科学・文化

JAXA探査機 初の月面着陸 着陸方法やミッションは?

その降下速度は航空機の7倍にもあたる時速6400キロにもなるという。

精密な制御が求められる月面着陸に、JAXA=宇宙航空研究開発機構の無人探査機「SLIM」が20日未明に挑戦する。

去年、日本のベンチャー企業の着陸船が挑戦したが、月面に落下して失敗。今回成功すれば日本初となる。

月への着陸方法や今回のミッションをまとめた。

着陸スケジュールは

SLIM

「SLIM」は、JAXA=宇宙航空研究開発機構の無人探査機で、月面への精密な着陸技術の実証を主な目的としている。高さはおよそ2.4メートル、燃料を除いた重さがおよそ200キロ。

デジタルカメラなどで人の顔を認識するのに使われる「画像認識」の技術を応用することで、月面のクレーターなど地形情報を識別し、目標地点に誤差100メートル以内で着陸することを目指している。

去年9月に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、4か月ほどかけておよそ38万キロ離れた月に向かって飛行を続けてきた。

今月19日午後10時40分ごろに軌道高度を変更したあと、翌20日午前0時ごろから着陸に向けて降下を開始し、およそ20分かけて着陸する計画だ。

速度は航空機の7倍

降下を開始する時の「SLIM」のスピードは、航空機の7倍にもあたる時速およそ6400キロ。進行方向と逆に噴射することで急激に減速しながら、およそ800キロ先にある着陸地点を目指す。

着陸地点までは搭載しているカメラで撮影した月面の画像をもとに、クレーターの形などを抽出し、地図のデータと照合。機体の位置を推定してズレなどを修正し、より正確に着陸できるよう「画像照合航法」で制御しながら近づいていく。

着陸地点の上空に近づくと、高度およそ3.5キロから高度や障害物などを確認しながらさらに降下。月面に近づくと小型ロボット2機を分離してから着陸する計画となっている。

新技術で挑む ピンポイント着陸

月面にはクレーターなどが存在し、地形が複雑なところもある。傾斜地や凹凸が激しい場所では着陸の難易度が高くなるため、これまでは障害物が少ない平坦な場所に着陸することが一般的だ。

今回「SLIM」の着陸予定地点は、「SHIOLI」と呼ばれるクレーターの付近で、斜度がおよそ15度の傾斜地。

斜面への着陸にあたり、倒れ込みながら着陸する「2段階着陸方式」と呼ばれる新しい技術で挑むことにしている。

「2段階着陸方式」のシミュレーション

「2段階着陸方式」は、衝撃吸収材を装着した短い5つの着陸脚を使い、まず機体を前に傾けながら主脚が月面に接地した後、倒れ込んで補助脚で着地し安定させるという方法で、傾斜地でも安全に着陸できるようにしたという。

「SLIM」プロジェクト 坂井真一郎プロジェクトマネージャ
「これまでの着陸は、転ばないよう脚を広げながら立つように降り立つイメージだが、『SLIM』ではあえて倒れ込み、ひざや手をつくことで転倒しないように着陸するイメージです。私が知るなかでこのような例は他になく、かなりユニークな方法だ」

さらに今回は、着陸予定地点と着陸した場所との距離の誤差を100メートル以内にとどめる「ピンポイント」での着陸を目指している。これまでの各国の探査機では誤差が数キロ単位だったことからはるかに高い精度での着陸となる。

JAXAによると、月面着陸の成否は20日の明け方までに明らかになるものの、誤差100メートル以内での「ピンポイント着陸」に成功したかどうかは、データを精査した上でおよそ1か月後に発表されるという。

「『ピンポイント』での着陸は、これから月や天体の探査で、かならず必要になる技術だと感じている。これまでもシミュレーションをするなどして考え尽くしているが、本当に見落としはないのか今でも考える。着陸までの最後20分はわれわれにとっては長くて短い20分になると思う」

着陸後のミッション “月の起源探る”

