日銀 植田総裁 単独インタビュー 金融政策の転換は?

日銀の植田総裁がNHKの単独インタビューに応じました。日銀は、賃金の上昇を伴った2%の物価安定目標が達成できるという見通しが立てば金融政策を転換する方針ですが、植田総裁は、今後の政策判断のポイントとして来年の春闘での賃上げの動向とこれまでの賃金上昇の物価への波及という2点をあげた上で、来年の春闘では中小企業の賃上げの結果が出そろわなくても関連するデータをふまえて前もって判断することは可能だという考えを示しました。

日銀の植田総裁は26日、明治時代にしゅんこうされた日銀本店の「本館」でNHKの単独インタビューに応じました。

ことし4月の就任後、テレビメディアのインタビューに応じたのは初めてです。

ことしの振り返り

植田総裁はまず、ことしを振り返り、「何とか最低限のことはできたかなと思う。政策のこともあるが、さまざまな会議で海外の中央銀行総裁や政策担当者、日銀のスタッフと金融や経済の話を何時間でもできる環境にいられたのは非常に充実感があった」と述べました。

チャレンジング発言の反応など市場との対話

日銀がいまの金融緩和策を転換するタイミングについて市場にさまざまな観測が広がる中、植田総裁が今月7日に国会で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っている」と発言したことやことし9月に新聞社のインタビューに対して、年内に判断できる材料が出そろう可能性があると示唆したと伝わったことで為替や長期金利が大きく変動する場面がありました。自身の発言の真意が伝わらないと感じることがあったかという質問に対し植田総裁は、「政策的な意図を強く込めたものではなかったが、市場がどういうことを思っているのか、欲しがっているのかというのは非常によく分かった気がした」と述べました。

家計負担増す中、なぜ緩和を継続するのか

国内で物価上昇が長期化し、家計の負担が増している中でも日銀が金融緩和を続けている理由について植田総裁は、「インフレ率は日本銀行の2%の目標をかなり大幅に上回って推移し、国民に大きな負担をかけたことは大きな問題だと認識している。私たちが目指しているのは賃金と物価が好循環しつつ緩やかな2%くらいのインフレが持続していく姿だ。これが実現していくかどうかはまだもう1つ自信が持てない。確度は高くないということで金融緩和を維持している」と説明しました。

その上で2%の物価安定目標にこだわり、物価上昇への政策対応が遅れているとの認識はないかという質問に対しては、「2%をオーバーしてどんどん際限なく上がっていくというリスクも高くないとみている。焦っているという気持ちはない」と述べました。

デフレ完全脱却の可能性は

日本経済が今後、デフレ状態に戻るリスクよりデフレから完全脱却できる可能性の方が大きいかとの問いに対しては、「非常に近い将来にデフレに戻ってしまうリスクは非常に低い。育ってきた賃金と物価の好循環の芽をもう少し育てて、インフレ率で言えば2%くらいのところに着地させることを目指したい」と述べました。

物価と賃金の好循環のポイントは

日銀は、賃金の上昇を伴った2%の物価安定目標の達成を目指していますが、賃金と物価の好循環ができているかを見極める上でのポイントについて植田総裁は「当面どこに注目しているかということで整理すると、来年の春の賃金改定、それからここまでの賃金の動きがサービス価格にどう反映されていくか、この2点になる」と述べ、来年の春闘での賃上げの動向に加えてこれまで上昇した賃金が物価に波及するかを丁寧に見たいという考えを示しました。

「はっきりした賃上げ」とは

植田総裁はインタビューの前日の25日に経団連の会合で講演し、物価安定目標の達成に向けては来年の春闘ではっきりとした賃上げが続くかが重要なポイントになると指摘しました。

「はっきりとした」という言葉を使った真意を尋ねると、「定量的にここというめどがあるわけではないが大ざっぱに言うとことしの春と同じかそれを少し上回るくらいの賃上げが決定されると望ましいという思いはある。当然いろんなデータを見るし、データに現れていない特に中小企業などに関するヒアリングの状況をあわせて判断していければと賃金のところは考えている」と説明しました。

政策を転換するタイミング 賃金動向見極めのタイミングは

金融政策を転換するタイミングや条件についても聞きました。

仮に日銀が来年、マイナス金利政策を解除することになれば2007年2月以来、およそ17年ぶりの利上げとなりますが、市場には、日銀が来年の前半にその判断を行うのではないかという見方が多くあります。

植田総裁は、今月19日の会見で、次回・来月の会合に向けては、日銀支店長会議を通じた地域経済の情報などを分析して金融政策を判断するとした上で、新しいデータはそれほど多くないとも述べています。

これについて長めのスタンスでデータをはっきりみたいという思いがあるのかと尋ねると、植田総裁は「例えば1月の日銀支店長会議ですごい楽観的な見方が示され、そこからかなりの情報が得られるいう可能性もゼロではないと思う。いまのところそんなに可能性が高いとは思っていない」と述べました。

来年の春闘では3月中旬の集中回答日に向けて大企業の賃上げ状況が見えてくる一方、中小企業の賃上げの動向が見えるのはさらに時間がたってからとなります。

政策を判断する上で中小企業の賃上げのデータをどのタイミングで見極めるのかという点について植田総裁は、「中小企業のデータが全部そろうのはかなり遅くなると思う。それを全部待ってから判断するという考え方もあるかもしれないが、完全に中小企業の賃金データが出たり決定がなされたりしていなくても他の中小企業の指標で、例えば収益が好調である。あるいはそのバックにあるマクロの消費とか投資が好調でこれがうまく好循環を生み出すであろうということがあればある程度、前もっての判断ができるかと思う」と述べました。

また、「中小企業の賃金のデータを最後まで見ようとすると確認できるのは相当先になる。中小企業の賃金データがまだ出ていない状況であっても中小企業まわりの賃金を決めるような要素、企業収益などが非常に強く、賃金が期待できるという情勢であれば1つの大きな判断材料になる」と述べ、中小企業の賃上げの結果が出そろわなくても関連するデータをふまえて前もって判断することは可能だという考えを示しました。

その上で来年の春闘で3月の集中回答日が中小企業を含めた判断のポイントとなるのかという質問に対しては、「特定のイベントで何か決まるということではないが、それも含めて大事なイベントはきちんと情報を確認していきたい」と述べました。