【解説】台湾総統選挙のポイント 候補者の主張 中国との関係は

4年に1度行われる台湾総統選挙。

中国と対立する与党と、中国との交流拡大などを訴えて政権交代をめざす2つの野党の候補者の争いです。

立候補者の横顔、主張、それに選挙の仕組みなど、押さえておきたいポイントをまとめました。

立候補者は

台湾総統選挙には、与党・民進党の頼清徳(らい・せいとく)氏、最大野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏、野党第2党・民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏の3人が立候補しています。

選挙戦は中国との関係が大きな争点の1つとなる中、民進党の頼氏が野党の2人をリードしているとみられます。

ここからは3人の横顔や主張を見ていきます。

民進党 頼清徳氏

与党・民進党の頼清徳氏は64歳(1959年10月6日生)。

台湾北部の今の新北で炭鉱労働者の家庭に生まれました。

幼いころに父親を亡くし、苦学して内科を専門とする医師になりました。

1996年のいわゆる「台湾海峡ミサイル危機」を契機として政界に入り、1998年から4期連続で国会議員にあたる立法委員を務めました。

2010年には、台湾のなかで大都市として位置づけられる「直轄市」となった台南の初代市長に当選し、2014年の市長選挙でも72.9%という高い得票率で再選されました。

その後、高い実務能力と人気を買われ、2017年に、1期目だった蔡英文政権の首相にあたる行政院長に就任しました。

そして、前回・4年前の総統選挙に、副総統候補として蔡総統とコンビで立候補して当選し、その年の5月から副総統を務めています。

日本とは、立法委員や台南市長を務めていた時から交流があり、2022年7月には東京を訪問して安倍元総理大臣の葬儀に参列しました。

台湾メディアによりますと、現職の副総統が外交関係のない日本を訪問したのは、1985年に当時の李登輝副総統が訪れて以来で、極めて異例でした。

頼氏は何を訴えているのか

頼氏は中国との関係について「台湾は中国の一部だ」という中国の主張を認めず、アメリカなどとの関係強化によって中国を抑止しようという現職の蔡英文総統の路線を引き継ぐ姿勢です。

「防衛力、経済、そして民主主義陣営との協力を強めることで抑止力を発揮させる。戦争に備えることによって戦争を避ける」と主張しています。

行政院長在任中に「自分は現実的な台湾独立工作者だ」などと発言したことがありますが、副総統に就いてからはこうした発言はせず、「台湾を守り、国の経済を発展させ、人々を幸せにする。これが『現実的な工作者』が努力すべきことだ」などと主張しています。

一方「台湾は中国の一部だ」と主張する中国当局は、頼氏の過去の発言などをとらえて頼氏のことを「独立派」や「トラブルメーカー」などと名指しで非難し、警戒感をあらわにしています。

また、中国当局は「広範な台湾同胞が民進党当局の宣伝の欺まん性を見破り、平和か戦争か、繁栄か衰退かを正しく選択すると信じている」と強調し、圧力のさらなる強化を示唆しています。

頼氏は、2023年10月に行われたNHKのインタビューで、蔡政権のもとで途絶えている中国との公的な対話の再開について「台湾が対等に尊重されるのであれば、協力を進めたい」と述べましたが、「中国と交渉したいから主権を譲り渡すというわけにはいかない」と強調していました。

一方、日本との関係については「全方位で協力したい」と述べ、とりわけ、観光をはじめとする人的な交流、貿易や投資、水素エネルギーの開発、それに安全保障を挙げました。

そして「インド太平洋地域の平和と安定は全世界共通の責任だが、最も鍵となる役割を果たす国は第1に台湾、第2に日本だ。中国の脅威にわれわれが最も近いからで、できる協力はすべて行うべきだ」と述べ、具体的な内容への言及は避けながらも、日本が安全保障分野で台湾との協力をいっそう深めることに期待を示しました。

