2次避難 県外などで受け入れ進む 珠洲市の施設入所者は愛知へ

能登半島地震で災害関連死を防ぐため、被災した人たちの2次避難や広域避難が急がれています。

断水や停電が続く石川県内の施設からは高齢者が自衛隊のヘリコプターで愛知県内に移りました。

42都道府県で避難者受け入れへ(12日午前11時)

能登半島地震を受け、石川県外の公営住宅などで避難者を受け入れる広域避難に向けた準備が全国で進んでいます。

12日午前11時時点で、NHKがまとめたところ地震で被災した人の受け入れの意向を明らかにしているのは、42の都道府県です。

具体的には▽北海道、▽岩手県、▽宮城県、▽山形県、▽福島県、▽茨城県、▽栃木県、▽群馬県、▽埼玉県、▽千葉県、▽東京都、▽神奈川県、▽新潟県、▽富山県、▽福井県、▽山梨県、▽長野県、▽岐阜県、▽静岡県、▽愛知県、▽三重県、▽京都府、▽大阪府、▽兵庫県、▽奈良県、▽和歌山県、▽鳥取県、▽島根県、▽岡山県、▽広島県、▽山口県、▽徳島県、▽香川県、▽愛媛県、▽福岡県、▽佐賀県、▽長崎県、▽熊本県、▽大分県、▽宮崎県、▽鹿児島県、▽沖縄県です。

このほか▽仙台市や▽千葉市、▽大阪市、▽広島市、▽熊本市など全国の多くの市町村も受け入れを表明しています。

公営住宅への入居の手続きは各自治体のホームページなどで公開されていて、すでに入居の相談が寄せられている自治体もあります。

入所者を乗せたヘリコプター 珠洲市から愛知県へ

石川県は今回の地震で断水や停電が続いている地域の高齢者施設の入所者について、近隣の県で受け入れてほしいと要請していて、愛知県が12の医療機関で30人程度を受け入れることを申し出ました。

これを受けて、11日午前10時ごろ、珠洲市蛸島町の鉢ヶ崎野営場に入所者を搬送する航空自衛隊のヘリコプターが到着しました。

高齢者たちはストレッチャーで次々と運ばれ、第一陣の15人を乗せたヘリコプターは、午前10時半ごろに出発しました。

ヘリコプターは1時間ほどで愛知県の県営名古屋空港に到着し、受け入れ先の医療機関へと向かいました。

入所者の受け入れを決めた愛知県医務課は「被災し厳しい状況にある方たちがいて、石川県から要請があったので応えた。今後も要請があり、愛知県内で調整がつけば同様に対応したい」とコメントしています。

高齢者たちの様子は

出発前、珠洲市蛸島町の公園にある広場では、市内の高齢者施設に入居するお年寄りを乗せた救急車が次々と到着しました。

災害派遣医療チーム、愛知DMATの医師などが声かけをしながら担架で運び、待機していた自衛隊のヘリコプターに乗せていました。

午前10時半ごろ、ヘリコプターが飛び立つ様子を施設の職員2人が目に涙を浮かべながら手を振って見送っていました。

対応にあたった藤田医科大学病院の航空搬送チームの水野光規医師は「地震の発生から10日間、お年寄りや施設の方々は本当によく耐え抜いたと思います。市内にはこうした施設がまだたくさんあると聞いているので、今後も役に立てるように活動していきたい」と話していました。

珠洲の高齢者30人 金沢市の「1.5次避難所」へバス移送

石川県は、金沢市の「いしかわ総合スポーツセンター」を一時的な受け入れ先となる「1.5次避難所」に指定し、配慮が必要な高齢者などについて被災地の避難所から移ってもらうことにしています。

