「防衛装備移転三原則」の運用指針改正 PAC3を米へ輸出も決定

政府は、外国企業から技術を導入し国内で製造する「ライセンス生産」の防衛装備品について、ライセンス元の国への輸出を可能とすることなどを盛り込んだ「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正しました。これを受け、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」をライセンス元のアメリカに輸出することも決めました。

政府は22日、持ち回りでNSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開き、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正しました。

それによりますと、外国企業から技術を導入し国内で製造する「ライセンス生産」の装備品の輸出について、これまではアメリカに対し部品のみ認めていましたが、完成品も含めてライセンス元の国への輸出を可能とします。

これを受けて地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」をライセンス元のアメリカに輸出することも決めました。

2014年に防衛装備移転三原則が策定されて以降、自衛隊法上の武器にあたる完成品の輸出は初めてとなります。

また、日本の事前同意があれば、ライセンス元の国から第三国に輸出するのも可能とする一方「現に戦闘が行われていると判断される国へ提供する場合を除く」としています。

このほか、安全保障面で協力関係のある国に対し戦闘機のエンジンや翼などの部品の輸出を認めるほか、「救難」や「輸送」など5つの類型の装備品に、殺傷能力のある武器を搭載していても輸出を可能とします。

改正によって輸出可能になる装備品は

今回の改正によって一定の要件を満たせば殺傷能力がある武器や弾薬の完成品についても輸出できることになります。

このうち、外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」については、これまではアメリカに対して部品を輸出できるとしていましたが、アメリカ以外のライセンス元の国に対しても完成品を含めて輸出できるとしました。

防衛省が把握しているライセンス元の国はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、スウェーデン、ノルウェーの8か国あります。

また、ライセンス生産した装備品は令和4年度までに完成品と部品で少なくとも合わせて79品目あり、このうち4割の32品目はアメリカがライセンス元となっています。

具体的には、「F15戦闘機」、「CH47輸送ヘリコプター」、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」などがあります。

アメリカ以外では、
▽「81ミリ迫撃砲」がイギリス
▽「120ミリ迫撃砲」がフランス
▽「90式戦車」の「砲身」がドイツ
▽護衛艦の「127ミリ速射砲」がイタリア
▽「5.56ミリ機関銃」がベルギー
▽「84ミリ無反動砲」がスウェーデン
▽「20ミリ多目的弾」がノルウェー
などとなっています。

これらの装備品はライセンス元の国からの要請があれば、輸出できるようになります。

また、日本の事前同意があればライセンス元の国が第三国に輸出することもできるとしていますが、武器や弾薬については特段の事情がないかぎりは現に戦闘が行われている国は除くとしています。

ライセンス生産以外では、他国と共同で開発・生産した装備品について、パートナー国が完成品を輸出した国に対し、日本が部品を直接輸出できるようにしました。

現在、日本が他国と共同開発しているのは
▽弾道ミサイル用の迎撃ミサイル「SM3ブロックA」と▽「次期戦闘機」
の2種類で、日本が輸出を想定しているのは次期戦闘機の部品です。

防衛省によりますと、日本がどの部品を担当するかは調整中だということですが、パートナー国のイギリスやイタリアが第三国に次期戦闘機を輸出して、日本が担当した部品に不具合などが見つかった場合に、速やか交換できるようにするというねらいがあるとみられます。

このほか、日本と安全保障面での協力関係がある国に対しては、武器や砲弾の部品を輸出できるようにしました。

防衛装備の輸出に当たっては日本の安全保障に及ぼす懸念の程度を厳格に審査し、総合的に判断するとしています。

改正の意義と残る課題は

今回の改正で、「ライセンス生産」の装備品にかぎってですが、これまで実質的に認めてこなかった殺傷能力のある完成品の輸出が可能になり、一つの転換と言えます。

一方で自民党と公明党の実務者協議で、公明党内に慎重な意見が強かったことから結論が出なかった課題があります。

このうち、イギリス・イタリアと開発する次期戦闘機が念頭にある、共同開発した装備品の第三国への輸出をめぐっては、政府は2024年2月末までに結論を出すよう求めています。

また、安全保障面で協力関係にある国への輸出の対象を「救難」や「輸送」など5つの類型に限定しているルールの見直しについても結論が出ていません。

この2つの見直しは、共同開発の進展や相手国との連携強化に資する一方、殺傷能力のある装備品の輸出にさらに道を開く可能性もあり、年明け以降に再開される協議の行方が注目されます。

安全保障環境の変化で広がる輸出対象

武器を含めた装備品の輸出について日本は、国際紛争の助長を回避するという平和国家としての理念に基づき、慎重に対処しながらも安全保障環境の変化に合わせて輸出の対象を広げてきました。