国民党 侯友宜氏

最大野党・国民党の侯友宜氏は66歳(1957年6月7日生)。

台湾南部・嘉義県の出身で、地元の高校を卒業後、警察幹部を養成する学校に進んで警察官になりました。

警察組織で順調に出世を重ね、2006年、民進党政権のもとで警察トップの警政署長に40代の若さで抜てきされました。

2010年、北部の新北で国民党の市長からの要請を受け副市長に就任し、2018年と2022年の選挙で、市長に2期連続当選しました。

台湾で有権者が最も多い市での高い人気から「次の総統」に推す声が強まり、国民党の総統候補に擁立されました。

日本との関係をめぐっては、侯氏は2023年夏、国民党の創始者・孫文にゆかりのある都内の施設を訪れたほか、国会議員や窓口機関の日本台湾交流協会の関係者との会談などを通じて日本を重視する姿勢を示しています。

侯氏は何を訴えているのか

侯氏は中国との関係について「民進党政権が中国との武力衝突の危機をもたらしている」と述べ、防衛力を強化しながら中国との交流を密にして衝突のリスクを下げると主張しています。

国民党の指導部が主導した党派色の強い政治運動や中国寄りと見なされる勢力と距離を置くかのような穏健な姿勢が目立っていましたが、2023年7月、中国が台湾との公的な対話の再開の前提条件としている「92年コンセンサス」について受け入れを明言しました。

「92年コンセンサス」は、1992年に中国の共産党政権と当時の台湾の国民党政権が「中国大陸と台湾が1つの中国に属することを確認した」とされるもので、これをもとに中台関係を改善し、習近平国家主席と史上初めての中台首脳会談を行った馬英九前総統の路線の継承を鮮明にしました。

さらに、コンビを組む副総統候補に中国大陸から移り住んだ「外省人」2世で、テレビ司会者として有名な趙少康氏を据えるとともに選挙戦で中国との対話や交流の拡大を訴えることで、党の支持層を固めていると指摘されています。

2023年8月に行われたNHKのインタビューでは「馬英九前総統が唱えた『統一せず、独立せず、武力行使せず』という方針で、両岸が安定していた、以前の『現状維持』に戻す」と述べ、中国との関係を、前の国民党政権の時のような安定した状態に戻すという考えを示していました。

侯氏は、経済や教育などの分野で中国との交流拡大の必要性を訴え、2023年11月にはFTA=自由貿易協定にあたる「経済協力枠組み協定」の協議再開や中国人観光客の受け入れ、それに中国人学生の台湾留学と台湾での就職を進める政策を打ち出しています。

日本との関係については「日本はアジア太平洋地域全体の秩序の中で非常に重要な国だ。台湾も日本としっかりつながり地域の秩序に協力する重要な役割を演じたい」と述べ、日本との間でFTAの締結を含め、経済的にもより緊密な関係を築きたいという意欲を示しています。

民衆党 柯文哲氏

野党第2党・民衆党の柯文哲氏は64歳(1959年8月6日生)。

台湾北部の新竹の出身です。

地元の高校を卒業後、大学の医学部に進学して外科医になり、大学の付属病院で外科や救急医療などの専門医として勤務するとともに、教授も務めました。柯氏の発言は、歯にきぬ着せぬものだとして既存政党に不満を持つ人たちからの支持を得ていて、特に若い世代に人気があるといわれています。

柯氏は2014年、国民党に有利な地盤とされる台北の市長選挙に無所属で立候補し、当時、与党だった国民党の新人に得票率で15ポイント以上の差をつけて初当選しました。

台北で無所属の市長が誕生したのは、1994年にいまの直接選挙が導入されて以来初めてでした。

その後、台北市長として2期8年間務め、2019年には民衆党を結成してトップの主席に就任。

柯氏は2023年6月に日本を訪問し、総理大臣経験者を含む与野党の国会議員と台湾海峡情勢などについて意見を交換したほか、都内の大学で講演するなど、日本との関係を重視する姿勢を示しています。