輪島市や穴水町などに続き、珠洲市にも11日初めて、県が用意したバス3台が到着しました。

珠洲市の道の駅「すずなり」には、金沢市内への移動を希望した高齢者、あわせて26人が集まり、次々にバスに乗り込んでいきました。

70代の女性は「ここまではなんとかみんなでやってきましたが、電気も水もまだないので、この先、2か月、3か月となると、この生活は続けられないと思って移動することにしました。私は戻ってきたいと思っていますが、難しい人もいると思います」と話していました。

石川県では、12日以降もバスを使った移送にあたり、避難生活などに伴う災害関連死を防ぎたいとしています。

金沢市の「1.5次避難所」 約160人が避難生活

石川県は、金沢市の「いしかわ総合スポーツセンター」で「1.5次避難所」の運営を今月8日から始めています。

11日午後2時時点で161人が避難生活を続けていて、担当者に住居に関する相談をしたり、家族ごとに設置されているテントに水などの物資を運び込んだりしていました。

県は、高齢者や妊婦など配慮が必要な人を中心に旅館やホテルといった「2次避難所」への受け入れを順次、進めています。

輪島市の40代の男性は「輪島の避難所に行っていましたが寒くて厳しい環境でした。子どもの環境が一番なので、学校に通えるようにアパートなどを探します」と話していました。

石川県スポーツ振興課の村角美登課長は「関係機関と連携を密にとって避難者のさまざまなニーズに対応していきたい」と話していました。

専門家「居住環境の変化で認知機能低下 元の生活習慣を大切に」

能登半島地震の被災地で2次避難や広域避難の動きが進む中、専門家は居住環境の変化にともなって高齢者に認知機能や意欲が低下する「リロケーション・エフェクト」という現象が起きる可能性があるとして、できるかぎり元の生活習慣を大切にすることが必要だと指摘しています。

高齢者介護や福祉に詳しい東洋大学福祉社会デザイン学部の高野龍昭教授は、まずは医療や介護サービスが受けられる環境に移ることが必要だとした上で「お年寄りは住む場所と人間関係が変わると、トイレに行けなくなったり、食事や話をしなくなったりするなど、一見すると認知症のような症状が一時的に現れることがある。普段の習慣や愛着のある関係性が断ち切られ、元々の感覚が失われることが原因で、症状が悪化すると歩行や身のまわりのことができなくなり、災害関連死につながる恐れもある」と指摘しています。

その上で、対策としては、「2次避難などの際には状況が飲み込めずに混乱するお年寄りも多いと思うので、どこにどんな事情でいくのか、丁寧に繰り返し説明することが大切だ。避難先ではレクリエーションなど、誰かと一緒に身体を動かす機会を設けると、会話するきっかけにもなり心理的な孤立も防ぐことができる。可能であれば、普段身近で使っていたのと同じなじみのある服や時計、食器などを継続して使ったりするだけでも、元の生活を思い起こすことにつなげられる」と話していました。

「2次避難所」などの手続き伝えられず移動できない避難所も

石川県は特に高齢者など配慮が必要な人たちを対象に、一時的な受け入れ先となる「1.5次避難所」の「いしかわ総合スポーツセンター」や、「2次避難所」の旅館やホテルに移ってもらうことにしています。

しかし、珠洲市の上戸小学校の避難所の運営者によりますと、こうした方針はニュースやSNSを通じて把握したものの、現時点で県からは具体的な説明を受けておらず高齢者たちを移動させることができていないということです。

身を寄せている人の8割以上が高齢者で、インフルエンザの感染者も出てきていることから、運営者は、県に速やかに説明してほしいと求めています。

運営者の上口尚光さんは「ここにずっといてもらうのは健康によくないと思うがこの状況では次の避難所を勧めることもできず困っている。どのような手続きが必要なのか具体的な情報がほしい」と話していました。

県担当者「避難所や住民への周知を急ぎたい」

「1.5次避難」や「2次避難」について具体的な手続きの方法がわからないという声が避難所から出ていることについて、担当する石川県地域医療推進室は「スピード重視で取り組みを進めていることもあり、なかなか現場の避難所まで情報が伝わっていないということは県としても認識している。速やかな避難につなげるため、各自治体に県の職員を派遣するなどして避難所や住民への周知を急ぎたい」としています。

