【30日詳細】イスラエル軍 ガザ地区南部で激しい戦闘継続

イスラエル軍は、ガザ地区の中部や南部で地上作戦を続けていて、南部ハンユニス周辺では激しい戦闘が続いているとみられます。一方、ガザ地区ではここ数日人道支援物資の搬入が滞っていて国連は、支援が行き届くよう戦闘の停止を重ねて訴えています。

イスラエルやパレスチナに関する日本時間12月30日の動きを、随時更新してお伝えします。

イスラエル国防相「目標達成遠くない」 ガザ南部での成果強調

ガザ地区の中部や南部での地上作戦を拡大しているイスラエル軍は30日、すでに包囲したとするガザ市でも激しい戦闘を続け、イスラム組織ハマスの戦闘員を数十人、殺害したと発表しました。

イスラエルのガラント国防相は29日、「ガザ地区で展開している集中的な作戦は目標達成まで続く。現在は南部のハンユニスに集中している。成果は見事なもので、目標達成は遠くない」と述べ、ハマスの幹部が潜伏しているとみる南部ハンユニスでの作戦で成果をあげているとアピールしました。

ガザ地区の保健当局は29日、これまでの死者が2万1507人にのぼったとしています。OCHA=国連人道問題調整事務所はイスラエル軍が作戦を拡大しているハンユニスでの戦闘が激化した影響で、ここ数日で10万人以上がさらに南のラファまで避難したと指摘しています。

多くの人が避難生活を送り人道支援物資の搬入が喫緊の課題となる中、OCHAは29日にガザ地区に入ったトラックの数は81台と、引き続き不十分だとしていて、さらなる搬入のために戦闘の停止が必要だと訴えています。

ガザ地区 少なくとも10の墓地で一帯破壊など被害 衛星画像分析

NHKは、ガザ地区の各地を撮影した衛星画像を入手し、地区内にある墓地の被害の実態を独自に分析しました。その結果、確認できた28の墓地のうち、少なくとも10の墓地で墓が壊され一帯がさら地に変わっていたり、クレーターができたりするなどの被害が出ていることが分かりました。

中には複数の被害の痕跡が確認できた墓地もあり、被害はあわせて12か所にのぼっています。このうち、南部ハンユニスの中心部から1.7キロほど東に位置する墓地では、今月6日時点で被害の痕跡はみられませんが、22日に撮影された衛星画像では2500平方メートルほどの区画がまるごとなくなっていて、多数の車両が止められているのが確認できます。さらにそのすぐ南側には、南西方向に太いわだちのようなものが確認でき、地面が削り取られているのが分かります。

また、北部のジャバリアで10日に撮影された画像では、墓地に面する道路脇から南東方向に向かって線状の濃い茶色の痕跡が複数地面についているのが見てとれます。ロイター通信が13日に地上で撮影した現場の映像でも、地面が広く削られ、車両が通った跡がある複数の場所が確認でき、土砂とがれきの山とともに壊れた墓石が辺りに散乱しています。

スイスに本部がある人権団体「ユーロ地中海人権モニター」は14日、イスラエル軍による墓地を標的にしたたび重なる攻撃で多くの墓が破壊されていると発表していて「イスラエルは死者と墓地の神聖さを組織的に侵害していて、国際人道法の原則に著しく違反している」として、死者を埋葬する墓地を尊重し、適切に維持されることを定めるジュネーブ条約などに違反していると指摘しています。

一方、イスラエル軍は、NHKの取材に対して「ハマスはモスクや学校、病院、墓地といった場所からも行動している。軍事目標に対する攻撃は、実行できる予防措置を講じ、民間人や民間財産に予想される偶発的な損害が攻撃によって予想される軍事的利益との関係で過大でないことを評価した上で行うなど、国際法の関連規定に従っている」とコメントし、あくまで国際法を守って軍事作戦を進めていると主張しました。

専門家 “憎しみ再拡大で問題が一層長引く結果を生む”

防衛大学校の立山良司 名誉教授は「『ハマスのせん滅』という政治的スローガンを達成しようとイスラエル軍はこれまでにないレベルの攻撃を続けていて、その現れの一つが墓地への攻撃だ。ただ、宗教上の施設への攻撃を最大限避けるための配慮がされているようには見えない。アメリカのバイデン政権からも戦闘のレベルを下げるよう圧力がかかっていて、残された時間も限られていることからその焦りが出ているとも言える」と述べました。

また、ガザ市やハンユニス近くの墓地がさら地にされ、車両が集まる場所になっていることについて「ガザ市もハンユニス周辺ももともと非常に人口が多い。車両をとめるスペースがある病院の敷地なども避難する人たちが殺到していて適当な空き地がない。このため墓地をならして拠点のようにしているのではないか」とした上で「これだけ多くの墓地が攻撃され、車両の陣地のように使われる場所があるのは、国際法に違反する可能性がある」と指摘しました。

