進撃の巨人 主人公エレンに自分を重ねて…

進撃の巨人 主人公エレンに自分を重ねて…
突然、現れた巨人によって家族やふるさとを奪われ、それでも立ち上がる少年。

人気マンガ「進撃の巨人」の主人公、エレンに自分を重ね、心を動かされた女性がいます。
女性は12年前、原発事故によってふるさとを追われていました。

(大分放送局記者 山之内豊)

あの日、私はふるさとを失った

藤澤めぐみさん。東京電力福島第一原子力発電所がある福島県大熊町の出身です。
原発事故により、自宅がある地域は帰還困難区域に。
津波で会社の同僚も亡くなりました。

長期の避難生活を余儀なくされ、自宅は解体せざるをえませんでした。
藤澤めぐみさん
「前代未聞の事故だったので、この先どうしたらいいか、どう生きていけばいいのか、本当に想像がつかない状況でした。楽しいことがあっても、被災者なので楽しんではいけないんじゃないかという心境もありました」

避難先で出会った「進撃の巨人」

埼玉県に避難した藤澤さん。
原発事故の翌年、気分が塞ぎ込んでいた時に出会ったのが漫画「進撃の巨人」でした。
巨大な壁に囲まれて暮らしていた人類が、突如現れた巨人に戦いを挑むという物語。

「駆逐してやる!! この世から…一匹残らず!!」

自分の故郷を破壊した巨人に対抗する主人公のエレンの姿に心を動かされたと言います。
藤澤めぐみさん
「ちょうど自分が突然、故郷を追われてしまった状況とすごく似ていると思いました。エレンは脅威を“駆逐してやる”と奮い立ったところが、心にグッと刺さって自分も奮い立ったし、頑張ろうと思えたんです」
さらに、藤澤さんには印象に残っている言葉があります。
物語で多くの仲間を失った主人公の上司、リヴァイ兵士長が語ったセリフです。
「お前らは明日何をしてると思う?明日も飯を食ってると思うか?明日もベッドで十分な睡眠を取れると…思っているか?」

「隣にいるやつが…明日も隣にいると思うか?」

「俺はそうは思わない」
明日何が起こるか分からない。
藤澤さんは、今を生きる大切さに気付かされたといいます。
藤澤めぐみさん
「そのセリフを読んだ時は、本当に明日は何が起きるか分からないという状況で、自分もそうだなって思って。今、この瞬間を心から楽しまなきゃと改めて思いました」

“聖地” 大分県日田市との出会い

進撃の巨人のストーリーを追ううちに、藤澤さんの心境にもどんどん変化が。
気付くと、物語に一喜一憂しながら、避難先での日常を楽しんでいる自分がいました。

そんな藤澤さんにとって大切な場所が、進撃の巨人の『聖地』、大分県日田市です。
進撃の巨人の作者、諫山創さんの出身地で、3年前から作品を通じた街おこしが行われています。

原画や資料を集めたミュージアムも登場。
街のいたるところには主人公のエレンや、リヴァイ兵士長たちの銅像…
地元の店では進撃の巨人グッズが売られています。
進撃の巨人の世界観を感じたくて、藤澤さんはすでに10回、日田市を訪れています。
藤澤めぐみさん
「日田市は進撃の巨人が生まれた場所。巨人がいそうな世界に入りこんでいるようで、作品の世界観を感じるような場所なんです」

進撃の巨人がふるさとを…

しかし、藤澤さんが繰り返し日田を訪れるのは「進撃の巨人」だけが目当てではないといいます。

「おかえりー」

すっかり日田市の人たちと顔なじみになった藤澤さん。
今では、グッズを扱うお店の人から「おかえり」と声をかけられるようになりました。

逆に藤澤さんがお土産をプレゼントすることも。

町の人におすすめされた店や祭りにも出かけたり、なじみの飲食店のおかみと一緒に特産の焼き物・小鹿田焼の窯元を訪ねたりするようになりました。
飲食店のおかみ
「藤澤さんは私たち地元の人が知らない日田市のことを知っていたりもするので、教えてもらうこともあります。友達というとおこがましい気もするけど、お客様でもあり友達ですね」
藤澤さんはいつしか進撃の巨人のファンから日田のファンになっていました。
藤澤さん
「日田の皆さんが『おかえり』と言ってくれるのがすごくうれしくて。本当に日田は第二のふるさとだと思えるくらい、みんな優しくて、顔見知りもたくさん増えて。これからも可能なかぎり何回でも日田に来たいと思います」

物語は終わっても…

「進撃の巨人」のアニメは今年11月に完結しましたが、今も日田市には多くのファンが訪れています。

作者の諫山創さんのふるさと、日田市大山町は左右が山に囲まれた盆地で、その地形は「壁に囲まれて暮らす人類」という漫画の基本的な構想につながったとされています。
そんな地元、日田市で諫山さんが、主人公エレン役の声優を務めた梶裕貴さんと一緒に行ったトークイベントには国内外からファンがやってきました。
地元の人たちもファンの目線でメニューやお土産を開発するなど、街ぐるみで盛り上げようとしています。
作者の諫山さんもこれほどの反響は予想していなかったそうです。
作者 諫山創さん
「18歳まで過ごした日田に自分が貢献できるなんて思っていなかったので、すごくうれしいです」
漫画やアニメは終わっても、進撃の巨人に関わる人たちの物語は、これからも続きます。
(12月7日 ぶんドキ などで放送)
大分放送局 日田支局記者
山之内豊
平成2年入局 令和3年 日田支局に
「進撃の巨人」は赴任をきっかけに読み進め、全巻5~6回読破。街おこしの成功例ともいえる日田市の取材に「心臓を捧げます」