部・東部と珠洲市、能登町、穴水町です。

分析には国土地理院が公開している「斜面崩壊・堆積分布データ」を用いました。

崩落した箇所が、地図上に表示されています。

牛山教授はこのデータと地震後に上空から撮影された写真などを突き合わせ、崩落した場所に建物があるかどうかやどのくらい被害が出ているか分析しました。

その結果、建物が大きく壊れたりするなど人的被害が出てもおかしくない規模の建物被害は、少なくとも34か所ありました。

この34か所について国土交通省が公開している「重ねるハザードマップ」を使い「土砂災害警戒区域」に該当するかどうか調べたところ、29か所が警戒区域内でした。

今回は大規模な被害と分かるものだけを抽出しているため、牛山教授は実際の被害件数はさらに多いとみられるとしています。