地震後も株価上昇なぜ? 33年ぶりの3万5000円台【経済コラム】

能登半島地震の被害が次々に明らかになり、不安が覆う中で迎えた、ことしの最初の東京株式市場の取り引き。日経平均株価は、一時700円を超える下落で始まりました。しかし、その後は一転して上昇基調となり、12日にはバブル期以来、33年11か月ぶりに3万5000円台後半を回復しました。その要因を探ります。(経済部記者 佐藤崇大)

年明けの株式市場

年初の取り引きとなった1月4日。日経平均株価は大幅下落で始まりました。

取引開始直後には700円以上値下がり。能登半島地震で大きな被害が出ていることが投資家心理の重しとなりました。

ところが翌日以降、株価は反転。連休をはさんでも上昇を続け、12日には3万5000円台後半を回復しました。

12日までの5営業日で2300円近く値上がりしました。

株価上昇、その要因と背景は

【要因 その1】
株価上昇の要因として指摘されているのはまず、半導体産業の成長への期待です。

世界最大規模のテクノロジー見本市「CES」が9日からアメリカのラスベガスで開幕。

世界の4000以上の会社が、生成AIなど最先端の機器やサービスを発表し、その基盤となる半導体産業への注目度が高まっています。

CESの開催に合わせて、アメリカの半導体大手エヌビディアが量産を計画している新製品を発表したこともあり、ニューヨーク市場では、ハイテク関連の銘柄が多いナスダックの株価指数の上昇基調が続きました。

これを受けて東京市場でも半導体関連の銘柄が大きく値上がりしています。

能登半島地震で被害を受けた地域にも半導体関連の企業の工場があります。

このうちKOKUSAI ELECTRICは、富山市の工場で天井や壁の一部が壊れ、年初は株価が下落したものの、生産を再開した9日以降は上昇傾向にあります。

【要因 その2】
日米の金融政策の見直しの時期が後ろにずれるという見方が出たことも要因です。

能登半島地震の影響もあって、日銀が早い時期に金融緩和策を修正するとの観測が後退。

一方、アメリカでは、5日に発表された雇用統計や11日発表の消費者物価指数が、いずれも市場予想を上回る結果となり、FRBが早期に利下げするのではないかという見方が弱まりました。

FRB パウエル議長

日米の金利差が改めて意識され、外国為替市場で1日には一時、1ドル=140円台後半だった円相場は、12日の午後3時現在で1ドル=145円台と、円安ドル高が進み、東京株式市場では自動車などの輸出関連の銘柄に買い注文が広がりました。

日本経済に課題は

市場関係者の多くは「この株価上昇はバブルではない」と話します。

去年以降の株価の上昇基調には、足もとの要因に加え、日本経済の前向きな変化を背景にした投資家の積極的な姿勢があるとしています。

上場企業の今年度の最終利益は、円安で輸出が好調なことに加え、原材料の値上がりを商品価格に転嫁する動きが進んだことなどから、3年連続で過去最高を更新する見通しです(TOPIXの構成銘柄を中心にSMBC日興証券が集計)。

春闘を前に、大手企業を中心に賃上げを表明する動きも相次いでいて、物価も賃金も上がる経済の好循環が実現し、デフレから完全脱却することへの期待が高まっているといいます。

SMBC日興証券の太田千尋投資情報部部長は、「東証が去年3月に資本コストや株価を意識した経営を上場企業に求めたことを受けて、日本企業の意識に変化の兆しが見えることも投資家の期待を集めている」と話します。

一方、去年は、最上位の市場である東証プライムに上場する企業でも、ガバナンスの問題が相次いで明らかになりました。

また、上場企業ではありませんが、トヨタ自動車の子会社であるダイハツ工業による国の認証取得の不正問題も経済界を揺るがしています。

企業はガバナンス面を含めて本当に変わるのか。

そして、稼ぐ力を示し、デフレ脱却という投資家の期待をつなぎ止められるのかが、ことしの株価をめぐる1つの焦点となるように思います。

また、いまだ被害の全容が見えない能登半島地震は、日本が災害リスクと常に隣り合わせにあることを改めて浮き彫りにしました。

企業の成長力を測る要素の1つとして、サプライチェーンの確保など、事業継続に向けた取り組みへの関心も高まりそうです。

注目予定

経済指標の予定以外にも、東京証券取引所の発表に注目です。

東証は上場企業に「資本コストや株価を意識した経営に向けた対応」を要請していますが、具体的な取り組みを開示している企業名を15日から公表します。

企業の改革がどれだけ進んでいるのかを判断する1つの指標となります。

また、東証が毎週木曜日に発表する、「投資部門別売買動向」では、年明け以降、海外投資家や日本の個人投資家がどれだけ日本株を買っていたかが明らかになります。