台湾総統選あす投票 3人の候補者が最後の訴えへ

4年に1度行われる台湾総統選挙の投票日が13日に迫り、中国と対立する与党と、中国との交流拡大などを訴えて政権交代をめざす2つの野党の候補者が、12日夜に大規模な集会を開いて最後の訴えを行うことにしています。

13日に投票が行われる台湾総統選挙には、与党・民進党の頼清徳氏、最大野党・国民党の侯友宜氏、野党第2党・民衆党の柯文哲氏の3人が立候補しています。

選挙戦は中国との関係が大きな争点の1つとなる中、中国から「台湾独立主義者」などと非難されている民進党の頼氏が野党の2人をリードしているとみられます。

ただ、同時に行われる立法委員選挙では民進党が議席を減らすというのが大方の予想で、頼氏は「総統選挙で勝つだけでなく、立法院で過半数の議席をとらなければ、国が前に進まない」と訴えています。

8年ぶりの政権奪還をめざす国民党の侯氏は「民進党政権のせいで戦争が近づいている」と批判し、防衛力の強化によって中国を抑止すると強調する一方、中国との対話や交流を拡大して衝突のリスクを下げると主張しています。

民衆党の柯氏も、防衛費をGDPの3%に引き上げるとしつつも、文化や経済の分野で中国との交流を進める姿勢です。

与党批判票が割れていることについて、国民党の侯氏は「政権交代のために票を集中してほしい」として、民衆党の柯氏の支持者を取り込もうとしているのに対し、柯氏は「民進党と国民党の2大政党を同時に引きずり下ろそう」と訴えています。

12日夜には、頼氏と侯氏が有権者の最も多い新北で、柯氏が台北の総統府前で、それぞれ大規模な集会を開いて、最後の訴えを行うことにしています。

与党・民進党 頼清徳氏 4年前から副総統を務める

頼清徳氏は64歳。

台湾北部の今の新北で炭鉱労働者の家庭に生まれました。

幼いころに父親を亡くし、苦学して内科を専門とする医師になりました。

1996年のいわゆる「台湾海峡ミサイル危機」を契機として政界に入り、1998年から4期連続で国会議員にあたる立法委員を務めました。

2010年には、台湾のなかで大都市として位置づけられる「直轄市」となった台南の初代市長に当選し、2014年の市長選挙でも72.9%という高い得票率で再選されました。

その後、高い実務能力と人気を買われ、2017年に、1期目だった蔡英文政権の首相にあたる行政院長に就任しました。

そして、前回・4年前の総統選挙に、副総統候補として蔡総統とコンビで立候補して当選し、その年の5月から副総統を務めています。

頼氏は行政院長在任中に「自分は現実的な台湾独立工作者だ」などと発言したことがありますが、副総統に就いてからはこうした発言はせず、「台湾を守り、国の経済を発展させ、人々を幸せにする。これが『現実的な工作者』が努力すべきことだ」などと主張しています。

一方「台湾は中国の一部だ」と主張する中国当局は、頼氏の過去の発言などをとらえて、頼氏のことを「独立派」や「トラブルメーカー」などと名指しで非難し、警戒感をあらわにしています。

また、中国当局は「広範な台湾同胞が民進党当局の宣伝の欺まん性を見破り、平和か戦争か、繁栄か衰退かを正しく選択すると信じている」と強調し、圧力のさらなる強化を示唆しています。

日本とは、立法委員や台南市長を務めていた時から交流があり、おととし7月には東京を訪問して安倍元総理大臣の葬儀に参列しました。

台湾メディアによりますと、現職の副総統が外交関係のない日本を訪問したのは、1985年に当時の李登輝副総統が訪れて以来で、極めて異例でした。

頼清徳氏 中国との関係 蔡英文総統の路線引き継ぐ姿勢

与党・民進党の頼清徳氏は中国との関係について、「台湾は中国の一部だ」という中国の主張を認めず、アメリカなどとの関係強化によって中国を抑止しようという現職の蔡英文総統の路線を引き継ぐ姿勢です。