日本航空高校石川の生徒 新年度から山梨の系列校へ

今回の地震では、石川県輪島市の日本航空高校石川も被災し、新年度から山梨県にある系列校のキャンパスで生徒たちを受け入れることになりました。

野球部は、センバツ高校野球出場の可能性があり、練習拠点を山梨に移すため、11日、グローブや練習着などを運び出しました。

日本航空高校石川は、地震で貯水タンクが破損したり、周辺の道路が陥没したりしたため、生徒の通学が困難になり、4月から生徒およそ600人を系列校の山梨キャンパスで受け入れます。

日本航空高校石川は、センバツ高校野球につながる去年秋の北信越大会でベスト4に入ってセンバツ出場の可能性があり、野球部は一足早く主力の選手など30人の練習拠点を山梨に移すことになりました。

11日は、野球部の中村隆監督がコーチ2人とともに地震発生から初めて野球部の寮を訪れ、家具などが倒れた部屋で部員に電話をかけながらグローブや練習着などをバッグに詰めていました。

中村監督は「思っていた以上に物が散乱していて、足の踏み場もなく言葉がないです。生徒たちも不安が多いと思いますが少しでも前を向いて自分たちがやれることを考えてやっていきたい」と話していました。

野球部は、早ければ来週中にも練習を再開する方針だということです。

石川 白山 輪島の中学生を市の施設に避難できるよう調整

地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市で、市内の中学校が避難所として使用され、授業再開のめどが立たなくなっていることから、教育委員会は、中学生を白山市にある県の施設に避難できるよう調整を始めました。

輪島市内にある3つの中学校は、今回の地震で避難所として使用され、授業再開のめどが立っていません。

市の教育委員会は県教育委員会と調整し、3校の生徒、あわせておよそ400人について、希望者全員を白山市にある県の施設に避難させる方向で、11日、保護者への意向調査を始めました。

避難先は、白山市にある県立白山ろく少年自然の家か県立白山青年の家で、希望者の数によっては施設に近い中学校に通ってもらうことも検討しています。

避難の時期については、保護者の意向がまとまった段階で決めるとしています。

輪島市教育委員会は「市内の中学校は校区が広く、通学路の安全も確保できないため、白山市への避難を考えてほしい。輪島市内に残る生徒についても避難所に出向くなどして学習の機会を確保できるよう対策を考えたい」と話しています。

岐阜 飛騨 配慮が必要な避難者を受け入れへ

能登半島地震で被災した地域では、厳しい寒さの中、避難生活の長期化が課題になっていて、高齢者や妊娠中の女性、障害のある人など、特に配慮が求められる人たちを保護する必要があることから、岐阜県飛騨市は市が所有する複数の宿泊施設で避難者を受け入れることにしました。

施設では1泊3食を提供し、費用は国の補助でまかなわれます。

受け入れの期間は1か月程度を想定していますが、それぞれの事情を考慮して延長も可能だということです。

避難者を受け入れる宿泊施設「やまびこ館」のおかみ、橋本美佐子さん(62)は「これまで休まることがなかったと思うので、こちらの部屋で本当にゆっくり休んでほしいです」と話していました。

飛騨市は自力で移動することが難しい人については避難所まで迎えに行くことも検討していて、今後、市内の民間の宿泊事業者にも受け入れへの協力を呼びかけることにしています。

三重 被災者を公営住宅で受け入れへ

三重県内の市や町では、被災した人たちを公営住宅で受け入れる動きが始まっています。

三重県内では能登半島地震で被災した人を無償で公営住宅で受け入れようと、▼津市で26戸、▼四日市市で30戸、▼鈴鹿市で15戸、▼伊賀市で3戸、▼亀山市と鳥羽市で2戸などが用意されています。

