NISA拡充直前 金融機関は変われるか

NISA拡充直前 金融機関は変われるか
来月から拡充される税制優遇制度「NISA」。これを機に「現預金重視」の傾向が強い日本で「貯蓄から投資へ」の流れができるかどうか注目されています。

このためには“顧客軽視”と批判されることもあった金融機関が“顧客本位”の姿勢に変わることができるかが条件となります。証券会社や資産運用会社の現場がどう変わろうとしているのか取材しました。(経済部記者 佐藤崇大・坪井宏彰)

“現預金重視”の日本

日本の個人金融資産は、2100兆円を超える水準にまで膨らんでいますが、これまで「現預金重視」の傾向が強く、保守的な投資スタンスをとる人が多いとされてきました。

背景として、バブル崩壊の影響や、デフレが長期化し、現金の実質的な価値が上がっていたことなどがあげられていますが、これに加えて指摘されてきたのが証券会社など金融機関側の営業姿勢の問題です。

金融庁は、目先の利益を優先して金融商品を短期間で売買したり、顧客のニーズに合わない商品を勧めたりしてきた金融機関の営業手法を厳しく批判。顧客本意の姿勢を徹底するよう金融機関に対し繰り返し求めてきました。

こうした指摘を踏まえて金融機関の側も変わろうとしています。

1 営業成績の評価を見直し

大和証券では4年前、営業社員の評価体系の大幅な見直しに踏み切りました。

顧客から預かる資産額を増やすことを重視し、短期的な収益より顧客との長期的な関係を築くことに軸足を移しました。このほか、商品ごとに定めていた販売目標も廃止しました。

今月(12月)、80人の営業社員がいる東京・池袋の支店を訪ねました。入社以来26年にわたって営業畑を歩んできた支店長の衣笠傑さん。新人時代は1日10枚の名刺をもらうという目標を上司から課され、一日中外回りを続けていました。

しかし、評価体系を見直したことで提案の内容も変わりつつあるといいます。衣笠さんも部下に対し、顧客のニーズを丁寧に聞き取り、1人1人にあった商品を提案するよう指導しています。
衣笠支店長
「お客様のニーズ、もっと言えばお客様が気付かれていないニーズも私たちが探すのが仕事。来年から新NISAも始まり、貯蓄から投資を目指すなかで、対面のコンサルティングに役割があるのではないかと考えている」

2 若い世代へのアプローチ

従来、対面でのアドバイスを強みとし、富裕層や高齢者を主な顧客としてきた大手証券会社。ネット証券が若い世代を中心に口座数を伸ばす中、こうした層にどうアプローチするかも課題です。
SMBC日興証券は、若い世代を中心に新たな顧客層を取り込もうと、投資に関する情報を専用サイトで発信しています。

このサイトでは、これまで投資経験がなかった人たちなどを顧客として獲得しようと投資を始めた人の体験談などの記事を載せていて、サイト上で株式などを購入することもできます。
専用サイトには、月間で1000万を超えるアクセスがあるということで、ことし11月からは、新たなNISAや投資信託の記事を集めたページを開設しました。

この会社がことし9月にインターネット上で行ったアンケート調査では、新たなNISAの利用について、「必ず利用したい」が37%、「できれば利用したい」が45%と、あわせて8割を超える人が利用したいという意向を示したということです。
サイトを運営する編集長 SMBC日興証券デジタルマーケティング部の横山敦史担当課長は以下のように話しています。
横山担当課長
「SNSを中心に関心度の高さを非常に感じている。楽しく学べるようなコンテンツ作りを心がけていきたい」
※横山さんのパソコンの横にあるのはカエルのマスコットキャラクターのぬいぐるみ。「お金の常識を変える」がコンセプトなんだそう。

3 資産運用会社は商品を自社で検証

顧客の資産を預かり、NISAの投資対象となる金融商品の運用にあたるのが資産運用会社です。

しかし、金融庁は、運用の高度化や効率化が遅れているほか、新規参入も進んでおらず、商品の多様化も進んでいないとして、運用力の向上に向けた改革が必要だと指摘しています。
国内で最大規模の資産運用残高を持つ「野村アセットマネジメント」では、ことし5月から、資産運用を担うファンドの「成績表」の公表を始めました。

運用成績が芳しくない商品や長期の資産形成に適していないと判断した商品に対しては、改善すべき点があることを示す「レッド」のマークを突きつけ、投資家に向けて改善策を明示しています。
会社では今後、700本ほどある公募投資信託すべての検証を行い、投資家が期待する役割を果たしていないファンドについては信託報酬の見直しや償還などを進めることにしています。

さらに来年からは自社だけでなく外部の有識者を交えた検証も始める方針で、運用力の底上げにつなげたいとしています。

人材育成に向けて評価体系見直し

さらに、投資信託の開発や運用にあたる「ファンドマネージャー」の育成も急務です。運用にあたる人材の育成や運用力の強化に向けて、会社では成績に応じて賞与に大きく差をつけるなど、評価体系の見直しを進めています。
本間常務
「運用の成果に応じて報酬の変動幅が非常に大きい設計にしている。成績に応じてしっかりインセンティブをつけるなど、運用担当者が力を発揮できる環境を用意することが重要だと考えている」。

信頼に応える金融機関に

金融機関が顧客本位の姿勢を徹底し、個人の資産形成にどこまで貢献できるのか。改革に臨む金融機関の“本気度”をしっかり見ていきたいと思います。

(12月17日 ニュース7で放送)
経済部記者
坪井 宏彰
2013年入局
広島局、経済部、社会部を経て現所属
経済部記者
佐藤 崇大
2017年入局
京都局 大阪局を経て経済部
証券業界などを担当
自分のライフプランについても考え始めました