“仕事できなくなるのは死活問題” 不足する電線ケーブル

建設用の電線ケーブルが不足し、影響が出ているという声がNHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に相次いで寄せられました。大手メーカーはいずれも新規の受注を停止していて、工事の遅れなどが懸念されます。何が起きているのか迫りました。

突然届いたメーカーの文書 ”新たな注文受け付けず”

埼玉県三郷市にある電気工事会社では11月、電線のメーカーから電力会社の配電線などから建物内に電気を引き込むための「高圧ケーブル」について新たな注文を受け付けないことを知らせる文書が送られてきました。

建物内で電気を送るために使われる「低圧ケーブル」についても、すべての種類について受注の停止や納期の遅れなどの影響を受けているといいます。会社によりますと少なくとも10件の工事について電線ケーブルが確保できる見通しが立っていないということです。

相次ぐ不安の声

NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」には建設用の電線ケーブルが不足し、影響が出ているという投稿が電気工事会社などの関係者から相次いで寄せられています。

▽「全国で電線が足りなくなりとうとう受注がストップしてしまいました。中小零細の電気工事会社ですが、この先仕事ができなくなるのは死活問題です」
▽「電線を発注しようとしても各メーカーが受注停止にしていて大変困っている。電気工事業界がパニックになっている」といった声が出ています。
▽「建設現場に遅れが出始めている」などと、すでに影響が出ているという投稿も寄せられています。

現場で工夫も 不安にかられる毎日

埼玉県内の建物現場では「低圧ケーブル」が手に入らないため工事の手順を変更するなどの対応をとっています。

本来は「低圧ケーブル」を使って建物内での電気工事を終えてから天井部分を建設しますが、ケーブルがないため、来年2月から天井部分の建設を行った上で建物内の電気工事を行うことにしていて、天井がふさがった後でも電線を通すことができるように専用の管を急きょ設けました。建物の完成は来年3月末を予定していますが、電線不足の影響で間に合わない可能性も出ているといいます。

電気工事会社の瀧澤由樹社長は「電気工事において電線は欠かせないもので、このままでは同じ現場の建設会社にも影響が出てしまいます。受注再開の見通しも立たないことから、対処する方法もなく建物の完成日が遅れるのではないかと不安にかられる毎日です」と話しています。

新規受注を見合わせるメーカー ”増産体制も供給追いつかず”

大阪に本社を置く大手電線メーカーによりますと、ことし10月以降、電気工事会社などからの電線ケーブルの注文が急増し、とくに2週間ほど前までは、注文の電話が鳴りやまない状態だったということです。

増産体制を取っているものの、供給が追いつかなくなったため、すでに注文を受けていた分の納品を優先させ、新規の受注を見合わせることになりました。

「高圧ケーブル」と「低圧ケーブル」の新規の受注を停止しているのは、大手電線メーカーの
▽「住電HSTケーブル」
▽「矢崎エナジーシステム」
▽「SFCC」
▽「フジクラ・ダイヤケーブル」です。

業界団体によりますと、これらの電線ケーブルの生産量は4社で国内のほとんどを占めているということです。

不足の要因は…新型コロナの影響? リスクは「銅」の価格

住電HSTケーブル営業企画部の冨屋亮介部長は、首都圏の再開発や大規模な工場の建設などで電線の使用量が多い工事が重なっているとしたうえで、「原因ははっきりしないが、コロナ禍の資材不足や人手不足で止まっていた工事が一気に進み出したのではないか。また、ケーブルが足りないという不安感から買い急ぐような動きも見受けられ、それが事態の悪化につながっているのでは」と話しています。

冨屋部長によりますと、電線の中心部分で使っている「銅」の価格が高い状態が続いているため、在庫を増やして電線の注文増加に備える体制をとろうとしても銅の相場が大きく変動する可能性があることを考えるとリスクが高く、難しいということです。

また経済産業省が、11月から12月にかけて大手電線メーカーに対して行った聞き取りなどによりますと、電線ケーブルが不足する要因については、▼新型コロナの感染拡大の影響による資材の不足などで遅れていた工事の着工が相次いだことや、▼住宅などの建設現場では年末や年度末の完成を目指すケースが多く、今の時期に需要が増加したことが重なったとみられるとしています。

今後の見通しは

住電HSTケーブルは、今後の見通しについて、ほかのメーカーも増産対応していると聞いているため、来年2月から3月ごろにかけて落ち着いてくるのではないかとしています。

大手電線メーカーの4社は

新規受注の再開時期について安定的に供給できる見通しがつき次第、速やかに実施したいとしています。

業界団体の「日本電線工業会」は

「メーカーでは材料調達難や工場の停止といった問題はなくフル稼働を継続している。ただ、一定期間、電線ケーブルの一部について新規受注の停止や納期の再調整が生じざるを得ない状況になることを危惧している。本来は需給がひっ迫する状況にはないと認識しており、実際の需要に応じた適切な発注や流通に協力してほしい」としています。

経済産業省の担当者は

「メーカーもフル稼働で生産をしているので事業者は冷静に対応してほしい。引き続き、状況を注視していきたい」と話しています。

(機動展開プロジェクト/能州さやか 柳澤あゆみ 山口局/具志保志人 広島局 /有馬護)