このうち、津市で提供するのは3DKや2DKの間取りの公営住宅で水道代や光熱費は入居者が負担する必要がありますが、家賃や敷金は免除されます。

照明器具やガスコンロは市が用意しますが、エアコンや布団などは自分たちで用意する必要があるということです。

入居できる期間は最長3年で、申し込みには、申請書やり災証明書などをFAXかメールで提出することが求められ、証明書の発行が間に合わない場合は、あとからの提出も可能だということです。

津市市営住宅課の原田浩治入居担当主幹は、「被災した人が1日でも早く日常生活を取り戻せるよう支援していきたい。生活再建に向けたそのほかの支援も進めたい」と話しています。

このほかにも県内の複数の自治体が準備を進めているほか、県も県営住宅合わせて31戸を提供します。

熊本市 市営住宅を無償提供へ 11日から受付開始

熊本市も能登半島地震で自宅が被災した人に市営住宅を無償で提供することを決め、11日から受け付けを始めました。

熊本市が提供するのは市営住宅20戸程度です。

能登半島地震で自宅などが被災して住むのが難しくなった人に提供します。

入居は原則6か月間、最長で1年まで更新でき、家賃や駐車場の使用料、敷金は全額免除されます。

光熱費や共益費などは入居者の負担です。

11日から入居の受け付けが始まり、申請が通ればすぐにでも入居できるということです。

原則として市町村が発行する「り災証明書」が必要ですが、提出は後日でもかまわないということです。

問い合わせ先は、電話番号が096ー328ー2461で、平日の午前8時半から午後5時15分まで対応しています。

熊本市市営住宅課は「8年前の熊本地震では全国からたくさんの支援を頂いたことから市営住宅の提供を決めました。被災者それぞれの要望に丁寧に応じていきたい」と話しています。

岸田首相 配慮が必要な妊産婦や高齢者などへ2次避難呼びかけ

能登半島地震を受けた対応をめぐり、岸田総理大臣は記者会見し、復旧には、かなりの時間を要するとして、命を守るためにも病気の人など配慮が必要な人から優先的に被災地を離れ、より安全に過ごせる2次避難所に移るよう重ねて呼びかけました。

この中で岸田総理大臣は「被災地では寒い北陸の冬と長引く避難生活によって、心身ともにつらい環境が続いている。孤立集落をはじめ、インフラの復旧や住まいの確保にかなりの時間がかかるので、命と健康を守るためにも、より安全な環境への移動を積極的に検討してもらうことが重要だ」と述べました。

その上で「医療ニーズの高い方、妊産婦、高齢者とその家族などは、積極的な2次避難を検討してもらうよう重ねてお願いする」と呼びかけました。

また自治体が「みなし避難所」として借り上げる宿泊施設など、2次避難先の上積みを行い、十分な数を確保すると説明しました。

一方、2次避難の希望者が200件に満たないとして、原因などを問われ「『住み慣れた場所から離れがたい』などという人がいる。2次避難の仕組みや今後の住まいの見通しも丁寧に説明し、不安や懸念が解消されるよう努めることが大事だ」と述べました。

そして2次避難した人が再び住み慣れた土地に戻れるよう仮設住宅の建設などもあわせて急いでいく方針を示しました。

2次避難先への移動手段 5700人分を確保 国交省

国土交通省は、能登半島地震の避難者がホテルや旅館などの2次避難先に移る際の移動手段の確保の状況を公表しました。

それによりますと、2次避難先への移動を1日1回と仮定した場合、
▼バスはおよそ5000人分、
▼タクシーはおよそ700人分を移動手段として確保したということです。

このうち、タクシーについては、乗務員が介助を行う「福祉タクシー」や車いすの利用者が乗りやすいよう設計された「ユニバーサルデザインタクシー」も一部で用意したということです。

国土交通省はバスやタクシー会社の情報を石川県に提供したうえで、1日2回以上移動をするなど、できるかぎり輸送の人員を増やしたいとして具体的な準備を進めるとしています。