ビッグモーター不正請求 損保ジャパン最終報告書 経営責任焦点

ビッグモーターによる保険金の不正請求問題で、損害保険ジャパンの対応について調査委員会がまとめた最終報告書が公表されました。コンプライアンス体制が機能不全を起こしていたことが要因だったとした上で、親会社についても主体的・指導的姿勢が乏しく、リスクへの感度が低かったなどと厳しく指摘していて、今後は、経営責任を含めた対応が焦点となります。

この問題では、おととし7月に損害保険ジャパンの経営陣がビッグモーターに不正の可能性があることを認識していながら、追加調査をせずにいったん中止していた取り引きを再開したことなどが明らかになっています。

16日に公表された外部の弁護士による調査委員会の最終報告書では、役員らのリスク認識が決定的に乏しかったとした上で、コンプライアンス体制が機能不全を起こしていたことが最大の制度的要因だったとしています。

また、問題が発生した場合でも親会社のSOMPOホールディングスをあてにすることなく自己完結的に解決を図ろうという志向が強かったとしました。

さらに、SOMPOホールディングスについても、特段の追及や主体的な情報収集も行わず、受け身の姿勢に終始しており、主体的・指導的姿勢が乏しく、リスクへの感度が低かったと指摘しています。

この問題では、去年9月の記者会見で損害保険ジャパンの白川儀一社長が辞任を表明し、SOMPOホールディングスの櫻田謙悟グループCEOは、調査結果を踏まえて責任について判断する考えを示しています。

金融庁は両社に対して月内にも保険業法に基づいて業務改善命令を出す方向で調整していて、経営責任を含めた対応が今後の焦点となります。

調査委員会 最終報告書

取引再開の背景は

損害保険ジャパンは2022年7月、経営陣がビッグモーターに不正の可能性があることを認識していながら、追加調査をせずに、いったん中止していた取り引きを再開しました。

これについて報告書では、「真の顧客利益を忘れ、他の損保会社への並々ならぬ対抗心も手伝い、トップラインないしシェア確保という当社都合・代理店対応を優先する意識が存在していた」と指摘。

そして、「役員らのリスク認識が決定的に乏しかった。コンプライアンス体制が機能不全を起こしていたことが最大の制度的要因だった」などと結論づけました。

なぜ損害査定を簡略化

不正の温床になったのではないかと指摘されている、2019年にビッグモーターに対応するチームを設けて損害査定を簡略化したことについても調査が行われました。

損害保険ジャパンにとって、ビッグモーターは重要な保険代理店でしたが、報告書では、他社との競争の激化でビッグモーターからの収入のシェアを落とす中、ビッグモーターの要望に応じてしくみの検討が加速したとしています。

社内からは、ビッグモーターの工場の品質が十分ではないとして反対の声もあったものの、担当の部長らが全社方針であるなどとして導入が必要であると、説得していたということです。

出向者と不正の関係は

損害保険ジャパンは、2004年11月から2023年3月までの間、ビッグモーターに43人を出向させていて、今回の問題と関係があるかどうかも焦点の一つとなっていました。

これについて、報告書では、「関係資料等の精査やヒアリング等の結果、出向者が本件不正請求に関与していた事実は認められなかった」と結論づけています。

ただ、「出向者の中には、以前から、ビッグモーターによる不正請求やその可能性を認識していた者がいて、所管部に報告がされていたものの、今回の問題が発覚するまで、社内で問題として認識されることがなかった」とも指摘しています。

親会社との意思疎通

報告書では、親会社のSOMPOホールディングスとの意思疎通のあり方にも言及しています。

この中では、「損害保険ジャパンは問題が発生した場合でもその自負によりSOMPOホールディングスをあてにすることなく自己完結的に解決を図ろうという志向が強かった。他方、SOMPOホールディングスは祖業である損害保険ジャパンに対する過信があったことも、両社間の適時・適切な意思疎通が不十分になっていたことに影響していたであろうことは想像に難くなく、こうした意思疎通の在り方がグループガバナンスの実効性を阻害する要因となっていた」と強調しました。

さらに、SOMPOホールディングスについては、「損害保険ジャパンの報告を真に受けて不審点、不十分な点について特段の追及、主体的な情報収集も行わず、受け身の姿勢に終始しており、主体的・指導的姿勢が乏しく、リスク感度は低かったと言うほかない」と指摘しました。

結語

72ページに及ぶ報告書では「結語」として、次のように総括しています。

「担当者などから、ビッグモーターによる不正請求の兆候を指摘する声が以前からあったにも関わらず、そうした声は経営層まで伝わることはなく、結果として顧客本位の発想に立った経営判断ができなかった。損害保険ジャパンにおいて、SOMPOグループが掲げる『お客さま視点』はうわべだけのものにすぎなかったのではないかとの見方をされても致し方ない。『お客さま視点』とは何かを見つめ直し、経営トップを始め、従業員および役員が一丸となって再発防止に励み、常に真の顧客本位を実現できる企業ないしグループとなることを強く期待したい」。