消費者庁が行った分析では、2018と2019年の2年間で、餅による窒息事故で死亡した人は661人。
このうち、▽127人(19%)が正月三が日に、▽282人(43%)が1月中に死亡しています。正月は、特に注意が必要なことがわかる数字です。
餅がのどに詰まったらどうする?対処法と予防策は
焼いて食べたり、お雑煮に入れたりと、お正月の食卓に欠かせない「お餅」。
気を付けたいのが、のどに詰まらせることによる窒息死です。
もし、家族や友人が目の前で餅をのどに詰まらせたらどうすれば良いのか。そもそも、のどに詰まらせないために大切なことは何か。
せっかくのお正月を悲しいものにしないためにも、ぜひ、知っておいて下さい。
窒息事故 相次ぐ正月
のどに詰まった!どうする?
もしも、目の前で家族や友人が餅をのどに詰まらせたら…
その時どう対処すべきか、救急救命のプロ、大阪市消防局の熊澤勉さんに聞きました。
1.声が出ない、咳ができないは窒息のサイン
まず、「強く咳き込んで吐き出せますか?」と声をかけて、吐き出すよう促します。
声が出ない、咳ができない場合は、餅が詰まって窒息している可能性があるので、すぐに取り除く処置が必要です。
近くに人がいる場合は119番通報するように依頼します。その場に自分しかいない場合は、餅を取り除くことを優先して欲しいということです。
2.「背部叩打法」を試す
最初に背中を叩いで吐き出させる「背部叩打法」を試します。相手に「叩きますよ!」と声をかけてから、手のひらの付け根部分を使い、相手の肩甲骨と肩甲骨の間を強く叩きます。
熊澤さんによると、ポイントは「ためらうことなく、強く叩く」こと。
餅を吐き出すまで続けて下さい。
口に掃除機のノズルを入れて吸い込もうと考える人もいますが、衛生的に問題があり、合併症を起こすリスクがあり、推奨していないということです。
3.「腹部突き上げ法」を試す
背部叩打法ではもちが出ない場合、「腹部突き上げ法」を試します。お腹を強く突き上げることで、のどに詰まった餅を吐き出させる処置です。
背後から相手の腹部に手を回し、こぶしの親指側の固い部分をへその少し上に当てます。そして、反対の手でこぶしを包み、素早く手前上方に引き上げます。
ただ、この方法は妊娠をしている女性や乳児には行ってはいけないということです。
また、内臓を痛める可能性があるので、仮にこの方法でもちを吐き出せた場合でも、医療機関を受診して欲しいということです。
プロでないと取れないことも
ただ、こうした方法をしても必ず取れる訳ではなく、熊澤さんによると、「プロが器具を使わなければ取れないことも多い」と言います。
具体的にどのように餅を取り出すのか見せてもらうと、あごを上向きにしてのどの奥を見えやすくした上で、マギール鉗子と呼ばれる長さ25センチのはさみのような器具で餅をつかんで取り出していました。
熊澤さんによると、救急要請を受けて現場に向かうと、意識を失っているケースが多いということで、やはり予防が大事だと指摘します。
(大阪市消防局 熊澤勉さん)
「背部叩打法や腹部突き上げ法は、消防が来るまでの間に試して欲しい方法ですが、必ず除去できる訳ではありません。詰まらせたらプロでないと除去できないことがあると理解した上で、詰まらせないように注意することが何よりも大切です」
テレビを見ながら食べない
餅を詰まらせないためには、どんなことに気を付ける必要があるのか。
大阪大学医学部附属病院・摂食嚥下センターの細川清人 医師に聞くと、次の4つのポイントを教えてくれました。
【POINT1】2センチ以下を目安に小さく切ってゆっくり食べる
餅が大きいまま食べると、のどに詰まった時に窒息する可能性があるため、小さく切って、ゆっくり食べることが大切です。「小さく」は「一口大」のことで、2センチ以下を目安にしてください。
【POINT2】食べる前に必ず水分をとる
喉が乾燥していると餅が詰まりやすくなります。食べる直前にお茶や水を飲み、喉を潤すことが大切です。
【POINT3】椅子に座って姿勢よく食べる
椅子に座って食べることをおすすめします。椅子に座って背筋を伸ばすと、自然と食べ物を飲み込みやすい姿勢になります。畳に座って食べると、猫背になって、飲み込みにくい姿勢になります。畳に座って食べる時は、意識して姿勢を正すか、座椅子を使用することを勧めています。
【POINT4】テレビを見ながら食べない
テレビを見ながら食べると、あごが上がってしまい食べ物が気道に入りやすい状態になります。また、食事への集中力も切れてしまうため、のどに詰まらせるリスクが高まるということです。
さらに、細川医師は、のどに詰まらせやすい人の特徴も教えてくれました。
特徴(1) 食事に30分以上かかる人
意識してゆっくり食べている訳ではないのに、食事に時間がかかってしまう人は、食べ物を噛む力や飲み込む力が落ちている可能性があります。
特徴(2)液体を飲み込むときにむせることがある人
お茶や水など液体を飲み込むときにむせることがある人は、ものを飲み込む時に気道に入りやすくなっている可能性があります。
特徴(3)食事中や食後にせき(咳)やたん(痰)が出る人
せきやたんが出るのは、唾液が飲み切れずにのどに溜まって気道に入ってしまうから。風邪など体調を崩している訳ではないのに、食事中や食後にせきやたんが出る人は要注意です。
特徴(4)高齢者や認知症患者
一般的に高齢になると飲み込む力が落ちるため、のどに詰まらせるリスクが高まります。また、認知症になると、餅を大きいまま飲み込もうとしたりすることがあり、注意が必要です。
(大阪大学医学部附属病院 摂食嚥下センター 細川清人 医師)
「飲み込む力は気付かないうちに落ちていることもあるので、心当たりがある人は気をつけて欲しい。年末年始は大人数で食事をとる機会も多くなるので、自分のペースでゆっくりと食べることが大切です。高齢者などリスクがある人がいたら周りも気にかけてあげてほしい」
参考)餅が詰まった時の対処法
餅が詰まった時の対処法をまとめました。スマホなどに保存して、参考にしてください。