柯氏は何を訴えているのか

民衆党は、台湾の議会・立法院で与党の民進党と最大野党の国民党に次ぐ議席数をもつ野党第2党です。

2023年11月、民衆党と国民党は政権交代の可能性を高めようと、柯氏と侯友宜氏のどちらかに候補者を一本化することで合意しましたが、その後の調整で双方とも譲らず、一本化はなりませんでした。

柯氏は中国との関係について「民進党は中国から相手にされず、国民党は中国に従順すぎる」と2大政党を批判し、文化や経済の分野を先行して中国との交流を進めるとしています。

柯氏は中国が台湾との公的な対話の再開の前提条件としている「92年コンセンサス」について受け入れを明言していません。

ただ、かつて「台湾海峡の両岸は1つの家族」と発言し、台北市長として上海で開かれた都市間交流事業に参加するなど、中国との対話に積極的な姿勢をアピールしてきました。

「今の民主的で自由な政治体制と生活様式を保つという前提のもとで、対等で尊厳あるやり方で大陸と対話を進めたい」と述べる一方で「国の安全を相手側の善意に完全に預けるわけにはいかず、十分な防衛力を持たなければならない」として、防衛費をGDP=域内総生産の3%に引き上げると主張しています。

このほか、アメリカと中国との関係をめぐっては「台湾の総統は米中対立の駒になるのではなく、米中間の意思疎通の架け橋になることを望む」と強調しています。

柯氏は2023年6月に行われたNHKのインタビューで、李登輝政権時代には月に1回ほどのペースでアメリカと日本と台湾の高官が安全保障についての対話を行っていたと指摘しました。

その上で、「米日台の対話の枠組みは非常に重要だ。特に台湾と日本はもっと緊密につながるべきだ」として、総統に当選すれば、3者の高官による安全保障対話を定期的に行いたいという考えを示しています。

台湾総統選挙の仕組み

台湾の総統は、政治体制の民主化が進んだ1996年の選挙から、有権者一人ひとりによる直接投票で選出されています。

今の台湾の憲法では総統と副総統を同時に選出すると定めていて、各政党の総統候補と副総統候補はコンビを組んで立候補し、得票数が最も多い一組が総統と副総統に選出されます。

任期はいずれも4年で、再選は1回のみに制限されていて、総統は最長で2期8年続けることができます。

台湾では、20歳以上に選挙権が認められていて、中央選挙委員会が1月9日に発表した総統選挙の有権者数は1954万8531人です。

投票は原則として有権者の戸籍地にある投票所で行うことになっていて、期日前投票や不在者投票はありません。

また、海外在住の人も台湾に戻って投票日に選挙権を行使するよう憲法で定められています。

このため、4年に1度の総統選挙の投票日には海外から台湾に戻ってきたり、台湾の中で戸籍地に行ったりする人の姿が見られ、こうした人たちの「大移動」も注目されています。

投票所は各地にあわせて1万7700か所あまり設けられ、投票が締め切られたあと、そのまま開票所となり、即日開票されます。

また、総統選挙を定めた法律では、選挙の結果、当選者と次点の候補の得票差が有効票数の0.3%以内の場合、次点の候補が投票日後7日以内に再集計を求めることができるとしています。

注目の副総統候補

各政党の総統候補と副総統候補がコンビを組んで立候補する台湾の総統選挙。

今回は、副総統の立候補者たちも注目を集めています。

横顔を見ていきます。

民進党 蕭美琴氏

民進党の蕭美琴(しょう・びきん)氏は52歳(1971年8月7日生)。

母親はアメリカ人で、日本の神戸で生まれました。

アメリカに留学後、20代で党本部の役職に抜てきされました。

その後、国会議員にあたる立法委員を通算4期務めましたが、このうち2016年の選挙では、国民党の地盤である東部の花蓮県で民進党の候補者として初めて過半数の票を獲得しました。

