いよいよ目前 2024年問題 その荷物ちゃんと届きますか?

いよいよ目前 2024年問題 その荷物ちゃんと届きますか?
新しい年・2024年が始まりました。
今、間近に迫っているのが、物流の「2024年問題」です。
4月以降、トラックドライバーの時間外労働の規制が強化され、これまでどおり荷物が届かなくなるのではないかと指摘されています。

中でも東北は2030年にはこれまでの4割以上の荷物が運べなくなるとされています。
この先、荷物はちゃんと届くのでしょうか?

(秋田放送局 中尾絢一 仙台放送局 吉原実)

トラックドライバーに密着すると…

2030年には、これまでの46%の荷物が届かなくなると予測されている秋田県。(「野村総合研究所」の試算)

その現状を知るため、地元のトラックドライバー、佐々木大哲さん(47)の1日に密着しました。
トラックドライバー 佐々木さんのある1日のスケジュール

5:30 始業
6:00 会社を出発
15:00~16:00 休憩
17:00 会社に戻る
18:20 終業

※時間外勤務は4時間
11月のある日の佐々木さんの1日です。
出勤は早朝、午前5時半。30分後の午前6時に会社を出発しました。
この日は、食料品を届けるため、県内の介護施設や飲食店など36か所を回りました。

会社に戻ってきたのは午後5時。
退勤は午後6時半前で、この日の時間外労働はおよそ4時間になりました。
4月以降、トラックドライバーの時間外労働は年間960時間・1か月平均で80時間が上限になります。

去年10月、佐々木さんの働く運送会社でこれを超えたドライバーは全体の約15%にのぼりました。
秋田 トラックドライバー 佐々木大哲さん
「自分の中ではあまり長いとか短いとかいう感覚はなく、日々の業務をしっかり終わらせると、1か月でこれくらいの労働時間になっちゃうのかなという感じです」

このままでは花が届けられなくなる

このままでは花が出荷できなくなるのではと危機感を募らせる人もいます。
福島県いわき市の花農家、薄葉大介さんです。
この日出荷したのはシクラメン。
夏を除くほぼ毎日、旬の花を全国に出荷してきました。
そこに直撃したのが、トラックドライバーの2024年問題。
この日、花を運んでくれたのは宮城県の運送会社のドライバーです。
花を運ぶドライバーの1日のスケジュール

4:50 始業
6:50~7:50 休憩
7:52 トラック運行開始

(5~10分ほどの短時間休憩が9回)

17:25 トラック運行終了
19:00 荷積みなどの作業終了

※時間外勤務は約3時間20分

仙台市にある拠点に出勤したのは午前5時前。
会社の業務をおよそ2時間行った後、休憩を挟んで、午前8時前に出発。
福島と宮城で10軒の農家を訪問し、仙台市の拠点に戻ったのは午後5時半ごろでした。

戻った後は首都圏に向かう別のトラックへの花の積み替えの仕事もあります。
この日の時間外労働はおよそ3時間20分になりました。

ドライバーの時間外労働を抑えようと、仙台の拠点から遠い農家との取り引きを今より減らすことも検討しています。
宮城 運送会社 小野寺敦志社長
「1軒で大量の数がでればちょっとまた違うんですが…。努力だけではどうしようもないところがあって、そこをどれほど協力を荷主の皆さんにしてもらえるかというところだと思います」
衝撃や温度の変化から花を守る特殊なトラックを運行できる運送会社は少なく、いわき市の花農家の薄葉さんが取り引きできる会社は、ほかに1社しかありません。

これまでどおり花が出荷できるのか、先行きに不安を感じています。
福島 花農家 薄葉大介さん
「植物の特性を長年やっているドライバーさんはよくご存じなので、安心して品物を運んでもらっています。ただ、運送会社で採算がとれないとなった場合に、生産量を維持することは難しくなります。お互いの存在がなければ成り立たない関係だと思っています」

ネックは荷物の配送以外の業務

トラックドライバーの長時間労働の問題。
ネックになっているのが運搬以外の業務です。
物流業界では、配達先で荷物をどこまで運ぶか、どこまで検品するか、仕分けするかなど、契約に明確な記載がないのが一般的です。

届け先から要望があれば運搬以外の業務もできる限り対応するのが業界の商慣習になってきました。
これらは「サービス」で行われることも多いといいます。

秋田の運送会社では、改善に向けて、去年春から荷主企業と話し合いを始めました。
運搬以外の業務を減らし、運ぶことに専念できないか模索しています。

ただ、荷主企業としても、客である届け先の要望をむげにできず、対応は簡単ではないといいます。
秋田 運送会社 近藤哲泰社長
「さまざまな要因でサービスの商慣習が長く続いているものを変えていくというのは、関わっている人たちみんなで協力していかないと難しい。労働時間の短縮に向けてお願いしていることが改善していかないとなると、法律を守って運行することができなくなるので、運べなくなるおそれがある」

トラックドライバーの負担を減らすには

トラックドライバーの負担を減らすことで、物流の体制を維持してほしい。
秋田では荷主の模索が始まっています。
しいたけや枝豆などを出荷するJA全農の園芸センターです。
これまでの慣例でドライバーがしていた積み込みの準備。
去年から、荷主である全農の職員がすることに改めました。
JA全農あきた 近野俊幸さん
「3キロの箱、だいたい2800箱を夕方くらいまでにやる予定です。ちょっと遅れているなという時は私が手伝いに来たり、あとは早く終わった持ち場の人が手伝ったりして…。負担はかかっていないと言えばうそになるんですけども、それも輸送のためなのでやらざるを得ないのかなと」

“物流への意識を変える必要”

年が変わり、2024年問題がいよいよ現実になろうとしています。

物流業界では新たな輸送拠点を設けたり、ドライバーの採用活動を積極化させる動きも出ていますが、それは比較的規模が大きい企業に限られています。
ほとんどを占める中小企業は、限られた人材と予算の中での対応を迫られています。

物流問題に詳しい専門家は2024年問題をきっかけに社会全体が物流への意識を変えていく必要があるといいます。
立教大学 首藤若菜 教授
「これまでは『できるだけコストが安い方がいいし、時間通り届けてくれればそれで何の問題もない。ドライバーが休憩とってなくても、長時間働いてても自分たちは何も知らないし、そんなことに責任を負われない』などと考えられてきました」

「しかし、そんな商慣行を変えていくきっかけとして、この2024年問題を捉えることができるといいなと思っています。もし、変えられなかった場合には、物流の持続可能性がなかなか実現できないのではないかと感じます」
近所のスーパーで、新鮮な旬の魚や野菜、全国各地の特産品も気軽に買える時代。
その商品、誰がどうやって届けているのか、少し考えてみませんか?
秋田放送局 記者
中尾絢一
釧路局や苫小牧支局を経て2021年から秋田局で経済担当
仙台放送局 記者
吉原実
新聞記者を経て2023年から仙台局
主に金融や産業政策などを取材