また、こうした墓地への行為につながった背景について「イスラエルはここ20年ほどで右傾化が進み、極端なナショナリズムが主流になっている。イスラエル軍にとってパレスチナ人は徹底的にたたく、憎しみの対象になってしまっている」と分析しています。

多くの人がイスラム教やキリスト教を信仰するガザ地区では、死者を土に埋葬する土葬が一般的で、立山名誉教授は「お墓は代々きちんと守っていく神聖なもので、そこを車両で壊されたら死者を冒とくされたと思うだろう。イスラエルへの憎しみを再拡大させてしまい、ガザ問題が一層長引く結果を生むと思う」として、長期的にも影響が出る可能性があるという見方を示しました。

“ガザ地区への攻撃は集団殺害犯罪” 南アフリカがICJに提訴

オランダ・ハーグにある国連の主要な司法機関、国際司法裁判所は南アフリカが29日にイスラエルを提訴したと発表しました。

訴えの中で南アフリカは、ことし10月のハマスによる襲撃に対する報復として行われているガザ地区でのイスラエルによる行為について、民族などとしてのパレスチナ人を破壊する意図をもって行われ、集団殺害犯罪にあたると主張しています。

そして集団殺害犯罪を防止し処罰する義務を定めたジェノサイド条約にイスラエルが違反したとしてその責任を裁判を通じて追及するとしています。

南アフリカはさらに、パレスチナの人々を守るため暫定的な措置として、イスラエルに対し、ガザ地区での軍事作戦をただちに停止し、人々を死傷させたり強制的に移住させたりすることをやめて、人道支援へのアクセスを認めることなどを命じるよう、裁判所に求めています。

イスラエル外務省 ICJに南アフリカの訴えを退けるよう求める

イスラエル外務省は声明を出し、「南アフリカの主張は事実としても法的にも根拠がない。イスラエルは国際法を順守している。ガザ地区の住民は敵ではなく民間人への危害を最小限におさえ、人道支援物資を搬入するための努力を続けている」としています。そのうえで、ICJ=国際司法裁判所には南アフリカの訴えを退けるよう求めました。

イスラム組織ハマス 提訴について「高く評価する」

ICJ=国際司法裁判所に南アフリカがイスラエルを提訴したことについて、イスラム組織ハマスは30日、「高く評価する」とする歓迎のコメントをSNSに投稿しました。このなかでハマスは、「南アフリカの行動は、イスラエルの指導者の責任を問う重要な一歩だ」などとしたほか、他国に対しても、同様の動きを呼びかけています。

ガザ地区での死者 1週間で1000人超

イスラエル国防省は29日、ガラント国防相が北部ハイファの空軍基地を訪れた際の映像を公開しました。この中で、ガラント国防相は「われわれはガザ地区で集中的に作戦を展開していて、これは目標が達成されるまで続く。われわれの成果は見事なもので、目標達成も遠くない」と述べ、ハマスの壊滅に向けて、着実に作戦を実行していると強調しました。

一方、イスラエル軍が軍事作戦を拡大させている南部や中部では、連日、住宅などへの空爆が行われ、犠牲者が増え続けています。現地の保健当局は29日、過去24時間に187人が死亡し、これまでの死者は2万1507人に上ったと明らかにしました。ガザ地区での死者はこの1週間で1000人を超えていて、状況は悪化の一途をたどっています。

WHO “18万人近くが呼吸器系の感染症で苦しんでいる”

ガザ地区の人道状況が悪化するなか、WHO=世界保健機関は、10月中旬以降、18万人近くが呼吸器系の感染症で苦しんでいるほか、下痢の症状をともなう感染症も13万6400人に上り、このうち半数は5歳未満の子どもであることを明らかにしました。

また、5万5400人がシラミやダニによる感染症にかかっているということです。

WHOのテドロス事務局長は29日、「ガザ地区の多くの住民が南部への避難を余儀なくされ、そうした人々で、医療施設は深刻な過密状態となっている。感染症の脅威が高まっていることを非常に懸念している」とSNSに投稿し、ガザ地区の衛生環境が急速に悪化している状況に強い危機感を示しました。

ガザ地区 人道支援物資 搬入の滞りも

イスラエル軍は激しい空爆に加え、中部や南部での地上作戦を続けていて、29日は南部ハンユニスでハマスの戦闘員を排除し、拠点を破壊したなどとしています。

またイスラム組織ハマスも、イスラエル軍の戦車を破壊したなどと主張していて、南部ハンユニス周辺では激しい戦闘が続いているとみられます。

こうした中、人道支援物資を届けるためガザ地区に入るトラックは、ケレム・シャローム検問所からの搬入が始まった12月17日以降は1日に200台以上にのぼる日もありましたが、ここ数日は100台前後にとどまっています。

