新井部長によりますと、筑波大学は1月6日から10日まで災害派遣精神医療チーム(DPAT)として現地入りしたということで、活動した隊員から「避難所で認知症の方が少し不安定になり、ケアを要している人がいる」と報告を受けたということです。
また、現地の精神科の病院からも「認知症の症状が不安定になった方の入院依頼が数件ある」と聞いているということです。
情報が少なく、現地の状況が分からないことも多いですが、今後ますます認知症の方への対応が求められてくるのではないかと、新井部長は指摘します。
【動画解説】避難所で過ごす認知症の人と家族 課題や支援は?
1月1日の地震で被災した石川県の能登半島では、高齢化率が50%を超える自治体もあり、避難所にも多くの認知症の人がいるとみられます。
そこで、災害で認知症の人に起きる可能性があることや、今できることについて、認知症の専門医で筑波大学附属病院認知症疾患医療センターの新井哲明 部長に聞きました。
※1月14日正午のニュースで放送した内容です。
※動画は6分38秒。データ放送ではご覧になれません。
被災した認知症の人の現状は
被災や避難で認知症の人に現れる症状は
認知症の人は、環境の変化に弱いです。
自宅から避難所に移るという大きな生活環境の変化やストレスで、怒りっぽくなることがあります。
また、新しいことを覚えるのが苦手なので、例えば避難所のトイレの場所が分からずトイレを探し回ったり、慣れない環境から「家に帰りたい」と考えて動き回るといった行動が「はいかい」と受け取られることがあります。
このほかにも、精神的に不安定になることで不眠の症状が出ることもあり、DPATの隊員からは「避難所で認知症と思われる方が夜間ずっとしゃべっていて、周りの人が寝られない」という報告もあったということです。
行政 支援者 一緒に避難している人ができることは
新井部長は、避難所で認知症の方が安心できる環境を整えることがまず第一だと指摘します。
できれば専用のスペースを確保したいところですが、難しい場合は、仕切りを作るだけでも本人たちが安心できる環境になり、落ち着くことがあるということです。
また、顔見知りの人が近くにいるということも、認知症の方の心の安定につながることがあります。
周りの人の理解ある関わり方が大事で、まずは避難所に認知症サポーターや介護経験のある人がいないか確認して、避難所全体で認知症の方をケアしていけるような体制を整えられるとよいと、新井部長は考えています。
さらに、介護をしている家族も非常に疲弊していて、東日本大震災の時の調査では、避難所に移って3日目ぐらいで本人も家族も非常に疲労が強くなるというデータがあります。
介護をしている方にも声かけをしてサポートしてあげる。例えば、介護をしている方がトイレに行くとか用事のためにその場を離れて、認知症の人が1人になってしまうという時に、周りの人が認知症の人と一緒にいておしゃべりをする、そういうことだけでもだいぶ違うということです。
専門家 “助けを求めることが大切”
新井部長は、家族に「頑張りすぎないでほしい」と呼びかけています。
認知症の人とその家族が今後、1次避難所にずっといるのは限界があるので、2次避難所に移動する。あるいは、一時的に介護施設にショートステイという形で認知症の方を預けて、その間に家族だけの時間を作って、今後のことを冷静に考える時間を持つことも大事だと指摘します。
新井部長は「認知症の本人も、その家族も我慢をせず、無理をしすぎないこと。周囲の人に、認知症の人がいるということを伝えて、助けを求めることが大切です」と話していました。