大阪・関西万博 9割近くが「工事参画に興味ない」建設業界調査

準備の遅れが指摘されている2025年の大阪・関西万博の工事をめぐり、建設業界の団体が全国の企業に対し、工事に参画する意向があるか調査した結果、9割近くが「興味はない」と回答していたことがわかりました。専門家は、状況が見えず、不確実性が高いと受け止められていることの表れだと指摘しています。

全国建設業協会所属の775社から回答

再来年の大阪・関西万博では、およそ60か国が自前で建設する「タイプA」の方式を計画していますが、これまでに着工した国はなく、準備の遅れが指摘されています。

こうした状況を受け、ことし10月から11月にかけ、全国建設業協会が各都道府県の協会に所属する1万8000社あまりを対象に、パビリオンや会場整備などの工事に参画する意向があるか調査を行い、NHKはその報告書を入手しました。

調査は、パビリオンの建設工事が進まず、博覧会協会から協力依頼が寄せられるなどしたため実施したとしています。

回答は全国775社からあり、複数回答の結果、元請けや下請けとして建設工事に参画することに「興味がある」としたのは11.8%だった一方、「興味はない」としたのは89.4%に上ったことがわかりました。また、すでに参画しているという回答は2.4%でした。

開催地の大阪を含む近畿地方でも71.1%が「興味はない」としています。

「興味はない」とした理由をたずねた質問では、
▽「地理的条件」が78.9%で最も多く
▽「施工余力がない」が59.9%
▽「契約条件が不明」が25.1%
▽「工期が厳しい」が21.2%となっています。

このほか、自由記述では
▽1、2年の開催延期で工期が担保されれば取り組む意志はある
▽人手不足の状況で工期が短い、単価が安いでは難しい
といった意見のほか、
▽問題が山積みの中で開催する意義があるのか疑問である、中止すべき、などという意見もありました。

建設プロジェクトの進め方に詳しい高知工科大学の野城智也教授は「遅くとも、そろそろ着工しなければいけない時期だと考えると厳しい状況だ。状況が見えず、不確実性が高いと受け止められていることが関心が低い要因ではないか。主催者は建設業者などとの対話で具体的な課題を聞いた上で不確実性を下げる道を探っていく必要がある」と指摘しています。

自由記述の詳細は

万博の建設工事に関する意見や要望を自由記述でたずねた設問では、次のようなものが見られました。

多かった意見は、
「働き方改革による週休2日が完全実施できる工事にして頂きたい。1、2年の開催延期を進めてほしい。工期が担保されれば取り組む意志はある」
「関心はあるが、物理的・距離的な問題から施工協力は現実的ではない」
「人手・担い手不足の状況で工期が短い、単価が安いでは難しい」
といったものでした。

「問題が山積みの中で万博を開催する意義があるのか疑問である。中止すべき」
「タイトな工期を厳守するために働く人たちに極度の負担がかからないようにしてほしい」
といった意見も複数寄せられています。

人手不足を懸念する意見では、
「興味はあるものの、現実的には弊社技術社員、協力会社の不足により参加が難しい状況である」
「人不足と働き方改革により、突貫工事は無理である」
といったものがありました。

「建設資材も高騰し見積もりするのも難しい状況、資材が入荷するまでの時間も1年待ちの材料もあると聞いていて、普通の工事でも工期の遅延が予想されているので、厳しい」
という意見もあります。

2024年4月から時間外労働の規制が強化されることをめぐっては、
「万博工事は残業規制の対象外などというウワサも出ており、施工に携わるのはリスクと考える企業も多いと思う」
「公的プロジェクトこそ率先して上限規制を守る姿勢を見せなければ、建設業界は納得できないのではないか」
といった意見が寄せられています。

実施主体の博覧会協会などに対しては、
「参加する国の具体的なスケジュールやパビリオン工事概要の情報提供が博覧会協会から少ない」
「対応が遅い。着手が遅い」
「工期に関し計画が甘すぎる」
「ここまで対応が後手後手になっているのは関係する役所などの怠慢と考える」
などの声があがっています。

関心があるとする意見では
「建物の解体には興味があるので、時期が来たら、周知機会を設けてほしい」
「鉄骨工事としての参画には興味がある」
といったものも寄せられています。

このほか、すでに工事に携わっている企業からは
「受注済みで、取り組み中だが、土木は利益が見込めなく、建築は言語、各国の法律、契約、外貨等のリスクがあるため、これまでにない労力を要している」
という回答も寄せられています。

工事の現状は

大阪・関西万博では、海外パビリオンの建設工事で遅れが指摘されています。

海外パビリオンの出展にはもともと3種類の方式があり、
▽参加国が独自のデザインをもとに自前で建設する「タイプA」
▽実施主体の博覧会協会が準備した建物を使うのが「タイプB」
▽協会が準備した建物に複数の国で入るのが「タイプC」です。

このうち「タイプA」は各国の独自性を表現しやすく「万博の華」として注目され、およそ60か国が出展を計画していますが、工事が複雑になり準備に時間がかかることも想定されます。

博覧会協会の石毛博行事務総長はことし7月の会見で、「標準的な工期から考えると年末までに着工すれば間に合うと考えている」との見通しを示していましたが、これまでに着工したところはなく、建設会社が決まっているのは27日時点で35か国にとどまっています。

NHKの取材に対し、協会は1月以降、順次、工事が着工されるとの見通しを示しています。

一方、建設業界からは、これまでに遅れを指摘する声が繰り返し上がっていて、日本建設業連合会の宮本会長は11月の記者会見で、「デッドラインは過ぎていると思っていいぐらいだ」と強い懸念を示しました。

工事のスケジュールについて協会は「タイプA」の建物の場合、来年7月までに建築を完了し、その後、内部の改装や展示品の設置などを行うとの目安を示しています。

建設を加速するため、
▽協会が参加国に代わって組み立て式の建物を建て、費用を参加国が負担する「タイプX」という方式を新たに提案したほか、
▽参加国と建設会社などとのマッチングの支援
▽工事の作業環境の改善などを進めています。

協会は「『タイプX』については2か国が申請し、数カ国が関心を示している。残りの参加国に対しても政府と連携して必要なサポートをマンツーマンで進めており、早期に一定の見通しがつくよう引き続き取り組んでいきたい」としています。

専門家「着工しないといけない時期 厳しい状況」

建設プロジェクトの進め方に詳しい高知工科大学の野城智也教授は、万博会場との距離や請け負う工事の規模など企業の事情は異なるとした上で、「遅くともそろそろ着工しないといけない時期と考えると厳しい状況だ。海外に比べて日本の多くの建設会社は特に期限を重視するが、『期限を守るためには資材の搬送や人材の確保などの不確実性が高い』と受け止められていて、それらがどのように調整されるか状況が見えないことが関心が低い要因ではないか」と指摘しています。

その上で海外の発注者や設計、施工にあたる人たちをつなぐ役割の必要性を挙げ「例えば発注する設計の完成度を高めたり、万博の主催者が人手の確保や資材の輸送を総合的に調整する機能を担ったりすることで工事を引き受けやすい環境になっていく。プロジェクトを回す担当を明確に決め、関係者で対話して課題をクリアするための手を打ったり、不確実性を下げる道を探ったりする必要がある」と話しています。