「家族の負担が…」被災地で在宅介護サービス再開できない状態

「介護の負担が増えて、まいっている」

能登半島地震の被災地で、家族を介護する人たちの声です。

石川県の輪島市と珠洲市では、訪問介護やデイサービスなどの事業所の多くが被災したあと再開できない状態になっていて、地域にとどまる高齢者が介護サービスを受けられなくなっていることがわかりました。

訪問の頻度 1日2回→1回に

訪問看護を受けている高齢者のいる家庭では、今回の地震のあと、訪問の頻度が減り、家族の負担が増えているケースもあります。

石川県志賀町に住む森正幸さんは(75)、脳梗塞を患い寝たきりで会話も難しいことから毎日2回、訪問看護を受けてきました。

以前は看護師が1人で担当していましたが、安全確保のため地震の発生後は2人1組で巡回することとなり、森さんの家への訪問は1日1回になったということです。

家族の負担が増加

森さんの娘2人は、訪問看護が続いていることで助かってはいるものの、回数が減ったことで自分たちで食事や薬を与えたり、たんを吸引したりする必要があり、負担が増えたと話しています。

また、断水によって家事も増えているため、看護と家事の両立を図るために正月で帰省していた森さんの娘がそのまま残ってサポートにあたっています。

娘の柳森佳奈子さん

断水が終われば看護にかけられる時間も増えるので早く復旧してほしい。インフラが復旧するまでは心配で、帰ることはできないと思います。

中能登訪問看護ステーション 中村志帆さん

スタッフも被災しているが出勤できる人から訪問を始めているので、地域を支える訪問看護師として家族と連絡を密にとりながら進めていきたい。

在宅高齢者の健康状態は

輪島市にある訪問介護事業所の「ヘルパーステーションさくら」では、地震の直後から利用者に電話をかけるなどして安否や健康状態の確認を続けてきました。

訪問の際の記録

現在は在宅で避難生活を続けている高齢者5人を対象に訪問介護を再開していて、19日、スタッフが被災した自宅で1人暮らしをしている80代の男性の自宅を訪れたところ、「続く地震への不安から眠れない」と相談を受けたということです。

訪問介護事業所によりますと、このほか、被災から2週間余りがたち、利用者の中には▼支援物資のインスタント食品を食べ続けて栄養状態に不安のある人や、▼畑仕事ができず家に閉じこもりがちになっている人も出ているということです。

介護スタッフの人員も課題

一方で、支援にあたるスタッフの人員も課題です。

本来は6人で業務に当たっていましたが、地震による被害で3人が輪島市内を離れて勤務ができない状態だということです。被災地に残る高齢者も少なくない中、長期的に支援の質を確保できるか不安を抱えているということです。

「ヘルパーステーションさくら」管理者 山下綾花さん
利用者の中には家に閉じこもりがちになり、歩行が難しくなり始めている人もいます。不安を抱えている高齢者はたくさんいるので、人員は限られる中、なんとか支援を続けていきたい。

多くが「サービス停止」

NHKは今月16日から19日まで、高齢者の介護計画をたてる居宅介護支援事業所で輪島市と珠洲市にある事業所のうち、電話で話を聞き取ることができた7か所に取材しました。

その結果、訪問介護やデイサービスなどの事業所の多くが職員の被災や断水、建物の被害などの影響で「サービスを停止している」と答えました。

利用していた在宅の高齢者の多くは地震のあと地域の外の家族のもとや、2次避難所などに避難したものの、一部は地域に残り自宅や避難所などで生活しているということです。

現場のケアマネージャーからは

これについてケアマネージャーからは、以下のような声が上がりました。

「お風呂に入れていないので皮膚トラブルや床ずれが心配だ」

「もともと歩けていたのに1週間ほどの避難所生活で歩きづらくなったという人がいて早くリハビリしないと悪化しないか心配だ」

さらに、このような指摘も複数あがりました。

「介護を担う負担が増して、まいっているという家族の声が届いている」

介護が必要な高齢者がサービスを利用できなくなることの影響については、2020年のコロナ禍にも調査を行いました。

この調査では、デイサービスを1週間以上欠席した利用者741人について、次のような影響が出ていました。

▽歩行機能が悪化:16.8%
▽階段の上り下りがしにくくなった:14.7%

このほか、▼「欠席日数が1か月以上」になると、より悪化する傾向にあることなどが明らかになっています。

介護サービスを利用できない状況が続くと短期間で寝たきりになったり、要介護度が上がる高齢者が増加するおそれもあり、今後、被災地に残った高齢者への介護サービスの提供体制をどう再建するのかが課題となります。

「災害関連死に至ることも」

介護の問題に詳しい東洋大学の高野龍昭教授は、高齢者が介護サービスを受けられない影響について次のように指摘しています。

介護サービスは日々の生活を支えるライフラインの一種であり、使っていたサービスが受けられなくなることで、非常に早いスピードで身体機能が低下したり健康状態が悪化してしまう懸念がある。それまでなんとか生活が成り立っていた人が最終的に災害関連死に至ることも想定される。

被災地の自宅などにとどまる人の状況は見えにくいが、情報収集を進め、定期的に訪問する必要がある。

その上で。

地域外も含め、介護を受けられる環境に移動することが望ましいが、さまざまな事情で被災地にとどまる高齢者にも介護サービスを提供すべきだ。

今、全国から介護職員が派遣され始めているが、施設や2次避難所だけでなく被災地の個々の避難所にも介護職が入り、地域の在宅の高齢者を集めて最低限のケアを提供する仕組みを整える必要がある。