頼氏は「防衛力、経済、そして民主主義陣営との協力を強めることで抑止力を発揮させる。戦争に備えることによって戦争を避ける」と主張しています。

頼氏は、去年10月に行われたNHKのインタビューで、蔡政権のもとで途絶えている中国との公的な対話の再開について、「台湾が対等に尊重されるのであれば、協力を進めたい」と述べましたが、「中国と交渉したいから主権を譲り渡すというわけにはいかない」と強調していました。

一方、日本との関係については「全方位で協力したい」と述べ、とりわけ、観光をはじめとする人的な交流、貿易や投資、水素エネルギーの開発、それに安全保障を挙げました。

そして「インド太平洋地域の平和と安定は全世界共通の責任だが、最も鍵となる役割を果たす国は第一に台湾、第二に日本だ。中国の脅威にわれわれが最も近いからで、できる協力はすべて行うべきだ」と述べ、具体的な内容への言及は避けながらも、日本が安全保障分野で台湾との協力をいっそう深めることに期待を示しました。

最大野党・国民党 侯友宜氏 馬英九前総統の路線継承を鮮明に

侯友宜氏は66歳。

台湾南部・嘉義県の出身で、地元の高校を卒業後、警察幹部を養成する学校に進んで警察官になりました。

警察組織で順調に出世を重ね、2006年、民進党政権のもとで警察トップの警政署長に40代の若さで抜てきされました。

2010年、北部の新北で国民党の市長からの要請を受け副市長に就任し、2018年とおととしの選挙で、市長に2期連続当選しました。

台湾で有権者が最も多い市での高い人気から、「次の総統」に推す声が強まり、国民党の総統候補に擁立されました。

侯氏は、国民党の指導部が主導した党派色の強い政治運動や中国寄りと見なされる勢力と距離を置くかのような穏健な姿勢が目立っていましたが、去年7月、中国が台湾との公的な対話の再開の前提条件としている「92年コンセンサス」について受け入れを明言しました。

「92年コンセンサス」は、1992年に中国の共産党政権と当時の台湾の国民党政権が「中国大陸と台湾が1つの中国に属することを確認した」とされるもので、これをもとに中台関係を改善し、習近平国家主席と史上初めての中台首脳会談を行った馬英九前総統の路線の継承を鮮明にしました。

さらに、コンビを組む副総統候補に中国大陸から移り住んだ「外省人」2世で、テレビ司会者として有名な趙少康氏を据えるとともに選挙戦で中国との対話や交流の拡大を訴えることで、党の支持層を固めていると指摘されています。

一方、日本との関係をめぐっては、侯氏は去年夏、国民党の創始者・孫文にゆかりのある都内の施設を訪れたほか、国会議員や窓口機関の日本台湾交流協会の関係者との会談などを通じて日本を重視する姿勢を示しています。

侯友宜氏 “中国との交流密にし 衝突のリスク下げる”

最大野党・国民党の侯友宜氏は中国との関係について、「民進党政権が中国との武力衝突の危機をもたらしている」と述べ、防衛力を強化しながら中国との交流を密にして衝突のリスクを下げると主張しています。

去年8月に行われたNHKのインタビューでは、「馬英九前総統が唱えた『統一せず、独立せず、武力行使せず』という方針で、両岸が安定していた、以前の『現状維持』に戻す」と述べ、中国との関係を、前の国民党政権の時のような安定した状態に戻すという考えを示していました。

侯氏は、経済や教育などの分野で中国との交流拡大の必要性を訴え、去年11月には、FTA=自由貿易協定にあたる「経済協力枠組み協定」の協議再開や、中国人観光客の受け入れ、中国人学生の台湾留学と台湾での就職を進める政策を打ち出しています。

日本との関係については、「日本はアジア太平洋地域全体の秩序の中で非常に重要な国だ。台湾も日本としっかりつながり、地域の秩序に協力する重要な役割を演じたい」と述べ、日本との間でFTAの締結を含め、経済的にもより緊密な関係を築きたいという意欲を示しています。

