中国 去年のGDP伸び率 +5.2% 目標達成も景気回復力強さ欠く

中国の去年1年間のGDP=国内総生産の伸び率は前の年と比べてプラス5.2%となりました。中国政府の5%前後という目標は達成しましたが、前の年が「ゼロコロナ」政策によって低成長にとどまった反動もあり、景気回復は力強さを欠く状況が続いています。

中国の国家統計局が17日、発表した去年1年間のGDPの伸び率は、物価の変動を除いた実質で前の年と比べてプラス5.2%となりました。

中国政府が掲げていた去年の経済成長率のプラス5%前後という目標は達成した形です。

ただ、前の年が厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策によってプラス3%と低成長にとどまった反動もあり、景気回復は力強さを欠く状況が続いています。

去年の成長率をめぐっては李強首相が16日、スイスで開かれている通称「ダボス会議」の演説で、プラス5.2%前後になる見通しだと、17日の公表前に異例の言及をしていました。

また、去年10月から先月までのGDPの伸び率は、前の年の同じ時期と比べてプラス5.2%となった一方、前の3か月間と比べた伸び率はプラス1.0%となり、回復の勢いは減速しました。

中国では不動産市場の低迷の長期化や、厳しい雇用情勢を背景に内需が停滞するなど、景気の先行きに不透明感が広がっていて、中国政府がどこまで効果的な対策を打ち出せるのかが焦点となります。

生産は堅調も消費鈍化 不動産市場低迷

中国の国家統計局がGDPと合わせて発表した主要な経済指標では、企業の生産は堅調な一方、消費の伸びが鈍化したほか、不動産市場の低迷が続いていることが改めて示されました。

このうち、先月の工業生産は、EV=電気自動車の需要拡大などを背景に自動車の生産が伸びたことなどから、前の年の同じ月と比べて6.8%のプラスとなり、伸び率は前の月の6.6%から拡大しました。

去年1年間では前の年と比べて4.6%の増加と増加幅は拡大しました。

一方、先月の消費の動向を示す「小売業の売上高」は前の年の同じ月と比べて7.4%のプラスと、10.1%だった前の月から伸びが鈍化しました。

去年1年間でみると、前の年に比べて7.2%の増加となり、マイナスだった前の年からプラスに転じました。

また、去年1年間の不動産開発投資は前の年と比べてマイナス9.6%と、2年連続の落ち込みとなりました。

さらに、先月の新築の住宅価格指数は、主要な70都市のうち、88%余りにあたる62都市で前の月から下落しました。

下落した都市の数は前の月から3都市増えていて、不動産不況が一段と広がっていることが浮き彫りになりました。

マンションの建設工事 止まるケース相次ぐ

中国国内では不動産開発会社の資金繰り悪化で、マンションの建設工事が止まるケースが相次いでいます。

内陸部、湖南省常徳の郊外には、経営難に陥っている不動産最大手「碧桂園」が手がけるマンション群があります。

小学校の向かいという通学に便利な立地で、建設が完了したマンションにはすでに多くの住民が入居しています。

一方で、マンション群の中には窓や扉がなく、外壁や内装の工事に着手していない区画もあります。

平日の昼間も作業員の姿は見られず、現場には資材や重機が置かれたままになっていて、建設会社の警備員は「工事は今も止まったままだ。詳しい話は当局や碧桂園に聞いてほしい」と話していました。

地元当局によりますと、この区画の建設工事は、碧桂園から工事を請け負った建設業者への支払いが滞ったことから、中断を余儀なくされたということです。

碧桂園は地方都市を中心に、一時は3000以上の建設プロジェクトを手がけていましたが、不動産市場の低迷で一部の債務でデフォルト=債務不履行に陥るなど、資金繰りが急速に悪化していて、各地で工事の中断や遅れが相次いでいます。

