能登半島の高齢者施設 人手不足でケア行き届かず 現場は疲弊

NHKが1月5日から12日にかけて、石川県の能登半島にあるおよそ60の高齢者施設に取材したところ、ほとんどの施設で断水が続き、高齢者へのケアが行き届かない状態が長期化しているほか、施設の職員も被災する中で深刻な人手不足で現場が疲弊しつつあることがわかりました。このままでは高齢者の体調悪化が懸念されるとして、他の施設に移すなど早期の対応を求める声が上がっています。

NHKは、1月5日から12日にかけて輪島市や珠洲市、七尾市など、能登半島の9つの市と町にある高齢者施設のうち、合わせておよそ60の施設に電話で取材しました。

その結果、ほとんどの施設で地震から10日以上たっても断水が続いていて、入浴ができないほか、トイレも使えず、おむつや簡易型のトイレで代用しているという声が聞かれ、衛生環境が整わない中で、感染症への懸念の声も上がりました。

さらに、暖房が使えない施設も複数あり、職員がペットボトルにお湯をいれて作った即席の湯たんぽを入所者に配り対応しているという施設もあるなど、高齢者の体調悪化を不安視する声も上がっています。

このほか、高齢者を支える職員も被災し、多くの施設が限られた少数の職員で入所者に対応せざるをえない状況となっていて、時間の経過とともに職員が疲弊している現状もあるということです。

施設の担当者からは
▽「厳しい環境のなかで職員も体調を崩し始めている」とか
▽「支える側の体力がどれぐらいの期間もつのか不安がある」
といった声も聞かれました。

ボランティアの介護職員を被災した施設に送る動きも一部で始まっていますが、NHKが11日までに取材した範囲では、応援の職員が来ることが決まっている施設はほとんどなく、施設職員をどう支援していくのかも課題となっています。

高齢者へのケアが行き届かない状態が長期化する中、今の状態で施設内で高齢者を見続けることには限界があるとして、石川県内では被災した施設に入所している高齢者をほかの施設へ移す動きも出始めていますが、
▽要介護度の高い高齢者が移送に耐えられるかや
▽移送先の環境に適応できるか不安視する声もあり
きめ細かい対応が求められています。

穴水町 特別養護老人ホーム 停電や断水 職員寝泊まりして働く

震度6強の揺れを観測した石川県穴水町の特別養護老人ホームでは、今も停電や断水が続いています。

施設の職員は自分も被災しながらも、施設に寝泊まりしながら働いていて、一刻も早い支援が求められます。

穴水町、唯一の特別養護老人ホーム「能登穴水聖頌園」では、入所者と職員は全員無事でしたが、地震から10日以上たった12日もなお停電や断水の状態が続いています。

建物の一部は壊れ、施設につながる道路が寸断して、発災から4日ほどは孤立状態になっていたということです。

12日の朝食は、支援物資などで手に入った米と野菜を使って、簡易コンロで雑炊をつくって食べてもらったということです。

施設では、断水が続いていることから入浴ができず、体をボディーシートで拭くなどして対応していますが、衛生管理が大きな壁となっています。

また、洗濯ができず、下着類やおむつ、生理用品などの衛生用具も足りていないということです。

さらに、施設の職員は、みずからも被災しながら働き続けています。

地震の前、この特別養護老人ホームや関連の施設ではおよそ100人が働いていましたが、自宅が被害を受けたり、道路状況が厳しかったりして出勤できない職員もいて、現在は6割程度の人数で運営しています。

家が倒壊して、施設に寝泊まりしながら働いている職員がいるほか、避難所から通勤してくる職員もいます。

元日から一日も休めていない人も多く、非常に厳しい状況だということです。

また、施設で働くインドネシア人実習生16人は、宗教上の戒律で豚肉由来のものが食べられず、支援物資の食品も食べられるものが限られるため、パンを食べるなどして対応しているということです。

施設長の殿田和博さんは「水が出ないのが何よりも厳しい状況です。職員もまだ頑張れるといってくれていますが、十分に休めず、お風呂にも入れず、限界が来ていると思います。少しでも支援があるとありがたいです」と話していました。

輪島 特別養護老人ホーム 別施設への移送始まる

石川県輪島市の特別養護老人ホームでは、建物が被害を受け、入所者全員が廊下で過ごすなどの厳しい状態に置かれていましたが、11日から県内の別の施設への移送が始まっています。

輪島市の特別養護老人ホーム「福祉の杜 わじま」では、介護を必要とする入所者27人が入所していましたが、今回の地震で建物の一部が被害を受けたほか、今も断水や停電が続いています。

被害の影響で入所者がいた部屋はドアの開け閉めがしにくくなっていて、職員の目が届きやすくなることもあり、入所者は全員、ベッドごと部屋を出て、廊下で過ごしていました。

限られた職員で最低限の介護しか提供できない中、施設からの要請を受けて県が調整した結果、入所者全員を金沢市や小松市などの施設に移送することが決まりました。

11日から入所者の移送が始まり、12日朝も、90代の女性が施設の職員から「寒かったね、ごめんね」などと声をかけられながら、車に乗せられ、金沢市の施設へと向かっていました。

峰岸洋介施設長は「限られた職員で、入所者の命を守っていくには限界があったので、安全な地域の施設に移送することが決まり感謝しています。施設を早く復旧させて、入所者と職員が元どおりの生活を送れるようにしたい」と話していました。

この施設では、12日午前中までに10人の入所者が別の施設に移送されたということです。

武見厚労相 “応援職員派遣 ほかの施設への避難 調整急ぐ”

これについて武見厚生労働大臣は閣議のあとの記者会見で「限られた人員で懸命にケアを提供してもらっているのが現状だ」と述べ、全国の高齢者施設から応援の介護職員を募集し、被災した施設や避難所に派遣する取り組みを進める考えを示しました。

その上で「命と健康を守り、災害関連死が生じないようにするためには、ほかの施設への避難を優先させる判断も必要だ」と述べ、石川県や隣接する県と協力して、ほかの地域の施設への避難に向けた調整を急ぐ考えを示しました。