「一律の支援では届かない」福祉器具・物資届けるサイト開設

例えば、このスポンジ。

見慣れない方が多いと思いますが、実は介護現場では、口の中をケアするために日常的に使われるものです。ケアがおそろかになると命に関わることもあり、届くのを待つ人たちが被災地にいます。

必要なものが必要な人へ届くよう、新たなプロジェクトが動き出しました。

件名【緊急】

1月6日のお昼すぎ。

1通のメールが、都内で福祉支援団体の理事を務める澤田智洋さんのもとに届きました。

件名には「緊急」と書かれ、石川県の団体からでした。

そこには、被災した地域で暮らす“障害のある人や高齢者が必要としている支援物資”が一覧になってまとめられていました。

「行政からの一律の支援の中では、提供の予定もしばらくありません」

メールにはそのような内容も書き記されていたということです。

一般社団法人「障害攻略課」理事 澤田智洋さん
「中には、いわば“ニッチ”な福祉機器などもあり、これは個別に入手経路を確保しないと、なかなか現地に届かないなと感じたんです」

必要とされているものは

不足しているものの1つが、冒頭でもご紹介した「口腔ケアスポンジ」です。

高齢者や障害がある人の口の中のケア=「口腔ケア」をするため、介護や福祉の現場で日常的に使われています。

口腔ケアがおろそかになると、繁殖した細菌が誤って肺に入ることで起きる「誤えん性肺炎」のリスクも高まります。「誤えん性肺炎」になると、発熱したり呼吸が難しくなったりして、最悪の場合は死に至ることもあります。

障害がある人や高齢者にとっては、命を守るためにも必要で大切な物資なのです。

このほかにもリストには、障害者や高齢者がいない家庭では、使われないものが多く含まれていました。

リストに記載された被災地で不足しているもの(※一部)
・補聴器用電池
・大人用オムツ
・杖
・車いす
・床ずれ防止シート
・携帯筆談機

届け、被災地へ

こうした現状を受けて澤田さんが理事を務める団体は、今月10日に新たなサイトを開設しました。

被災地の福祉施設などで足りない物資を金沢市のNPO法人が集約した上で、自治体ごとにリスト化したものが掲載されています。

支援したい場合は通販サイトを通じて被災地に送ることができる仕組みです。

珠洲市、能登町、輪島市、それに志賀町の自治体ごとに、必要な物資が、具体的な商品名と必要な個数とともに掲載されています。

例えば「杖」や「車いす」といっても種類は多様ですが、必要とされている商品名まで具体的に聞き取っているため、現地のニーズとのずれがないよう徹底されています。

澤田智洋さん
東日本大震災の時には、必要ではない物資が届けられたり、逆に過剰に送られすぎたりと、善意の気持ちでかえって被災地の負荷があがってしまったという過去があります。

被災地のニーズと善意がマッチしないとお互いが不幸になりますが、今回の仕組みでは、本当に現地で必要とされているものを、ピンポイントで過不足なく直接送ることができます。

支援の輪は瞬く間に広がり、これまでに約4000個の物資の支援が寄せられました。

物資が次々と被災地に届いている

“有事”だからこそ…

澤田さんはこれまで、石川県内の地域のバリアフリー化をはじめ、社会に存在するさまざまな「障害」を解消するためのコンサルティング事業などに取り組んできました。

今回の取り組みを通じて、感じたことがあると言います。

澤田智洋さん
平時のとき、どれだけ“多様性が重要”とか“インクルーシブ”だと言っても、自分と違う他者のことを知るのには手間も時間もかかる。けど今回、有事の中で、被災した人に思いをはせて『知りたい』と思う人たちがいて、逆説的になるけれど有事だからこそ、障害のある人や高齢者が日頃こういう日用品が必要なんだということが伝わり、理解の促進にもつながったのではないかと思う。さらに当事者の方々への理解が進むような一助になっていきたいと強く思います。