甲府 夫婦殺人放火事件 当時19歳被告に死刑判決 特定少年に初

3年前、甲府市で一方的に好意を寄せていた女性の住宅に侵入し、両親を殺害して住宅を全焼させたなどとして殺人や放火などの罪に問われた当時19歳の被告に対し甲府地方裁判所は「年齢を最大限考慮しても、刑事責任は重く、更生の可能性も低い」などとして、求刑どおり死刑を言い渡しました。

18歳と19歳を「特定少年」と位置づける改正少年法がおととし施行されて以降、「特定少年」に死刑が言い渡されたのは初めてです。

甲府市の定時制高校に通い当時、19歳だった遠藤裕喜被告(21)は、3年前の10月、一方的に好意を寄せていた女性が暮らす市内の住宅に侵入し、50代の両親を殺害したほか住宅を全焼させたなどとして殺人や放火などの罪に問われました。

これまでの裁判では検察が責任能力はあったとして死刑を求刑したのに対し弁護側は責任能力が著しく減退していた心神こう弱の状態だったなどとして死刑にしないよう主張していました。

18日、甲府地方裁判所で開かれた裁判員裁判で三上潤裁判長は「非常に悪質で強固な殺意に基づく冷酷な犯行だ。十分な計画性があり、動機も自己中心的で理不尽だ。遺族に真摯な謝罪もない」と指摘しました。

その上で「19歳であるという年齢を最大限考慮しても、刑事責任の重大性や、更生の可能性の低さから死刑を回避する事情にはならない」などとして求刑どおり死刑を言い渡しました。

被告は死刑が言い渡された瞬間、大きく2回うなずきました。

そして最後に裁判長は「考えることをあきらめないでください」とはっきりとした口調で被告に語りかけました。

18歳と19歳を「特定少年」と位置づけた改正少年法がおととし施行されて以降、「特定少年」に死刑判決が言い渡されたのは初めてです。

NHKは、今回の事件について、重大性や悪質性、社会に与えた影響などを総合的に検討し、起訴された特定少年を実名で報道しています。

弁護士「控訴は被告と協議」

死刑判決を受けて被告の弁護士の1人、藤巻俊一弁護士は「こちらの主張が認められなかったので非常に遺憾です。控訴は被告と協議をして決めます」と述べました。

甲府地検「適正な判決得られたと考えている」

甲府地方検察庁の田渕大輔次席検事は「検察官が裁判で主張した内容が事実認定、量刑ともに認められたかたちで適正な判決を得られたものと考えている」としています。

開廷時の被告の様子

午後2時5分ごろ被告は刑務官らに伴われながら法廷に入りました。

上下とも黒っぽいスーツを着て白いマスクをつけていました。

弁護士の後ろに設けられた席に座る前に傍聴席を見渡す様子も見られました。

開廷が告げられると裁判長から被告に対して証言台の前に移るよう促され、表情を変えることなくゆっくりとした足取りで進むと席につきました。

傍聴者は

18日の判決の言い渡しを65席の傍聴席を求めて抽せんの受け付けには426人が訪れ、倍率は、およそ7倍でした。

これまでに21回行われた裁判のほぼすべてを傍聴した50代の女性は「どうしてこれほどひどい事件になってしまったのかを詳しく聞いてみたいと思い傍聴してきましたが、被害者には落ち度がなく、聞けば聞くほど納得がいかない事件でした。裁判官と裁判員がどのような判決を下すのか、判決を決めたのはどのような理由だったかを聞きたいです」と話していました。

被告と同年代の21歳の女性は、「自分と同じような年齢の人がどうして罪を犯したのか、傍聴して確かめたいと思いました。被告も家庭環境などで大変な思いをしていたと思う一方、事件を起こしたことは、到底容認できないと思うので、特定少年という特例がどのように関わってくるのか注目したいです」と話していました。

事件当時10代被告への死刑判決 これまでのケースは

事件当時10代の被告に死刑が言い渡されたケースはこれまでにもあります。
【1968年】
市民4人を射殺した当時19歳の永山則夫元死刑囚の事件。
【1992年】
千葉県市川市の住宅に押し入って一家4人を殺害した当時19歳の被告の事件。
【1994年】
大阪、愛知、岐阜で暴行を加えて男性4人を殺害した当時18歳と19歳の3人の被告の事件で死刑が言い渡されました。
【1999年】
山口県光市で主婦と幼い女の子を殺害した罪に問われた当時18歳の被告の事件でも死刑が言い渡されました。
【2010年】
宮城県石巻市で2人を殺害するなどした当時18歳の被告の事件では、裁判員裁判が始まってから初めて死刑が言い渡されました。

裁判員務めた男性「罪と向き合い 反省と後悔考えて」

判決のあと、この裁判で裁判員や補充裁判員を務めた4人が報道各社の取材に応じ、現在の心境を述べました。

60代の裁判員は「生い立ちの話を聞かれた被告が、涙を流す姿が一番印象に残った。被告には事件の被害者に対して申し訳ないという気持ちを持ってほしい」と話していました。

裁判員を務めた66歳の男性会社員は「19歳という年齢だけでなく善悪の判断がついているかを考えて判断した。自分の罪と真摯に向き合い、反省と後悔について考えてもらいたい」と話していました。

補充裁判員を務めた31歳の男性公務員は「冷静に判断しようと臨んだが、悲惨な事件の証拠を法廷で見るのはつらかった。不謹慎かもしれないが肩の荷が下りた気持ちとなんともいえない気持ちが混ざっている」と話していました。

補充裁判員を務めた21歳の女子大学生は「被告と同じ年齢として裁判に向き合わなければいけないと考えながら参加した。判決が正解なのかは実際にはよくわからないが、今後、二度とこのような事件が起こらないことを願っている」と話していました。

専門家「刑を軽くする事情少ないと評価の結果の結論」

元裁判官で少年法に詳しい立教大学元教授の廣瀬健二さんは、判決について「非常に凶悪で結果も重大なので、死刑になる可能性も相当程度ある事件だと受け止めていた。判決は、生育過程でゆがみが生じてしまった面は認めているが、責任能力に影響するほどの障害ではないと判断した。犯罪の重大性と、刑を軽くする事情が少ないと評価した結果、死刑という結論になったのだと思う」と分析します。

また、被告が事件当時19歳のいわゆる「特定少年」だったことについては、20歳に近い年齢で、刑の重さを考慮する大きな要素になったとはいえないと指摘したうえで、「昔から、少年であっても刑事裁判の対象になれば、成人と同じように審理が行われてきた。『特定少年』の導入によって審理のしかたが変わったわけではないが、本人が未熟かどうか、法廷での態度などを見ながら配慮して審理を進めてきたのではないか」と述べました。