栗山英樹 × 柳井正 「世界一を目指す」ためのリーダー論とは

栗山英樹 × 柳井正 「世界一を目指す」ためのリーダー論とは
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。50年前、山口県の小さな紳士服店からスタートした会社は今、世界で3500を超える店舗を展開し、日本を代表するグローバル企業となった。

その経営哲学やリーダー論とは。2023年、日本を世界一に導いたWBC前監督の栗山英樹氏との対談で本音を語った。

(NHKBS 1月4日午後10時40分~放送「栗山英樹 ザ・トップインタビュー」より)

世界一への戦略は

(栗山)
「世界一のロードマップ」。これはものすごく大きなテーマですが、戦略を立てる、世界一に行くためにリーダーとしてまず1番大切にしなければいけないことは?

(柳井)
戦略という言葉よりもね、やっぱり世界一になるという覚悟をしないといけないでしょう。

自分はこういう風になりたいっていうんだったら、それになるという覚悟をしないかぎり、それは無理ですよね。

生き方の問題だと思うので、こういうふうに生きるという生き方で覚悟して、それをやっていこうっていう、本気でそれをやろうということの気持ちがあって、初めてその次に戦略。

だったらどういう方法でやろうかということで。その強い気持ちっていうか。

野球でもスポーツでもそうですけどね。勝ちたいという強い気持ちがないかぎり勝てないですよね。

(栗山)
まず自分が本当に心の底からこうなりたいと思った瞬間に、何かやることも見えてきますし、こういう順番でやろうと出てきますよね。

会社の中も、やっぱり1人1人、これだけ社員がいる中で、その浸透とか、そういうのってすごく重要になってくるんですか?
(柳井)
そうだと思います。

やっぱり個人個人が強くそういうことを思ってみんなの力として強くならないとだめだし、そういうものがないと全体的に強くならないし。

またそこで国が違ってくるんですよね。今度は。

僕たちの場合は、世界中の国で商売をやってて、そこのやっぱりそれこそ監督、社長というか、そういう人たちがやっぱり世界一という前に、その国で一番になりたいなというふうに思わないといけないの。

その総和が世界一になる。そういうことだと思いますけどね。
ファーストリテイリングの従業員は世界でおよそ11万人。「一番になりたい」という意識の共有にあたっては。
(柳井)
一方通行をまずやらないと。トップダウンかボトムアップかって言うでしょう。でも、トップダウンがないところにはね、ボトムアップないんですよ。

リーダーはリーダーとしてね。明確な指針。その小さいところから大きいところまで。

自分たちがこういう風にするんだよっていうことを言わないかぎり、そっちの方向へ行かないでしょう。

成長をどう実現してきた?

柳井氏の歩みは50年前、山口県の小さな紳士服店からスタートした。

23歳の時、父が経営していた店に入社し、経験を積む中で、紳士服の枠を超えて新しいカジュアルウエアの店を作りたいと思うようになったという。
入社から12年、35歳の時、広島にユニクロの1号店をオープン。

独自の商品を開発し、販売までを自社で一貫して行うスタイルをつくりあげ、成長への足がかりをつかんでいった。

当時(1991年)の店舗数を3年で3倍以上の100にするという大胆な目標を掲げ、3年後に宣言どおり目標を達成。会社を上場させた。

無謀と挑戦の違い

(栗山)
無謀ですよね。すごいとは思うんですけど、僕がその立場だったら結構不安になったりとか、これは大丈夫かなと。

(柳井)
それは不安ですよ(笑)。本当に主力銀行がだめだったら、その時のウチの現場をよく調べてくれたら、僕はどこの銀行でも応援してくれたっていうふうにその時は思っていました。

(栗山)
ということは一見無謀に見えますけれども、きちんとしっかりした挑戦だったということですね。

(柳井)
全然無謀じゃないですよ、それは。自分で準備して挑戦する

で、たとえそれで失敗しても、もう一回考えて、他の銀行なり、どういう方法でやっていくのかっていうのを考えたら、解決策はあるんじゃないですか。

無謀なくらいの挑戦をやるようにしないといけないんですけれど、現実を見ないといけない。

現実を見て、お前の実力はこうだから、今はそんなこと考えて、そんなことをやってもむだだよというふうに、監督とかコーチが言わないといけないんじゃないですか。

(栗山)
なるほど。ということは、例えば、若い社員の皆さんがむちゃくちゃなことを、これやりたいんですけど、とか言った時には?

