年末年始の観光地 にぎわい戻ったものの 人手不足が深刻に

新型コロナが「5類」に移行して初めて迎える年末年始。観光客の増加が見込まれる一方で、依然として人手不足が深刻な課題となっています。浅草の人力車、静岡県の温泉旅館…。各地の状況は。

浅草の人力車の従業員 今も2割減ったまま “争奪戦です”

28日の東京・浅草は、家族連れや外国人観光客が訪れ、にぎわいを取り戻していて、年末年始は久しぶりに遠出を楽しみたいという声も多く聞かれました。

兵庫から家族で訪れた40代の男性は、「いつもは年末年始にあまり遠出をしないのですが、ことしは外で楽しみたいと思い東京を訪れました。周りから聞こえる会話が中国語や英語で、だいぶ活気が戻って来ていると感じます。どこもにぎやかで楽しいです」と話していました。

フランスから訪れた男性は「新型コロナの影響もあって8年ぶりの海外旅行です。日本のおいしいものをたくさん食べたいです」と話していました。

一方で、観光業では人手不足に悩む声も聞かれました。

浅草で人力車で観光案内などを行う会社では、コロナ禍で一時休業したことで離職が相次ぎ、人力車を引く従業員の数が25人から12人にまで減りました。

その後、本格的な採用を再開し従業員の数は20人まで戻ったものの、今も2割減ったままとなっています。

サービスを利用する人の数はコロナ禍前の水準まで戻っているため、受け付けを制限せざるをえない状況にあるということです。

人力車を運営する会社の藤原英則代表
「本当に何の制限もない久しぶりの年末年始ということで、私たちも期待しています。一方で従業員の確保に努めていますが、どこも争奪戦となっていて、しばらくこの人手不足の状況が続くと思うので、地道に採用活動を続けていきたい」

宿泊施設では 旅先で仕事を手伝ってもらうサービスも

観光客などの増加が見込まれる一方で、人手不足が課題となっている宿泊施設では、旅先で給料などを用意し、仕事を手伝ってもらうサービスを活用する動きが広がっています。

静岡県沼津市の旅館では、新型コロナなどの影響で従業員が24人から16人に減っていて、繁忙期は客室の3割ほどは予約を受けられない状態だということです。

こうした状況を改善したいと、この旅館では給料や宿泊場所などを用意することで旅先で仕事の手伝いをしてもらう仲介サービスを活用して人手不足を補っていて、この年末年始は2人の希望者が旅を兼ねて働いています。

このうち茨城県から訪れ年末年始に2週間滞在する40代の女性は、けさは朝食の配膳をしたあと客室の掃除を担当し、ゴミを回収したりベッドメイキングを行ったりしていました。

午前11時ごろに休憩時間に入ると、観光スポットになっている近くの海辺にある神社を訪れ景色を楽しんでいました。

この旅館の場合は、食事はまかない付きで勤務時間以外は旅館の温泉も利用できるということです。

茨城県から訪れた女性
「年末年始は忙しい時期で人が足りていないと思いお手伝いにきました。宿泊先が無料になって長期間滞在でき、いろいろな場所に行けるのが魅力です」

旅館の櫻井泰斗フロントマネージャー
「従業員が足りなくてお断りするのは非常に心苦しいです。このサービスで来ている人はモチベーション高く働いてくれる印象で、旅館としては従業員を休ませるなど余裕を持ってお客様をお迎えできるので、とても助かっています」

「正社員が不足」と回答した企業 52.1% 民間信用調査会社調べ

新型コロナの「5類」移行後初めての年末年始となり、国内や海外へ出かける人は感染拡大前の水準近くまで回復する見通しとなっています。

大手旅行会社のJTBは、全国1万人へのアンケートや航空各社の予約状況などをもとに年末年始の旅行者の数を推計していて、12月23日から1月3日までの期間に、1泊以上の旅行をする人はのべ2858万人で、感染拡大前の4年前に比べ95%の水準まで回復する見通しだとしています。

海外旅行者は前の年から2.6倍に増えているものの、円安などの影響で感染拡大前の7割となっていますが、国内旅行者は感染拡大前の水準に迫っています。

しかし、こうした観光需要の回復によって各地で人手不足が深刻化しています。

民間の信用調査会社帝国データバンクがことし10月に、全国2万7000余りの企業に人手不足について調査した結果、正社員が不足していると回答した企業は52.1%に上り、過去最高を記録した2018年11月の53.9%に次ぐ高い水準なりました。

業種別では、
▼「旅館・ホテル」が75.6%と最も高く
▼「情報サービス」が72.9%
▼「建設」が69.5%などとなっています。

特に旅館やホテルでは、コロナ禍の観光需要の落ち込みで人手不足はいったん落ち着いていましたが、経済活動の再開に伴って需要が回復したことで、感染拡大前の水準を超える人手不足となっています。

専門家 “賃上げでいかに人を集めるかが大事”

帝国データバンク情報統括部 藤井俊部長
新型コロナの5類移行後、人手不足感が一気に高まったという印象がある。インバウンドだけでなく国内の観光需要も拡大していく。さらに今後は運送業などの分野で言われる『2024年問題』や、いわゆる『団塊の世代』が後期高齢者になる『2025年問題』があり、今後、人手不足感はますます強くなる。
デジタル化などで機械に置き換えられる部分は設備投資して置き換えていくことが大事だが、これからは賃金を上げていかに人を集めるかが大事になってくる。