新年度の年金支給額 2.7%引き上げも実質目減り

ことし4月からの年金の支給額は、物価や賃金の上昇に伴い、2.7%引き上げられることになり、伸び率はバブル期以来で最も高くなりました。ただ、将来の給付水準を確保するため、物価や賃金の伸びよりは低く抑えられていて、実質的には目減りとなります。

公的年金の支給額は、物価と賃金の変動に応じて毎年度改定され、厚生労働省は、ことし4月からの新年度は、去年の物価上昇率が3.2%、過去3年間の名目賃金の上昇率が3.1%となったことを受け、2.7%引き上げると発表しました。

引き上げは2年連続で、伸び率はバブル経済の影響があった1993年度以来で最も高くなりました。

ただ、将来の年金の給付水準を確保するための「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みにより、引き上げ率は賃金の伸びより0.4%低く抑えられ、実質的には目減りとなります。

68歳以下の場合
▽厚生年金は、40年間平均的な賃金で会社員として働いた夫と専業主婦の世帯のいわゆる「モデル年金」で今年度より6001円増え、月額23万483円
▽自営業者らが受け取る国民年金は満額で1750円増え、月額6万8000円になります。

また、
▽69歳以上の人の国民年金は満額で1758円増え、月額6万7808円になります。

保険料を支払う現役世代の減少で、今後も年金は実質的に目減りしていく見通しで、厚生労働省はことし5年ぶりに行う「財政検証」の結果を踏まえ、年金の給付水準の低下を抑える制度改正の検討を進めることにしています。

専門家 “世代間と世代内のバランス保つことが必要”

今回の年金額の改定について、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫 公的年金調査室長は「高齢者は年金が目減りし、苦しい思いをしていると思うが、将来世代が受け取る年金は今よりも目減りが大きくなっていくので、それを抑えるためだと理解してもらう必要がある」と述べました。

そのうえで、今後の制度見直しに必要な視点について「2つの軸があり、1つは世代間の、もう1つは世代内のバランスを保つことだ」と述べました。

そして、世代間の公平性を保つため「マクロ経済スライド」による年金財政の健全化を進めていくとともに、世代内の公平性を保つため、パートなどで働く人をさらに厚生年金に加入しやすくしたり、基礎年金を充実し、所得再分配機能の維持を図ったりしていくことが重要だと指摘しました。

さらに、個人の老後の備えについては「寿命が延びているので働けるうちは働くことが1番な一方、高齢になると健康状態が悪くなるリスクもあるので、税制優遇なども活用しながら、若いうちから少しずつ準備をしていくことも大事だ」と述べました。

そして、漠然と不安を抱くのではなく、将来の年金額を試算できる厚生労働省の「公的年金シミュレーター」を活用するなどして見通しを立てて老後に備えるよう呼びかけました。

武見厚労相“将来にわたって持続的に信頼されることが必要”

武見厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「引き上げ率はここ30年間で最も高い水準で、高齢者の生活を支える役割を果たしていると考える。今後の年金制度改正は『財政検証』を踏まえて議論するが、将来にわたって持続的に信頼されるようにしていくことが必要だ」と述べました。