野党第2党・民衆党 柯文哲氏 中国との対話に積極的な姿勢

柯文哲氏は64歳。

台湾北部の新竹の出身です。

地元の高校を卒業後、大学の医学部に進学して外科医になり、大学の付属病院で外科や救急医療などの専門医として勤務するとともに、教授も務めました。

柯氏の発言は、歯にきぬ着せぬものだとして既存政党に不満を持つ人たちからの支持を得ていて、特に若い世代に人気があるといわれています。

柯氏は2014年、国民党に有利な地盤とされる台北の市長選挙に無所属で立候補し、当時与党だった国民党の新人に得票率で15ポイント以上の差をつけて初当選しました。

台北で無所属の市長が誕生したのは、1994年にいまの直接選挙が導入されて以来初めてでした。

柯氏は台北市長として2期8年間務め、2019年には民衆党を結成してトップの主席に就任しました。

民衆党は、台湾の議会・立法院で与党の民進党と最大野党の国民党に次ぐ議席数をもつ野党第2党です。

去年11月、民衆党と国民党は政権交代の可能性を高めようと、柯氏と侯友宜氏のどちらかに候補者を一本化することで合意しましたが、その後の調整で双方とも譲らず、一本化はなりませんでした。

柯氏は、中国が台湾との公的な対話の再開の前提条件としている「92年コンセンサス」について受け入れを明言していません。

ただ、かつて「台湾海峡の両岸はひとつの家族」と発言し、台北市長として上海で開かれた都市間交流事業に参加するなど、中国との対話に積極的な姿勢をアピールしてきました。

一方、去年6月には、日本を訪問し、総理大臣経験者を含む与野党の国会議員と台湾海峡情勢などについて意見を交換したほか、都内の大学で講演するなど、日本との関係を重視する姿勢を示しています。

柯文哲氏 “台湾の総統は米中間の意思疎通の懸け橋に”

野党第2党・民衆党の柯文哲氏は中国との関係について、「民進党は中国から相手にされず、国民党は中国に従順すぎる」と2大政党を批判し、文化や経済の分野を先行して中国との交流を進めるとしています。

柯氏は「今の民主的で自由な政治体制と生活様式を保つという前提のもとで、対等で尊厳あるやり方で大陸と対話を進めたい」と述べる一方で、「国の安全を相手側の善意に完全に預けるわけにはいかず、十分な防衛力を持たなければならない」として、防衛費をGDP=域内総生産の3%に引き上げると主張しています。

このほか、アメリカと中国との関係をめぐっては「台湾の総統は米中対立の駒になるのではなく、米中間の意思疎通の懸け橋になることを望む」と強調しています。

柯氏は去年6月に行われたNHKのインタビューで、李登輝政権時代には月に1回ほどのペースでアメリカと日本と台湾の高官が安全保障についての対話を行っていたと指摘し、「米日台の対話の枠組みは非常に重要だ。特に台湾と日本はもっと緊密につながるべきだ」として、総統に当選すれば、3者の高官による安全保障対話を定期的に行いたいという考えを示していました。

柯文哲氏「台湾と米の関係維持前提に 中国と意思疎通始める」

13日に投票が行われる台湾総統選挙に立候補している、野党第2党・民衆党の柯文哲氏は、当選すれば「台湾とアメリカの安定した関係の維持を前提に、中国と意思疎通を始める」と述べました。

総統選挙には、与党・民進党の頼清徳氏、最大野党・国民党の侯友宜氏、野党第2党・民衆党の柯文哲氏の3人が立候補していて、このうち柯氏が12日、外国メディアを対象に記者会見しました。

選挙戦で柯氏は、頼氏のことを「台湾独立主義者」、侯氏のことを「中国の支持を受けている」と批判していて、12日の会見では「3人の候補者の中で、中国とアメリカの双方が受け入れ可能なのは柯文哲だけであり、この点が私の最大の優位性だ」とアピールしました。

その上で、中国との関係については、台湾の防衛力強化によって中国の武力行使を抑止することと、意思疎通によって戦争のリスクを下げることの2つを原則とすると述べました。

そして、当選すれば「台湾とアメリカの安定した関係の維持を前提に、中国と意思疎通を始める」と述べ、中国には今の台湾の民主的で自由な政治体制と生活様式の維持が最低ラインであることを理解させたいと主張しました。

13日に総統選挙と同時に行われる議会・立法院の選挙では、専門家などからは、民衆党が議席を増やし、どの党も過半数を確保できないという見方が出ていて、選挙後に安定した政権ができるかどうか注目されています。

これについて、柯氏は「『どんな議題でも必ず同じ党と協力する』とは言わない」と述べ、選挙後の議会でキャスティングボートを握りたいという思惑をのぞかせました。