着陸後、「SLIM」は月の起源を探る探査を行う予定だ。

探査の鍵を握るのはJAXAや立命館大学、会津大学などのチームが開発した「マルチバンドカメラ」と呼ばれる重さ4キロほどの特殊なカメラ。

マルチバンドカメラ

「SLIM」に搭載された「マルチバンドカメラ」には、10種類の特殊なフィルターが装着されていて、反射した光の波長を解析することで、鉱物の種類や成分が分かる。

月の誕生については、地球に別の天体が衝突したことがきっかけで、およそ46億年前にできたとする「ジャイアントインパクト説」が有力とされていて、衝突によって地球のマントル=岩石の層などが周囲に飛び散り、月が作られたと考えられている。

今回、着陸を予定しているエリアには、かつて月の内部にあった鉱物の一種「カンラン石」が地表に露出しているとみられ、月のマントルの成分が地球と似ていることが確認されれば、「ジャイアントインパクト説」を裏付ける証拠の1つとなる。

太陽の熱で月の表面温度が上がるとカメラが使用できなくなるため、着陸後測定できるのは数日間に限られる見込みだ。

去年11月 訓練のようす

限られた時間内でのスムーズな運用が鍵となることから、去年11月には滋賀県でカメラの運用を模擬した訓練が行われた。

訓練では、同じタイプのカメラを動かし、撮影する範囲を変える手順のほか、カメラで撮影したデータをもとに遠隔で明るさなどを調整する訓練をしていた。

立命館大学宇宙地球探査研究センター 佐伯和人センター長
「月の起源などをめぐってはさまざまな説があるものの、人類はこれまで月のマントルを観測したことはなく、明らかになっていないことが多かった。探査結果は、月や地球の起源を考える多くの研究者のモデルに大きな影響を与える」

このほか「SLIM」には、2つの小型ロボットも搭載されていて、これらは着陸直前に分離された後、それぞれが搭載されている広角カメラを使って、月面などを撮影することにしている。

“月の水”で過熱する競争

月をめぐっては、東西冷戦のさなか、1950年代の終わりから1970年代中ごろにかけて、旧ソビエトのルナ計画やアメリカのアポロ計画で探査が活発に行われた。

その後、近年の研究で、月の北極や南極など太陽の光があたらない場所では、高い確率で水が氷の状態で存在することを示す論文が相次いで発表されたことを受けて、月を宇宙開発の拠点としようと各国で探査する動きが激しくなっている。

去年8月には、インドが月探査機「チャンドラヤーン3号」を月の南極付近に着陸させ、旧ソビエト、アメリカ、中国に次いで世界で4か国目に月面着陸を成功させた。

民間企業による月着陸船の開発も行われていて、いずれも着陸には成功していないが、今月8日にはアメリカの民間企業が月着陸船を打ち上げたほか、去年4月には日本のベンチャー企業「ispace」も月着陸船を打ち上げ、着陸に挑戦した。

「ispace」の着陸船は高度を誤って認識したことが原因で、着陸に失敗していて、高度を認識するシステムの改修などの対策を講じたうえで、次の打ち上げをことし中にも行い、民間企業として世界初の月面着陸を目指している。

また、アメリカが中心となり、月を人類の宇宙への進出の足がかりとする国際プロジェクト、「アルテミス計画」も進められている。

アポロ計画以来、およそ半世紀ぶりとなる、有人の月面探査を目指していて、第1段階としておととし、宇宙飛行士を乗せずに打ち上げられた宇宙船「オリオン」は、月を周回する25日間の試験飛行を行い、無事帰還した。

今後、▽月面や将来の火星探査に向けた中継基地として、月を周回する新たな宇宙ステーション「ゲートウェイ」を建設するほか、▽2026年9月を目標に宇宙飛行士が月面への着陸を行う計画だ。

国際競争が激しくなる中で、月面着陸に挑戦するJAXAの無人探査機「SLIM」。高い精度での月面着陸を成功させ、日本の存在感を示せるか。注目の挑戦が迫っている。

(科学文化部記者 平田瑞季)

最新の主要ニュース7本

一覧

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

特集

一覧

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

スペシャルコンテンツ

一覧

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

ソーシャルランキング

一覧

この2時間のツイートが多い記事です

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

アクセスランキング

一覧

この24時間に多く読まれている記事です

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。