あすから共通テスト 痴漢あおる投稿相次ぐ 受験生守る行動を

13日から大学入学共通テストが始まり、受験シーズンが本格化するなか「テストに遅刻できない」という受験生の心理につけこんだ痴漢の被害が懸念されています。警視庁は、主要な駅などで警戒を強化するとともに、痴漢を見つけた際には周囲が声をかけるなど受験生を守る行動をしてほしいと呼びかけています。

“痴漢チャンスデーは共通テスト”と投稿

警視庁によりますと、数年前から受験シーズンになると、SNSに「痴漢し放題」などと、受験生を狙った痴漢をあおるような投稿が相次いでいて、例えば、今月8日には旧ツイッターの「X」に「痴漢チャンスデーは共通テスト」と投稿されました。

痴漢に遭っても受験を優先しようと被害を申告しづらい受験生の心理につけこんだものとみられ、警視庁はサイバーパトロールを行ってこうした投稿を見つけしだい、「痴漢は重大な犯罪行為で許されない。犯罪に対して警察は検挙の措置を講じる」などと返信する形で警告しています。

警視庁が去年検挙した痴漢は11月末の時点で759件に上り、このうち65%が電車の中での被害でした。

検挙件数は、2021年1年間の434件に比べておよそ1.7倍に増加していて、新型コロナの5類移行に伴い、人流が回復したことで大幅に増えているとみられます。

また、時間帯別では午前7時台と8時台の朝の通勤通学の時間が最も多く、警視庁は、受験会場に向かう混雑した電車中での被害が特に懸念されるとしています。

被害に遭った女性「被害の確率下げるため自衛を」

高校生のときに痴漢の被害に遭ったという25歳の女性が当時の経験を語ってくれました。

殿岡たか子さん(仮名・25)が最初に被害に遭ったのは高校に入学して2日目の朝、通学中の電車内でした。

そのときの状況について「手がずっとぶつかってくるな、満員電車で揺れてるからこういうこともあるのかなと思っていたら、手の甲だったのが手のひらになってきて、だんだんお尻をつかむような動きをしてきたので、初めて痴漢だと気付きました。まさか自分が痴漢に遭うとは思っていなかったですし、恐怖で頭が真っ白になってしまいました」と話しました。

学校の教諭に相談し、登校時は「女性専用車両」に乗るようにしましたが、下校時は「女性専用車両」がなく、ほぼ毎日のように被害に遭ったといいます。

殿岡さんは「痴漢があまりにも続くと、だんだん自分の心を守るために傷つくのをやめたくなってしまい、自分の体はそんなに大事ではないと思ったり、自分は痴漢の道具になったんだと思い込んで、心を守ろうとしたこともありました」と振り返りました。

警察にも相談し、自衛のために防犯ブザーや「痴漢です。やめてください」と自分の声を録音したぬいぐるみを持ったりしましたが、怖くて鳴らせませんでした。

そうしたなかで「一方的に痴漢されるのではなく絶対に捕まえてやるんだ」と考え、実際に高校2年の春ごろに初めて痴漢を取り押さえることができましたが、警察に事情を聞かれる時間や再現写真を撮る時間が苦痛で、そもそも痴漢に遭わないようにすることが大切だと思うようになったといいます。

受験シーズンは「遅刻したくない」と被害を申告しづらい受験生の心理につけ込んだ痴漢の被害が懸念されていることについては「受験生は特に人生の大事な局面で、何にも邪魔されたくないと思いますが、痴漢はそうした状況をわかって被害者を襲う、すごくひきょうな手口です。本来なら被害者が頑張ることではないですが、少しでも被害に遭う確率を下げるためにできる自衛をしてほしい」と話していました。

痴漢に遭わないために

殿岡たか子さんは高校生のときに痴漢の被害に遭った経験から「痴漢に遭いたくない」「痴漢に遭ったら絶対に泣き寝入りしない」という意思を示してかばんなどに付ける「痴漢抑止バッジ」を考案し、現在は「痴漢抑止活動センター」でバッジの普及を進めています。