蕭氏は蔡総統からの信頼が厚く、2020年からは台湾当局の駐米代表を務めていました。

2021年のバイデン大統領の就任式に台湾の駐米代表として断交後初めて正式に招待を受けたほか、2022年の当時のペロシ下院議長の台湾訪問などで重要な役割を果たしました。

アメリカとの関係を強化した蕭氏の外交スタイルについて、台湾のメディアは蕭氏がネコ好きであることに引っかけ「戦猫外交」と呼んでいて、中国の強気な外交姿勢「戦狼外交」と対比しています。

総統候補の頼清徳氏は蕭氏を副総統候補とすることで、蔡総統が進めてきた台湾とアメリカの関係強化の路線を継承する姿勢を示しています。

蕭氏について、中国当局は「故意に対立をあおり、台湾海峡の平和と安定を破壊した」などと非難していて、中国訪問を禁じるなどの制裁措置をとっています。

国民党 趙少康氏

国民党の趙少康(ちょう・しょうこう)氏は73歳(1950年11月16日生)。

中国大陸から台湾に逃れた国民党の軍人の家庭に生まれました。

学生時代に国民党に入り、中国共産党と台湾独立に反対する活動に従事した趙氏は、1981年の台北市議会議員選挙で一躍、注目される政治家となり、国会議員にあたる立法委員や、内閣にあたる行政院で環境行政のトップも務めました。

1993年、当時の李登輝総統が進めていた台湾の独自性を重視する「本土化路線」に反対し、新党を結成しましたが、1994年の台北市長選挙で、のちに総統になる民進党の陳水扁氏に敗れ、徐々に政界から離れました。

その後は、ラジオ局の経営や、人気がある政治討論番組の司会者として存在感を保ち、今回の総統選挙への立候補を視野に、2021年に国民党に復党しました。

国民党は総統候補に、父親も台湾出身の侯友宜氏を選び、中国大陸から台湾に渡ったいわゆる「外省人」2世の趙氏が副総統候補として、中国との関係強化を重視する支持層を固める役割を担う形となっています。

民衆党 呉欣盈氏

民衆党の呉欣盈(ご・きんえい)氏はアメリカ生まれの45歳(1978年5月18日生)。

金融や百貨店などを手がける台湾有数の企業グループの創業者の孫で、グループの保険会社の副社長などを務めました。

2020年に行われた国会議員にあたる立法委員の選挙で、民衆党の比例代表の名簿に掲載され、2022年11月、同じ党の立法委員の辞職に伴って繰り上げ当選しました。

総統候補の柯文哲氏が呉氏を副総統候補としたのは、イギリスで証券会社のアナリストとして勤務した経歴など、海外経験や金融の専門知識をもつ点で補完関係があると判断したためとみられます。

立法院のウェブサイトなどによりますと、呉氏は2010年に、女性の起業などを支援する中国の団体から「傑出した中国の100人の女性企業家」に選ばれています。

これまでの総統選挙

台湾の総統選挙は、1996年から直接投票で行われ、いずれも中国との関係が大きな争点のひとつとなり、激しい選挙戦が行われてきました。

◎1996年 初の直接投票 李登輝氏が初当選

政治体制の民主化が進み、初めて直接投票が行われた1996年の選挙では、中国が台湾の独立に向けた動きだとみなして強く反発し、台湾の近海に向けてミサイルを発射するなど、大規模な軍事演習を繰り返しました。

これに対し、アメリカは台湾海峡に空母2隻を派遣するなどして、緊張が高まりました。

選挙の結果は、当時の国民党の李登輝総統が、台湾の民主化や経済面での実績とともに、中国に屈しない姿勢を強調した結果、過半数の票を獲得して当選しました。

◎2000年 陳水扁氏が初当選 台湾で初の政権交代

2000年の選挙では、国民党が分裂する中、長期政権による弊害を批判し改革の必要性を訴えた野党・民進党の陳水扁氏が当選し、台湾で初めての政権交代が実現しました。

◎2004年 投票日の前日に銃撃事件 陳水扁氏再選

2004年の選挙は、当時の民進党の陳水扁総統と、国民党トップの連戦(れん・せん)主席による激しい選挙戦となり、投票日の前日に陳水扁総統が銃撃される事件が起こりました。