引き渡し始まったマンションは

中国内陸部、江西省南昌にあるマンションは、デベロッパーが経営難に陥り、2021年8月に建設が中断しました。

購入者の間では住宅ローンの返済拒否運動が起きましたが、その後、政府の住宅の完成を後押しする政策のもと、工事が再開し、去年11月末に引き渡しが始まりました。

2020年に物件を購入したという50代の女性と長男は、今月、引き渡し後、初めて物件を訪れました。

女性は住み込みで家政婦をし、長男も工場に住み込む形で働いています。

工事が中断して以降は、引き渡しがされるかどうかも分からないまま、建設現場で働く夫の収入も合わせ、ローンの支払いを続けてきたといいます。

それだけに、まずは引き渡しにこぎ着けたことに安どしているといいます。

女性は「よくも悪くも引き渡しがされてよかったです。ここ何年かの我慢や待っている間のつらさははかりしれません」と話していました。

しかし、完成したマンションの前を通る道は舗装もされず、ゴミが散乱しているほか、商業スペースもテナントはほとんど入っていません。

さらに、マンションの建物にはひび割れや隙間などが目立つほか、一部の住民によると、室内の設備の故障などのトラブルは入居した人たちが自分で修理しているといいます。

購入した男性は「期待している基準には達しておらず、約束されていたことが全く実現されていないが、今の現状を受け入れるしかない」と話していました。

中国政府 物件引き渡しを後押し

中国では住宅の建設が止まり、物件の引き渡しが行われない事態が相次ぐ中、購入した人が住宅ローンの返済を拒否する動きが1年半ほど前、全国的に広がりました。

これを受けて中国政府は、建設が中断した物件の完成と引き渡しを金融面から後押しする「保交楼」と呼ばれる政策をおととし8月から始めました。

これまでに、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が3500億元、日本円でおよそ7兆円にのぼる特別融資枠を設定し、銀行を通じて不動産開発会社に融資して、資金繰りを支えることで全国で工事の再開を進めてきました。

その結果、去年8月の時点で、引き渡しが完了した物件数は、政府の計画の60%にあたる165万戸にのぼるということです。

政府は引き続き、建設が中断した物件の引き渡しを最優先の課題として取り組む方針を示していて、中国人民銀行は特別融資枠をことし5月末まで続けると発表しています。

ただ、国内で未完成のまま、放置されているマンションは2000万戸にのぼるという推計もあるほか、不動産開発会社を中心に資金繰りの悪化は止まっておらず、不動産市場の改善には時間がかかるという指摘が出ています。

若者の失業率 半年ぶり公表

中国の国家統計局は、より正確に実態を反映するよう見直す必要があるとして、公表を停止していた若者の失業率を半年ぶりに公表しました。

それによりますと、先月の16歳から24歳までの若者の失業率は14.9%となりました。

公表停止前の去年6月は21.3%と、過去最悪を更新していましたが、今回から、これまで対象に含めていた学生を除いた形に改めました。

国家統計局は「学生を対象に含めた場合、社会で仕事を探している若者の雇用と失業の状況を正確に反映することができないためだ」と説明しています。

【専門家Q&A】中国の景気の現状と先行きについて

中国の景気の現状と先行きについて、丸紅中国の鈴木貴元 経済研究チーム長に話を聞きました。

Q.今回のGDPの結果についてどう評価しているか。
A.2023年はコロナ禍が終わり、景気が急速に回復するという期待感が高まる中、実際の生産や消費活動の戻りとのかい離から、中国経済への懸念が広がった。
結果的には5%程度と予想された成長は達成でき、まずまずの結果だったのではないか。
ただ、中身を見ると、満足いかないものも多く、大きくいうと経済が二極化している。
消費や投資、個人や企業など、さまざまなところで二極化が進み、勝ち組が少なく、負け組が多いという課題があらわになった1年だったと思う。

Q.不動産市場の低迷が懸念材料になっているが、政府の対策は成果をあげていると思うか。
A.不動産は中国政府が去年からディベロッパーへの対策や不動産販売について対策を打ってきたが、なかなか半年間でよい結果を得られたとは言えない。
ディベロッパーへの信用不安が広がって、新築住宅が売れず、さらに在庫が積み上がって、ディベロッパーが苦しむという悪循環が起きていて、解決には時間かかる。
政府にとって決定的に打つ手がないというのが正直なところだ。
そこから来る圧力や悪いムードは中国経済全体に影響を及ぼしかねず、そこは懸念しなければならない。

Q.ことしの中国経済の見通しは。
A.ことしの経済成長率の見通しは4%台後半とみている。
中国政府が国債の発行量を増やし、公共投資などが刺激されるほか、減税も続くため、需要が刺激されることをプラスとして評価している。
その一方で、サプライチェーンの維持のため、投資し過ぎた部分、例えば、去年ブームになったEVや電池などは急速に生産能力が上がって、競争が激化している。
価格が下落して、とう汰の動きが広がるなどして成長率を引き下げる。
二極化の弱い部分が経済の足を引っ張ることが考えられ、マイナス材料が多いと思っている。

Q.世界経済や日本経済への影響は。
A.海外経済への影響は投資の部分から来るところが大きい。
中国の投資は素材や設備機械の輸入を左右し、特に設備機械で言えば日本や韓国、台湾、ドイツへの影響が大きくなる。
また、中国国内の需要が弱くなってくると、中国の消費者物価が上がりにくくなってくる。
中国国内で売れなくなった商品を低価格で輸出することになると、デフレの輸出になりかねない。
中国の商品と競合する商品を作っている会社などは苦しい展開になるところもあるのではないか。