ことしのマーケットどうなる?懸念も【NY発経済コラム】

2024年、税制の優遇が拡充される新「NISA」も始まり、自分の資産を考えるうえでことしの金融市場の動きが気になる方も多いと思います。

1月4日のことし最初の東京株式市場は、能登半島地震の経済への影響を懸念する見方などから日経平均株価は一時、700円以上値下がりしました。

外国為替市場では円相場がおよそ3週間ぶりに一時、1ドル=145円台をつけるなど、円安ドル高も進んでいます。

一方、ニューヨークでは1月2日にダウ平均株価はわずかながら最高値を更新。週末にかけては下落傾向となったものの、ウォール街ではことしの株価を強気に予想する専門家も多くいます。ことしの金融市場、どうなるのか。ニューヨークでマーケットを取材している記者のつぶやきです。
(アメリカ総局記者 江崎大輔)

※表紙の写真は、ニューヨーク証券取引所近くにあるブル(雄牛)の銅像。株価上昇トレンドの象徴。

ことしは強気相場との見方

江崎大輔記者

ニューヨークのウォール街を取材する記者としては、この1年の株価の動きを見るうえで年始からの数週間の値動きは重要です。

1月2日から、わずかではあるものの、ダウ平均株価は最高値更新という前向きなニュースで沸いていました。

「S&P500の株価指数は2024年の年末には5200ポイントに達し、最高値を更新すると予想」

ウォール街の資産運用会社大手の「オッペンハイマー・アセット・マネジメント」のチーフストラテジストは、こんな強気の予想を2023年12月に発表し、これが少数派ではなく、多くの投資家に受け入れられている印象です。

“利下げ”イヤーが株高に

市場を明るくしている大きな要因は、なんといってもこれまで利上げを続けてきたFRB=連邦準備制度理事会がことし利下げに転じるだろうとの見方です。

2023年12月に開かれたFRBの金融政策を決めるFOMCでは、会合参加者19人による政策金利の見通しが示され、政策金利1回あたり0.25%とすると、ことしは少なくとも3回利下げが行われる想定が示されました。

CEPR シニアエコノミスト ディーン・ベイカー氏

アメリカのシンクタンク、CEPR=経済政策研究センターのシニアエコノミスト、ディーン・ベイカー氏は、FRBの最初の利下げは2024年3月に行われるだろうとの見通しを示し、年内に4回利下げが行われ、アメリカ経済は堅調に推移すると予測しています。

市場とFRBのズレ

一方、楽観的な市場の見方と、FRBの本音との間にはズレがあるのではないかとの見方も少なからずあります。

FRB元副議長 プリンストン大学 アラン・ブラインダー教授

中央銀行の決定過程を熟知する、FRBの元副議長、プリンストン大学のアラン・ブラインダー教授は、パウエル議長とも今でもよく話す仲ですが、パウエル議長は慎重だと語り、もし自分が議長だったらもっと慎重だろうとも話します。

ブラインダー教授
「私はパウエル議長のことは良く知っているが、とても慎重な人だ。市場というのは、ナイフの刃の上に座っているようなもので、パウエル議長の発言しだいでどちらにも動く準備ができている」

FRB議事録「状況次第では利上げも」

ブラインダー教授の発言は1月3日に的中します。

この日、公表された2023年12月のFRBの金融政策を決める会合の議事録。市場は早期の利下げ議論の内容を知りたがっていました。

議事録ではほぼすべての参加者が2024年中に金利を引き下げることが適切であるという見方を示していましたが、見通しには不確実性が高く、経済の状況次第では利上げが適切になる可能性もあると指摘していたのです。

FRBは過去、インフレの兆候を読み誤ったがために急速な利上げを迫られる結果となりました。拙速な利下げは避けたいと考えているはずです。

インフレ再燃ないのか?

2024年の金融市場を見るうえで、インフレの再燃は本当にないのかは、実は大事なチェックポイントであるように思います。

ウォール街で日々取材をしていると、インフレ再燃論を唱える人は少ないのが実情ですが、金融街を一歩でると、国際的な紛争の拡大が世界経済にもたらすリスクに警鐘を鳴らす人もいます。

その1人、アメリカ・スタンフォード大学の著名な政治学者、フランシス・フクヤマ氏です。

スタンフォード大学 フランシス・フクヤマ氏

フクヤマ氏はことしのリスクとして、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突がイランに広がることだと話します。

イエメンの反政府勢力フーシ派が紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返していますが、世界の海運大手は紅海やスエズ運河を通るルートを避け、時間と距離がかかるアフリカ南端の喜望峰経由のルートを取り始めています。

フーシ派が貨物船をだ捕した際の様子(11月20日投稿)

12月31日にはアメリカ軍がフーシ派のボート3隻を沈没させ、1月1日、これに対抗したのか、イランは軍艦を紅海に派遣したとイランの国営メディアが伝え、緊張が高まっています。

フクヤマ氏
「最も差し迫った危険は、ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が激化することだ。すでに国際的な海運の運賃に影響が出ている。イランを直接、巻き込んだより広範な戦争が起きれば、世界のサプライチェーンなどにもっと深刻な影響が及ぶのは明らかだ」

イランが巻き込まれるリスク

中東情勢が緊迫化し、そこにイランが本格的に加わるようになれば、原油の輸送が滞り、原油価格が上昇、世界経済は大きく混乱することが避けられなくなってしまいます。

FRBが利下げに踏み切れば、経済を冷やす要因が減ることになり、アメリカ経済にとってはプラス材料、株価にも好材料となるのでしょうが、市場とFRBの思惑のズレが気になります。

そして2024年は2つの戦争に直面してのスタートで、不安はぬぐえません。

2024年の干支は辰(たつ)。証券業界では「昇り竜のごとく上昇相場」と願かけも行われますが、「画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く」のことわざのように、最後の仕上げを怠り、勢いを欠いた事態にならないか、私はマーケットを一層注意深く見ていきたいと思います。

注目予定

11日にアメリカの12月の消費者物価指数が発表されます。FRBによる利上げの影響でこのところアメリカのインフレは鈍化傾向が鮮明となっていますが、改めてインフレが鈍化していることが確認されるかが焦点です。