カラス被害がなくなる?その秘策は鳴き声に

カラス被害がなくなる?その秘策は鳴き声に
「鳴き声がうるさくて眠れない」
「大量にフンをして困る」

各地で「やっかいもの」とされているカラス、皆さんは困っていませんか?

カラスをなんとか遠ざけることができないか。
ある研究者が目を付けたのが…

「カーカー」

あの鳴き声でした。
(ラジオセンターディレクター 堤千春)

フンに騒音…相次ぐ苦情

11月下旬の福島市。
午後5時ごろにはすでに暗闇に包まれました。

街路樹の一角に光を当ててみると…
「バサバサバサバサ~」

大量の羽音とともに現れたのは「ミヤマガラス」です。
全身真っ黒で、夜の闇に紛れていました。

福島市が11月下旬に行った調査では、市街地を中心におよそ500羽を確認。
11月ごろに大陸から飛来して増え始め、2月ごろまで越冬するといいます。

地元の住民に聞いてみると…
本町親交会 会長 草野和実さん
「カラスのフンが一番ひどいです。見た目も汚いですし、においも。フンを掃除して次の日見るとまた前の日と同じような状態になっているんで、心がちょっと折れてしまうような。イタチごっこというか、人間とカラスの知恵比べというんでしょうかね」
万世町 古関勝利さん
「カラスが大量に来ているので、朝がものすごくけたたましいんです。大体5時ごろかな、結局飛び立つ前に大騒ぎしてそれから飛び立っていくんで」
カラスの被害はさまざまな形で及んでいました。
福島市も対応に苦慮しています。
福島市環境課 二瓶芳信さん
「市街地、商店街のイメージがダウンしてしまうと市民から相談を受けています。ロケット花火だったり、フクロウの置物をちょっと置いて試してみたり、いろいろしたのですが、一時的にはちょっと飛び立っても、危なくないと認識したらまた戻ってきてしまう」

鳴き声でカラスを撃退!?

困った福島市が相談したのが、カラスの研究を20年以上続けている宇都宮大学の塚原直樹 特任助教です。

強調したのは「すみ分け」の重要性。

塚原さんによると、カラスは日常的に鳴き声でコミュニケーションをとっていると言います。

例えば、警戒すべきことを仲間に知らせる場合でも、
▽自分の縄張りに別のカラスが侵入した時、
▽天敵が来たことを知らせる時など、
さまざまな鳴き声をその場その場で使い分けています。

これを逆手にとることで、居場所をコントロールしようというのです。
塚原さんは、録音したカラスの鳴き声を再生する“秘密兵器”を開発。
例えば、ねぐらにしている場所で“警戒すべきことを仲間に知らせる”音声を流すと、カラスは今いる場所が危険だと誤って認識し、その場所から飛び去ります。

とはいえ、人間が望む場所に行ってくれなければ意味がありません。

このため鳴き声を流す装置を効果的に配置し、カラスが1日の活動を終えてねぐらに戻るときに出す音声を流して、森林など地域の人の暮らしを妨げない場所へ誘導します。
それでも、カラスは賢く、すぐに慣れてしまうといいます。
このため、音声の組み合わせも定期的に変更しているということです。

気になる効果ですが、これまで30を超える自治体で実証実験を行い、少しずつ成果をあげているといいます。

山形市では、300羽の群れを市街地から200mほど離れた場所に誘導できた実績もあるそうです。

塚原さんはさらに効果をあげるために新たな技術開発を進めています。
宇都宮大学 塚原直樹 特任助教
「カラスの剥製で作ったロボットを開発していて、誘導するような鳴き声を出して、ここは別のカラスがいるからねぐらとしていい場所なのかなと思わせて、そっちに連れていく。そういった技術を開発しています」
一方で、課題もあります。

