気象・災害
石川「輪島塗」生産再開見通せず “ほぼすべての職人が被害”
「輪島塗」は、江戸時代に今の技法が確立され、国の重要無形文化財にも指定されています。
漆器店や職人などで作る「輪島漆器商工業協同組合」によりますと、今回の地震による被害について全容は把握できていないものの、「朝市通り」の火災によって一部の工房や店舗が焼失したほか、作業に使用していた機械や道具が壊れたり、漆などの原材料が使えなくなったりするなど、「輪島塗」の生産に関わるほぼすべての職人が被害を受けているということです。
「輪島塗」は完成まで120を超える工程を経て作られていて、大きな工程ごとに専門の職人が作業する分業制となっています。
職人から職人へつなぐ形で生産を行ってきたこともあり、「輪島塗」の生産再開は全く見通せない状況だということです。
組合の事務局長を務める隅堅正さんは「火災で12の事業所が焼失したと見られます。倒壊や全壊に近い壊れかたをした事業所も複数あり、従事していた2、3人が亡くなったという話も聞いています」と話していました。
そのうえで「まずは各事業所の被害状況を確認し、いまできることは何かを考えたいです。この地震をきっかけに事業を辞める人が出ないよう、組合としてさまざまな施策を講じたい」と話していました。
職人見習いの女性は
輪島塗の職人の見習いをしている余門美晴さん(23)は、輪島市の「朝市通り」の火災で父親が営む工房が全焼しました。
これまで使ってきた道具や作業場もすべて焼けたため、生産再開のめどは全く立っていないといいます。
余門さんは「震災のあと家を見に行きましたが、何もなくなってしまっていて、涙が出ました。父もショックが大きく泣いていました。これまで頑張ってきた両親に、どのように声をかけたらいいかわからなかったです」と話していました。
余門さんは被災前から家業を継ごうと、県立の輪島漆芸技術研修所で「蒔絵」と呼ばれる漆を使った伝統的な装飾技法を学んでいました。
しかし、地震によって研修所は使えない状況です。
それでも余門さんは、1日でも早く、再び輪島塗の技術を学びたいと、毎日研修所に通って片付け作業を手伝っています。
余門さんは「両親が輪島塗を作るのを見て育ってきたので、自分も跡を継ごうと思っています。いま、自分にできることはこれしかないので、先生たちの補助をして、学校が再開するまでお手伝いしていきたいです。この環境で仕事を辞めてしまう人も多いと思うので、復興に向けて作業し、作品を作って頑張っている姿を見せたい」と話していました。
若手職人らが再開へ向け義援金募集
生産再開を目指す取り組みも始まっています。
若手の職人などで作る輪島漆器青年会の会長を務める大工治彦さん(36)の工房でも、漆を乾燥させる機械が壊れるなど被害に遭いました。
生産の再開が見通せない中、青年会では1月6日からSNSを通して深刻な被災の状況を発信し、復興のための義援金の募集を始めました。
募集開始とともに「1日も早く復興されることを願っています」などといった応援のメッセージが寄せられ、早速義援金を振り込んでくれた人もいたということです。
大工さんは「輪島塗を復興させるためには、職人たちがどうにか仕事に復帰できるようにしなければならず、自分たちでお金を集めないといけないと思い、見切り発車的に募集させてもらいました」と話していました。
青年会では義援金の募集を続けるとともに、今後、被害を免れた作品を持ち寄って即売会を開き、売り上げを復興資金に充てる計画も検討しています。
大工さんは「この厳しい状況をなんとかチャンスに変えて復興につなげていきたい」と話していました。