そうした中でも、翌日の投票は予定通り行われ、陳水扁総統がわずか0.2%、およそ3万票の僅差で再選しました。

◎2008年 馬英九氏が初当選 国民党が8年ぶりに政権を奪還

2008年の選挙では、国民党の馬英九氏が、中国との関係改善を公約に掲げて当選し、国民党が8年ぶりに政権を奪還しました。

◎2012年 馬英九氏再選 蔡英文氏を破る

2012年の選挙では、当時の国民党の馬英九総統が、中国との関係改善を通して経済成長をもたらしたなどと1期目の実績を強調し、民進党のトップだった蔡英文氏を破って再選しました。

◎2016年 蔡英文氏が初当選 台湾で初の女性総統誕生

2016年の選挙では、民進党の蔡英文氏が、中国との急速な接近は台湾の主体性や民主主義を損なうとして国民党政権を厳しく批判した結果、民進党が8年ぶりに政権を奪還し、台湾で初めてとなる女性の総統が誕生しました。

◎2020年 蔡英文氏再選 得票数800万超え

そして前回、2020年の選挙では、香港での大規模な抗議活動の影響で中国への警戒感が強まり、中国に強い姿勢を示す民進党の蔡英文総統が圧勝しました。

蔡総統の得票数は800万を超え、1996年に台湾で初めて直接投票による総統選挙が行われて以来、最も多い票数となりました。

こちらも重要 立法院選挙 結果次第では総統選挙との”ねじれ”も

台湾の議会、立法院は一院制で、議員にあたる立法委員の任期は4年です。

立法委員の選挙では2012年から総統選挙と同じ日に行われていて、小選挙区と比例代表などあわせて113議席を選びます。

前回、2020年の選挙では、民進党が総統だけでなく、立法院でも過半数の議席を獲得し、現在の議席は、与党・民進党が単独過半数の62議席、最大野党の国民党が37議席、それに野党第2党の民衆党が5議席などとなっています。

民進党の蔡英文総統が初当選した2016年の選挙で、民進党は立法委員の選挙で初めて単独で過半数を獲得し、その後、8年間、行政と議会の主導権を握ってきました。

今回の立法委員選挙では、引き続き民進党が過半数を維持するのか、国民党など野党が過半数を得て議会の主導権を得るのかが注目されています。

総統選挙で勝利した政党が、議会で過半数を得られない場合、政権運営は難しくなる可能性もあります。

押さえておきたい中国と台湾の関係

習近平指導部 台湾は「中国の『核心的利益』の『核心』だ」

中国大陸では、国民党との内戦に勝利した共産党が、1949年に中華人民共和国を建国したのに対し、敗れた国民党は台湾に逃れ、その後も「中華民国が正統な政権」だと主張しました。

一方の共産党は、「台湾は、中国の領土の不可分の一部だ」と主張し、台湾の統一は、「変わることのない歴史的任務」だとしていて、中国の憲法にも「祖国統一の大業を成し遂げることは、台湾の同胞を含む全中国人民の神聖なる責務だ」と明記しています。

習近平国家主席も、就任以来、「中華民族の偉大な復興の実現」をスローガンに掲げ、台湾統一をその重要な要素と位置づけています。

共産党大会で演説する習主席(2022年10月)

習主席は、台湾を「中国の『核心的利益』の『核心』だ」としていて、2022年の共産党大会では「われわれは最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが、決して武力行使の放棄を約束しない」と述べ、平和的な統一を追求するものの、統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示しました。