幼鳥や若いカラスに対して効果が出にくいことです。

こうした若い個体は、音声によるコミュニケーションをそれほど学習できていないのではないかと塚原さんは指摘しています。
塚原 特任助教
「同じような状況でも、うまくいってるところもあれば、そうじゃないところもあったりとか、去年までうまくいってなかったのに今年はうまくいくとか。いろいろな事例を重ねていって、より精度の高いものに仕上げていく必要があると思っています。昔から人とほとんど同じ場所に住んでいる動物なので、うまく折り合いをつけていくことが必要だと思います」
福島市では2021年から実証実験を始め、今年度は装置を10台に増やして対策を進めているということです。

東京のカラス 20年で4分の1に

一方、集中的な対策によって、カラスが激減したところがあります。
東京の都心です。

東京都環境局の報告によると、2001年に、都内におよそ3万6000羽いた、主にハシブトガラス・ハシボソガラスが現在はおよそ9000羽。
実に4分の1になっています。

なぜここまで減っているのか。

東京大学総合研究博物館の松原始 特任准教授は、2001年に当時の石原慎太郎都知事が始めた3つのカラス対策を理由としてあげています。

1つ目駆除、つまり捕まえて処分することです。

2つ目巣の撤去、日本では野鳥の卵とヒナは完全に保護されるため、暮らしに悪影響があっても基本的に、巣に手を出すことはできません。
しかし、東京都は駆除の申請があった場合、カラスの巣の撤去費用を負担してきました。(この措置自体は令和3年度で終了)

そして、3つ目がカラスのエサとなるごみの適切な処理です。

カラスが直接触れられないよう、バケツなどに入れてごみを出すことを推奨したのです。
東京大学総合研究博物館 松原始 特任准教授
「バケツが用意できないなら、ごみをガードできるようなものを普及させようと補助金を出すこともしています。集合住宅の前にダストボックスを置くところも増えています。カラスが餌をあさりにくい状況がどんどん続いていると思います」
一方、松原さんはカラスが減りすぎてしまうことも懸念しています。

松原さんによると、カラスの生息数はエサの多い少ないに大きく影響されるため、ゴミ対策を緩めなければ、本来、今ぐらいの数で横ばいになると言います。

ただ、都は、駆除や巣の撤去を続けています。

個体数があまりに減ってしまうと、自然の生態系にも影響が出るおそれがあると指摘します。
東京大学総合研究博物館 松原始 特任准教授
「カラスは、果実の種を運ぶことに明らかに役に立っています。彼らはものすごい数の種を運んで、時にはカラスにしか運べないような種もその辺に蒔いている、森を作る仕事もしています。あとカラスは、動物の死体や他の動物が倒した獲物の食べ残しをあさる行動がもともとあり、カラスが食べて陸上にフンを落とし、栄養を陸に戻しています。そういうかなり広範囲な物質の循環というものに、すごく役割を持っています」
例えば、今までカラスが食べてくれていた毛虫も生き残ることになります。
これからは桜並木の下などで、もそもそしている毛虫が少し増えるかもしれません。

カラスとの共生の道は…

真っ黒い不気味な姿、けたたましい鳴き声、ゴミ袋を突き破ってあさる…

カラスに対して負のイメージを持っている人も少なくないかもしれません。

ただ、童謡「夕焼け小焼け」で、「カラスと一緒に帰りましょう」と歌われているように、カラスは昔から人々の暮らしにとけ込んできました。
人間のまねをしたり、人の顔を覚えたりすることもできるなど知能も高く、人間の6~8歳程度だという研究結果もあります。

何よりカラス自身、必死に生きて仲間を守り、子育てをしているだけで、人間の感情や都合だけでその数をコントロールしようとするのは、自然界のバランスを壊してしまうことにつながります。

カラスの生態をもう少し知って、共生の道を探ることも重要なのではないか。

今回の取材を通じて思いました。
ちなみに、私はカラスの鳴きまねが得意なのですが、鳴き声を研究する塚原特任助教に私の鳴きまねを分析してもらったところ、「カラスのペアがお互いを確認し合うときの鳴き声」だそうです。

そういえば取材中、カラスと心を通わせられたような気もします。
ラジオセンター ディレクター
堤 千春
福岡県のお茶どころ出身。「NHKジャーナル」で経済リポート、編集、時にはキャスターも担当の“なんでも屋”!
(12月11日 ラジオジャーナルで放送)