(柳井)
もうダメよ(笑)。やっぱり自分というものを知らないとそんなできないでしょう。ほとんどの人が自分を知る必要を知らない

自分は何者でどこに行くのか。で、自分ってのはどういう人間でどういうとこが長所でどういうとこが短所で。

どうしたらみんなとうまくやっていけて、どういうふうにしたら、チームのリーダーだったら、チームのメンバーがしたがってついてきてくれるのか。

あるいはチームの一員をどうやったらうまく生かしていけるのか。なんかそういうことが必要なんじゃないですかね。

会社を飛躍させるには

“無謀なくらいの挑戦”を続け、会社は大きな飛躍を遂げた。
低価格の「フリース」、東レと共同開発した薄くて暖かい「ヒートテック」などを生み出し、海外での店舗数を拡大。

2018年には子会社「ユニクロ」の海外売り上げが国内を上回り、日本を代表するグローバル企業となった。

10年ごとに売り上げを3倍にする飛躍を続け、2023年8月までの1年間の売り上げはおよそ2兆7000億円と、過去最高を記録した。
(栗山)
いま、絶好調です。

(柳井)
絶好調でもないですけどね。毎日もうね、問題の続出ですよ。

(栗山)
そうですか。それこそ表現として、そういうふうに感じることがあるんですけど、いい時ってどちらかというと、僕はすごく怖いという感覚があります

(柳井)
怖いです、もうその通りですよ。僕はね、成功は復讐をすると思ってるんですよ。成功の復讐。

いい時にね、傲慢になったり、おごったりするとすぐ失敗するでしょ。

(栗山)
はい、野球もそうなので。

(柳井)
みんなね、それを続くっていうふうに勘違いするのよ。こんなものは続かないのよ。

だから細心の注意で成功した時こそ、細心の注意で経営しないといけないし、さっきの基本じゃないけど、基本は大丈夫かっていうのを全部確認しないといけないですよね。

それができて初めて、みんなが「ああ、これだと大丈夫だ」と思った瞬間に飛躍するんじゃないですか。そういう時にチャンスが来るんですよ。
(栗山)
会社がぼーんと飛躍する時に、何か大事な要素って組織としてはあったりするんですか。

(柳井)
だいたい会社の売り上げが3倍になれば、根本的に前のことを否定しないといけない

(栗山)
否定するんですか。

(柳井)
否定するということよりも、同じ方法で繰り返すと、どんどんダメなのでしょう。

そうじゃなくて、例えば年収が10億だったら30億の時はどうしたいのか。30億だったら100億、100億だったら300億、それぞれもう全部を別会社のように変えて

例えば今だったら大体3兆円ぐらいの売り上げなんですよね。で、10兆円の時はどういう会社にならないといけないのか。そのためにみんなで準備しましょうという。

仕事をどういうふうに変えたらいいのか。組織も全部それによって変えて、自分ができることと、全員が協力しないとできないでしょう。
世界一のZARA(インディテックス)の売り上げは4兆円を超え、柳井氏の挑戦は今も続いている。

世界を目指すチームづくり

(栗山)
いい人材を見極めるコツ。これはどうお感じですか。

(柳井)
あったら教えてもらいたい(笑)。どうやって見極めます?反対にお聞きしたいですけどね。

(栗山)
僕もこれが難しくて、というのは野球の場合はまず人柄というか心の部分と、それから持っている技術、能力っていうんですかね。
身体能力と技術の部分、この3パターンから一応、どういうのが持っているのかなとは見るんですけど、僕、意外とそれで見極めても、うまくいかないです。

(柳井)
いや、僕らもそうなんですよ。その人を面接するでしょう。あるいは最初一緒に仕事するでしょう。でも、ずっと一緒に仕事をしていって、思った通り育成できないですよね。なかなか、1人1人は個性違うから。

