ダイハツ不正 調査報告書から見えた現場「安さと速さ重視」

ダイハツ不正 調査報告書から見えた現場「安さと速さ重視」
「開発日程を遅らせることは絶対にNGの風潮で『なぜ間に合わないのか』『どうしたら間に合わせられるのか』の説明に追われる」
「管理職に相談すると『で?』と言われるだけで相談する意味がない」
「内部通報を行っても隠蔽されるか、通報者の犯人捜しが始まるだけ」
第三者委員会による調査報告書で明らかになったダイハツ工業の従業員の声です。軽自動車のトップメーカーがなぜ、国の認証取得の不正に手を染めたのか。従業員の声から読み解きます。
(経済部記者 影圭太)

全車種出荷停止の衝撃

12月20日の午後1時、ダイハツ工業は第三者委員会による調査報告書を公表しました。
会社は衝突試験をめぐって国の認証制度で不正を行ったことがことし4月に発覚したことを受け、第三者委員会を設置してほかに不正がないかを確認し、7か月たってようやくその内容がまとまりました。

書かれていたのは「国内外含めて64車種で174件の不正が確認」「不正は1989年から続いていた」などという深刻な内容。

これを受けて会社は、国内外の全車種の出荷を停止すると発表しました。

当初は6車種で発覚した不正が外部調査の結果、一気に拡大したのです。

従業員の声は

報告書によると、新たに見つかった不正は、衝突試験だけではなく、排ガスや燃費の試験なども含まれていました。

衝撃試験では、運転席側の試験結果を使わないといけないところを助手席側の結果を使用するなど、試験を通過するためにさまざまな不正が行われていたことが明らかになりました。

なぜ不正が行われ、止まらなかったのか。

報告書には第三者委員会が3600人余りの従業員から回答を得たとするアンケート調査の結果が記載されています。

ある“成功体験”が現場への“強烈なプレッシャー”に

最も回答が多かった「開発スケジュール」については、第三者委員会は2011年に販売を開始した軽自動車「ミライース」で従来より大幅に期間を短縮して開発できたことが大きな成功体験にとなり、その後さらに短期間での開発が求められるようになったと指摘します。
短期間での開発がダイハツの存在意義として根づき、社内で「線表」と呼ばれる開発スケジュールは社内で絶対視され、経営トップレベルの「英断」がなければ変更は困難だという意識が根づいていたとしました。

その結果、開発の最後の工程である認証試験にしわ寄せがいく状態になっていたと言います。

その状況で「不合格は許されない」という強烈なプレッシャーが現場にかかり、不正の背景になっていたと指摘しました。
従業員の自由記載欄より(抜粋)
「根本にあるのはギリギリの短期開発日程。むちゃくちゃな日程が標準となる」
「すべて失敗なく1回で(試験を)パスしないといけない日程設定により担当者や上長の相当のプレッシャーがあったと思う」
「収益改善のためには日程短縮が重要であり、超短期開発が評価される。結果、安さと速さが重視される」

「トヨタの遠心力」も背景に

不正の大きな背景となった短期間の開発スケジュール。

それを「ますます促進させるに至った背景の1つ」と指摘されたのが、2016年にダイハツを完全子会社化したトヨタ自動車の存在でした。

報告書にはこう記述されています。
トヨタの完全子会社になって以降、トヨタの海外事業体の生産プロジェクトにも参加して事業を拡大した結果、車両の仕向地や生産国が拡大する一方、トヨタグループの中でダイハツの強みを海外にも展開する『トヨタの遠心力』とも称される役割を期待されるようになり、奮起したことも短期開発がますます進められる背景の1つとして挙げられる。
ダイハツはトヨタに対して小型車などの供給を増やすようになり、それがまた開発や認証の現場の負担を増すことになったというのです。

実際、新たに不正が見つかった64車種のうち、およそ3分の1にあたる22車種がトヨタのブランドで販売されていました。

トヨタ自動車の中嶋裕樹副社長は20日の記者会見でこう述べました。
「小型車を中心に海外展開車種を含むダイハツからのトヨタへの供給車が増えたことが現場の負担を大きくした可能性があることを認識できていなかった」

人員不足や組織風土の問題も

さらに報告書では、ダイハツの人員不足の問題やチェック体制の不備、さらにはそれを放置した企業風土の問題についても指摘しています。

人員不足に関しては、安全性能担当の部署で衝突試験の評価を行う人員が削減されていたほか、「法規認証室」でもコスト削減のために2011年ごろから人員が削減されたと指摘されています。

短期開発でただでさえ余裕をなくした現場が人手が足りないことでさらに追い詰められていたことがわかります。
従業員の自由記載欄より(抜粋)
「日程の厳しさに対して人員が圧倒的に不足していると思う。正社員や若手社員の定着率が悪いことで、中堅層が薄く、若手とベテランが多くなっている印象」
「認証試験に関わる人への研修などを行っているが表面上行っているだけ」
「従業員は日々疲弊し、さらなる疲弊を避けるために自分のテリトリーを守るようになり、他者の失敗に対しては必要以上に叱責する場面も多い。助け合う風土は基本的にはない」

専門家「外部モニタリングのシステム必要」

こうしたダイハツの組織について、企業統治などに詳しい早稲田大学商学学術院の宮島英昭教授は次のように指摘しています。
早稲田大学商学学術院 宮島英昭教授
「開発期間が短いため認証に割ける時間が限られ、結果的に認証工程に圧力が加わっていた。これに慢性的な人手不足も重なったのだろう。管理職など監督側には現場で問題が起きていないか積極的に情報をとりに行くことが必要だったが、そうした想像力が不足していた。内部だけではなく、外部から工程をモニタリングする仕組みを構築した上で、問題が発生した時に現場から自発的に報告できる仕組みを作ることが重要だ」

信頼の瀬戸際に

日本の自動車メーカーでは、2016年以降、燃費不正のほか、無資格検査が発覚するなど、不正と呼ばれる問題が繰り返されてきました。

トヨタグループでも2022年に日野自動車で排ガスなどの検査データの不正が明らかになっています。

自動車産業は日本の産業の柱とも言え、ダイハツの一連の不正問題はユーザーにとって重要な安全性に関わる分野で起きています。

日本メーカーの自動車は、高い品質の車を適切な価格で提供することで、世界での地位を確立してきました。

だからこそ国内はもちろん、中東の砂漠でも、アジアの新興国の悪路でも数多くの日本車が選ばれてきた歴史があります。
ダイハツは「信頼を取り戻し、今一度、日本の国土・道にあった「国民の足」を提供できるメーカーとなるべく、トヨタから全面的な支援を受けながら、会社再生に向け、全社を挙げて取り組んでいく」と発表しています。

経営陣がこれまで気付けなかった社内でのひずみに気付くため、現場に目を向けその声を聞くこと。

さらには今回の問題で、いま日本車全体の信頼が瀬戸際にあるという危機感を認識することが、立て直しに向けてまず必要なことだと感じます。
経済部記者
影 圭太
2005年入局
経済部、アジア総局などを経て現所属
自動車業界を担当