そして「祖国の完全な統一は必ず実現しなければならないし必ず実現できる」と強い意欲を表明しました。

また習主席は2024年の新年にあわせた演説でも「祖国統一は歴史の必然であり、台湾海峡両岸の同胞は手を携え、心を合わせ、民族復興の偉大な栄光を分かち合うべきだ」と述べ、統一に向けた意欲を改めて強調しています。

習近平指導部は台湾の政権交代に期待している

中国の習近平指導部は、「1つの中国」を認めない民進党の蔡英文政権を繰り返し批判し、台湾での政権交代を期待する立場をあからさまに示してきました。

蔡英文総統の後継となる民進党の頼清徳氏に対しても頼氏が行政院長在任中に「自分は現実的な台湾独立工作者だ」などと発言したことなどを理由に、警戒感をあらわにしてきました。

中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の陳斌華(ちん・ひんか)報道官は、2023年11月の記者会見で、頼氏について「かたくなに『台湾独立』の立場を堅持し、外部勢力と結託して挑発することは、台湾海峡情勢の緊張と動揺を招くだけで邪道であり、行き詰まる。『台湾独立』は戦争を意味する」と述べ、アメリカや日本などと連携して中国の圧力に対抗する姿勢を示す頼氏を強くけん制しました。

また朱鳳蓮(しゅ・ほうれん)報道官は12月の記者会見で頼氏を「トラブルメーカー」だとした上で「脅威をでっちあげ、台湾の人の暮らしを台なしにしている」と述べ、非難しました。

そして「多くの台湾の同胞が民進党当局の欺まんに満ちた選挙の宣伝を見破り平和と戦争、繁栄と衰退にかかわる正しい選択をすることを信じている」と述べ、頼氏に投票しないよう望む姿勢を示していました。

中国は”台湾統一”に向けてどうアプローチしているのか

中国は台湾統一という目標に向け、軍事や経済の分野を中心に「アメとムチ」とも言える対応で台湾に影響力を行使しようとしてきました。

軍事面では、中国は台湾周辺での軍の活動を活発化させ、圧力を強めてきました。

中国軍はたびたび空母を台湾海峡などを通過させて太平洋での訓練を重ねています。

また中国軍機が、中国と台湾の双方の軍が偶発的な衝突を避けるための境界線とされている台湾海峡の「中間線」を越えたり台湾の防空識別圏に入ったりするケースが頻発しています。

米ペロシ下院議長(左)と蔡英文総統(2022年8月)

2022年8月には、アメリカの当時のペロシ下院議長が台湾を訪問したことに反発して、台湾を取り囲むように大規模な軍事演習を行いました。

軍事力を誇示することで、アメリカや日本などと連携して中国の圧力に対抗する姿勢を示す台湾の民進党政権に対するけん制を強めてきた形です。

また経済面では、中国政府は、台湾が中国製品に対して一方的に差別的な措置をとっているとして台湾で生産された12の化学製品の輸入について、1月から関税の優遇措置を停止しています。

中国政府は、関税の優遇措置を停止させる台湾製品をさらに増やすことを検討するとしていて、総統選挙を前に経済分野で揺さぶりをかけ、民進党への圧力を強めるねらいがあると受け止められています。

一方で、習近平指導部は、台湾の平和統一を強調し、取り込み策も進めてきました。

福建省アモイにかかる「台湾街」の看板

2023年9月には、台湾の対岸にある福建省に台湾との一体化を図る「両岸融合発展モデル地区」を設けて、台湾企業の進出を促すビジネス環境の整備や、台湾の人たち向けの社会保障を充実させると発表しました。

経済協力を打ち出すことで台湾の世論にアピールしたいとのねらいがあるとみられます。

このほか、中国政府は12月になって一時輸入を停止していた台湾産の果物「シャカトウ」や高級魚「ハタ」について輸入を拡大したり、再開したりすると相次いで発表しました。

こうした対応には最大野党・国民党の地盤を優遇したり、民進党の地盤を切り崩したりする意図があるとみられ、総統選挙を前に国民党を支持すれば経済的なメリットが得られるとアピールする思惑が透けて見えます。