だからね、いい人材を見極めるコツっていうのは、その人が結局自分として何をやりたいと思っているかっていうことと、その人の能力の問題なんじゃないですかね。

(栗山)
例えば大事なものを任せてうまくいかないケースもありますよね。そういう時ってどんな言葉をかけるんですか。失敗した部下に、伸び悩む部下に。

(柳井)
よく自分で考えろってことですよね。失敗したんだけど、失敗したって思ってない人が多いんですよ

みんなそうですよ。あいつが悪いから俺は失敗したって。伸び悩んでいるんだけどね。伸び悩んでない、自分が成長してると思ってるでしょう。

だから失敗したんじゃないかということと、伸び悩んでいるんじゃないかいうことを正確に伝えてあげるっていうのが一番いいんじゃないですか。それから自分が考える。それで、自分が考えてどうやって自分が立ち直るか考えてみろって。それが一番いい指導方法なんじゃないですか。

“裸の王様”にならない

(栗山)
柳井会長のいる位置を思うと、裸の王様になるというか、誰も何も言わなくなってしまう可能性ってあるのかなと思っちゃうんですけど。

(柳井)
いやあのね、言わないと思うんですよ。言わないと思ってるんだけど、でもね。

やっぱりいろいろな苦情とかいろいろな問題起きてるのを自分の問題として捉えないといけないし、それぞれの人が自分の問題として捉えないないといけないし、裸の王様になるような余裕はないですよね。

裸の王様になったらもうすぐダメになる。会社が傾いていくはず。

僕は一生懸命仕事するよりも社員が一生懸命仕事してもらって全体のことを考えてくれるっていうことの方が大事ですよね。

(栗山)
そのために、例えば皆さんの環境とか、そういったものをあげたりとか。

(柳井)
そういったこともそうだし、部署が違うと、自分の部署のことしか考えない。そこでまた城を作るわけですよ。その城をぶち壊す。裸の王様になっていくんですよ。1人ずつが。それは人間の習性なの。だから裸の王様にならないように気をつけないといけないっていう。

(栗山)
その部署、部署で、こう力を持たれると、当然一つの組織になっちゃいますけど。壊すというのは、どういう作業に?

(柳井)
配置変えですよ。その部署をね。違う人に任せて、こういう方針でやってくれっていうことをやるっていうことですよね。

(栗山)
それは厳しいかもしれないですけど。

(柳井)
厳しくないですよ。その人のためですから。

それで潰れたらせっかくの才能がむだになるよね。僕はそういうことをするので、なんかね無情みたいに思われてるんですけど。でもそれは放っておく方がよっぽど無情でしょう

(栗山)
本当にそう思います。その人のためにならないですもんね。

(柳井)
ならないし、その人の部下になったらもう最悪ですよね。手段ですから、部下が。部下が手段だったらダメですよね

これからのリーダーに求められるもの

最後に、これからのリーダー像について語ってもらった。
(柳井)
やっぱりビジョン持たないとね。ビジョンというのは、将来、ひょっとしたら、こういうふうになる、あるいはなりたい。この会社をこういうふうにしたい。あなたはこういうふうになれるということを言えるリーダーにならないといけないんじゃないですか。

現実と違っててもいいんですよ。何か現実にとらわれて、その延長線上に将来があるようにみんな思っているでしょう。そんなことはないでしょう

世界情勢がこういうふうになると、誰も思ってないじゃないですか。

日本がね、非常に残念なんですけど、世界のGDPで18%が、4%ですよ。(世界のGDPに占める日本の割合 1995年:17.6%、2022年:4.2%)

周辺の国はどんどん成長しているのに日本だけが成長しない。その中でWBCが世界一になったっていうでみんなびっくりして希望を持ったんですよ。

(栗山)
よくビジョンという言葉は聞くんですけど、なんかそれは具体的な、こうイメージを持つとか、いろいろなことがあると思うんですけど。

(柳井)
計画と準備をリーダーは指示してやらせないといけないし、1人1人におまえは何をするんだということと、今の仕事ぶりと将来の仕事ぶり、どう違うんだということを言わないといけない。

今の延長線上で全部将来いけるというふうに思っている。いけないでしょう。同じことを繰り返すようになるんですよ。人間は

でも、うちは服を変え、常識を変えて、世界を変えていくっていう。服屋でこんなコーポレートステートメントを持った会社はないですよ。

ですから、自分の人生もそうだし、ビジネスっていうのはそういうものだというふうに思わないといけないんじゃないですか。

服を変えて常識を変えて世界を変えていく。

本当にいい服を提供したいという、できているかどうか知りませんよ。したいっていうそういう気持ちを持って仕事をしてもらいたいって思いますよね。
経済部記者
河崎眞子
2017年入局
松山局を経て現所属