殿岡さんに、電車で試験場に向かう際のポイントを聞きました。

被害に遭わないためにできる対策としては
▽電車に乗る前に周囲を確認する
▽電車内の立ち位置に気をつける
▽できれば制服ではない服装で行くことを心がけてほしいといいます。

電車に乗る前には
▽女性専用車両がないか確認したり
▽痴漢は駅のホームでターゲットを選ぶケースがあるため
 ホーム上に不審な人がいたら離れた車両を選んだりすること。

また、電車内では、ドア付近や座席横の角になる場所は避けて、できるだけ人目につきやすい座席エリアまで進んだうえで、立ち姿にも気をつけてほしいといいます。

殿岡さんは「私自身もそうでしたが、怖くて自信をなくすと猫背になってしまいます。痴漢は抵抗しなさそうな人を選ぶので『私は抵抗するぞ』というのを姿勢から示すのが有効で、背筋を伸ばして立つということを意識してほしい」と話しました。

さらに、制服を着ていると受験生だと思われる可能性があるため、可能なら私服で試験会場に向かってほしいとしています。

殿岡さんも、制服と私服で痴漢の被害に遭う頻度が違ったといい、制服を着る場合は、スカートの下に運動着を履くことも有効だということです。

痴漢に遭ってしまったら

では、被害に遭ってしまったときはどうすればいいのか。

殿岡さんは恐怖を感じて動かないと行為がエスカレートするため、手で振り払ったり、声を出したりしてほしいといい「もし偶然当たっているのであれば振り払われたら基本的には二度と触ってこない。『あたっています』とか『やめてください』と言ってそれでも偶然を装って触ってくるのであれば確実に痴漢です。満員電車ではなかなか難しいですが、距離を取れるのであれば取ってほしい」と話しました。

また、乗っている車両や時間、立っていた位置を覚えておくと、警察から被害の状況を聞かれる際に役に立つということです。

殿岡さんは受験生に対して「受験に行く途中で痴漢の被害に遭ってしまったら絶望してしまうかもしれませんが、受験に関しては救済措置もあることを頭に入れておいてほしいです。被害に遭わないように対策をして、もし被害に遭ったときのことも事前にシミュレーションして会場に向かうことが大切だと思います」と話していました。

警視庁 見回りの人員増やすなど警戒強化

受験シーズンに懸念される痴漢を防ごうと、警視庁は鉄道各社と連携して駅構内や電車内での見回りの人員を増やすなどして警戒を強めています。

今月9日に東武東上線・池袋駅で行われたイベントでは、警視庁の二宮健生活安全総務課長が「昨今、受験生に対する痴漢行為をあおる書き込みが多く確認されていて、痴漢撲滅の機運を高めて高校生を守る必要がある。誰でも被害に遭うおそれがあり、周囲が痴漢に遭遇した際には声をかけて被害者を守る行動を取ってほしい」と呼びかけました。

痴漢の被害者から「怖くて声が出ない」とか「逃げることもできない」といった声が寄せられたことを踏まえ、警視庁では、防犯アプリ「Digi Police」に声を出さなくても痴漢の被害を周囲に訴えられる機能を設けています。

具体的には「痴漢です助けてください」という文字を画面に表示させて周囲に示すことができるほか、画面をタップすれば「やめてください」と自動で音声が流れる仕組みです。

このアプリを利用することで犯人の検挙につながったケースもあるということで、警視庁は、痴漢の被害者や目撃者になった場合に備えて「お守り代わり」としてアプリをダウンロードしてほしいと呼びかけています。

一方、大学入学共通テストを実施する大学入試センターは、試験場に向かう途中に痴漢の被害に遭った場合は追試験の対象となることから、受験票に記載されている「問い合わせ大学」に、速やかに電話で連絡してほしいとしています。

加藤こども相「被害なら追試対象 相談を」

加藤こども政策担当大臣は、閣議のあとの記者会見で「痴漢は重大な犯罪だ。個人の尊厳を踏みにじる行為で決して許されるものではない。もし共通テストの会場に行く途中に被害に遭った場合は追試験の対象になる。被害に遭ったり目撃したりしたときはちゅうちょせず周りの人に助けを求めるなどして110番してほしい。被害者は決して悪くないので、1人で悩まず相談してほしい」と述べました。