ガザ地区内部でも激しい戦闘によって輸送が滞っていて、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関ガザ事務所のホワイト所長は29日SNSへの投稿で「北部から南部に戻る途中のトラックの車列がイスラエル軍による銃撃を受けた」と明らかにしました。

さらに国連の人道部門トップを務めるグリフィス事務次長は、たび重なる空爆で人道支援物資の搬入が困難になっているとして、戦闘の停止を重ねて訴えました。

イスラエル軍が地上作戦を拡大するにつれて、ガザ地区では住む場所を追われる人が日に日に増えており、支援物資が安定的に搬入できるかが課題になっています。

イスラエル軍 “ハマス指導者の潜伏先の1つを発見”

イスラエル軍は29日、SNSへの投稿で、ガザ地区北部のガザ市近郊の地下で、ハマスのガザ地区トップを務めるヤヒヤ・シンワル指導者の潜伏先の1つだと主張する地下の拠点を見つけたと発表しました。

この拠点は、深さおよそ20メートル、長さ218メートルある、長く枝分かれしたトンネルの途中にあったとしています。

トンネルには電気設備のほか、換気や下水の施設、さらには礼拝所や休憩室なども見つかったとしていて「長期間滞在し、戦闘が行えるようにつくられていた」と指摘しています。

イスラエル軍は、このトンネルについて、調査を行ったうえで特殊部隊「ヤハロム」の兵士らによって破壊したとしています。

イスラエル軍が公開したトンネル内部の様子を撮影したとする動画には、簡易ベッドのようなものが設置された狭い部屋の様子や、地下のトンネルを一斉に爆破する様子を上空から撮影したとみられる映像も含まれています。

米政府 イスラエルに約1億4750万ドル相当武器売却 承認

アメリカ国務省は29日、イスラエルに対し、砲弾や関連の装備品などあわせておよそ1億4750万ドル、日本円にしておよそ208億円に相当する武器の売却を承認したと発表しました。通常、外国などへの武器の売却は議会の審査を経て行われますが、国務省は「イスラエルに対し直ちに武器を売却すべき緊急性がある」として議会の審査を省略する手続きをとりました。

アメリカ政府は今月上旬にイスラエルへの戦車の砲弾などの売却を決めた際にも同様の手続きをとっています。バイデン政権はガザ地区の民間人の保護を重視していると強調していますが、犠牲者が増え続ける中、イスラエルに議会の審査を経ずにさらなる武器を提供することには国内外から批判の声が強まることも予想されます。

パリ中心部では人質解放を訴える抗議活動

ガザ地区で拘束されている人質の解放に向けた駆け引きが続いているとみられるなか、29日、フランス・パリの中心部では、一刻も早い人質の解放を訴える抗議活動が行われました。

抗議活動は、フランス国内のユダヤ系団体の呼びかけで行われ、パリ市内のエッフェル塔近くの広場には、ユダヤ系のフランス人など、およそ100人が集まりました。

ガザ地区ではいまもおよそ130人の人質が拘束されているとされ、一時的な停戦や人質の解放に向けて関係国などの間で激しい駆け引きが続いているとみられます。

参加者は、「人質全員の解放を」と書かれた大きな横断幕を掲げ、フランス国歌を歌って連帯を示すとともに、人質の一刻も早い解放や、停戦が必要だと訴えていました。

73歳の女性は、「人質の家族は解放のため戦闘の停止を求めている。私たちの気持ちも同じだ」と話していました。

デモを呼びかけた団体の代表は「人質にとって一番の脅威は忘れられてしまうことだ。彼らが捕らえられているかぎり、フランス社会にもともに声をあげるよう呼びかけ続けたい」と話していました。

国連安保理で緊急会合 ガザ地区の人道状況悪化に懸念示す

国連安保理では29日、日本時間の30日未明に緊急会合が開かれ、各国からは、ガザ地区の人道状況がさらに悪化しているとして、人道支援物資の搬入を増やすよう求める意見のほか、ガザ地区だけでなくヨルダン川西岸でも衝突によって犠牲者が増えているとして、懸念を示す意見が相次ぎました。

このうちフランスのドリビエール国連大使は「悪化の一途をたどるガザ地区の人道危機を深く憂慮している。イスラエルに対し、ガザ地区への支援物資の搬入を促進するよう求める」と述べました。

またイギリスのウッドワード国連大使は「イスラエルは国際人道法を守り、テロリストと民間人を明確に区別しなければならない」と強調したほか、アメリカの代表もイスラエルを擁護する立場を示しながらも「ガザ地区とヨルダン川西岸で、パレスチナ人の死者が前例のない数にのぼっていることを懸念する」と述べ、イスラエルに対し民間人を保護するよう求めました。

一方で、イスラエルのエルダン国連大使は、ハマスに拘束されている人質の名前をひとりずつ読み上げ「すべての人質が解放されるまで戦闘はやめない」と改めて主張しました。