1967年 武器輸出三原則など

1967年、佐藤内閣は共産圏諸国や紛争当事国などへの武器の輸出を認めないとする「武器輸出三原則」を打ち出しました。

1976年には三木内閣が三原則の対象ではない地域についても「輸出を慎む」とし、実質的にすべての輸出を禁止しました。

1983年 例外的措置

しかし、1983年に中曽根内閣がアメリカから要請を受けてアメリカへの武器技術の供与を例外として認める決定をします。

それ以降、迎撃ミサイルの日米共同開発や、PKO活動に従事する他国軍への銃弾の提供など、個別の案件ごとに例外的な措置として輸出を認め、その数は2013年までの30年間で合わせて21件となりました。

2014年 防衛装備移転三原則

装備品輸出のルールを大きく転換したのは2014年の安倍内閣です。

新たに「防衛装備移転三原則」と「運用指針」を決定し、平和貢献や国際協力、それに日本の安全保障に役立つ場合にかぎり、厳格な審査のもとで、輸出を判断していくとしたのです。

ただ、他国と共同で開発・生産したものなどを除いて、完成した装備品を輸出できるのは「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」に該当するものに限定しました。

実際にこれまで完成品を輸出したのは、フィリピンに対する警戒管制レーダーの1件のみで、殺傷能力のある完成品を輸出したことは一度もありません。

2023年 改正防衛装備移転三原則

今回改正した防衛装備移転三原則では「官民一体となって防衛装備の海外移転を進める」としています。

こうした方針のもと、外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」について、ライセンス元の国に完成品を輸出できるようにしました。

これにより、ライセンス生産しているF15戦闘機や砲弾など、殺傷能力や、ものを破壊する能力のある完成品も輸出できることになり、政府は22日、ライセンス元のアメリカからの要請に基づいて地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」の完成品を輸出することを決定しました。

防衛省関係者によりますと、アメリカの要請の背景には、ロシアの侵攻を受けているウクライナの支援によって不足している迎撃ミサイルを補いたいというねらいがあるとみられています。

岸田首相「平和国家としての歩み堅持変わらず」

岸田総理大臣は22日夜、総理大臣官邸で記者団から「殺傷能力のある武器の輸出は紛争を助長しかねないという懸念にどう答えるか」と問われたのに対し「防衛装備移転三原則そのものは維持しており、力による一方的な現状変更は許さないなど、国際秩序を守っていくために貢献していきたい。平和国家としての歩みを堅持することも変わりはなく、国民に取り組みの積極的な意義について丁寧に説明を続けていきたい」と述べました。

官房長官「わが国の安保 地域の平和と安定に寄与」

林官房長官は、臨時閣議のあとの記者会見で「わが国にとって望ましい安全保障環境の創出などを進めるための重要な政策的手段であるという観点から、与党のワーキングチームの合意内容を踏まえて行った」と述べました。

そのうえで、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」のアメリカへの輸出を決めたことについて「特に慎重な検討と厳格な審査を経て、認めうることを確認した。日米同盟の強化の観点から大きな意義を有するもので、わが国の安全保障およびインド太平洋地域の平和と安定に寄与するものだ」と述べました。

専門家「外交安全保障政策でも極めて重要なツール」

防衛装備移転三原則と運用指針が改正されたことについて、安全保障が専門の拓殖大学の佐藤丙午 教授は「時代の要請にしたがって見直されるのは自然の流れだ。防衛装備移転は総合的な意味で日本の抑止力を向上させ、平和と安定に貢献している。国際的な防衛協力体制の中で一つのピースとして作用することが極めて重要で、日本の外交安全保障政策の中でも極めて重要なツールになるので、積極的に進めるべきだ」と指摘しています。

外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」について、ライセンス元の国に完成品を輸出できるようにしたことについては「そもそも先方の国で作っているものなので、そこに輸出することの違和感はそれほどない。相手国との関係が強化されるなど、日本の安全保障において対外関係の重層化が期待できるので極めて順当だ」話しています。

その上でライセンス生産した地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」の完成品のアメリカへの輸出を決めたことについては、「ウクライナ戦争やガザの問題を見ても、防空能力が極めて重要な役割を果たしている。世界的に防空能力に対する需要が高まることが予想されるが、アメリカ国内だけでは十分に生産できないとなると日本がアメリカの防衛企業にかわって、製造するということは合理的な判断だ」と指摘しています。

専門家「将来によくない影響を及ぼす可能性」

防衛装備移転三原則と運用指針が改正されたことについて、安全保障が専門の流通経済大学の植村秀樹 教授は「これまで日本は平和国家の看板を掲げて、武器輸出は極めて慎重に進めてきたが、今回の改正では武器を輸出する国になることを政府が宣言していて大きな変化だ。国会で議論をして国民的な合意を得るというプロセスが十分に行われず、国会が閉まっている時に閣議決定するというやり方は、将来によくない影響を及ぼす可能性がある」と指摘しています。

外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」について、ライセンス元の国に完成品を輸出できるようにしたことについては、「少しずつ日本の防衛産業や防衛政策のあり方が変わっていくきっかけになり得るものだ。殺傷能力のあるものも含めて売れるようにすることが日本のあり方として適切なのかは疑問だ」と話しています。

そのうえで、ライセンス生産した地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」の完成品のアメリカへの輸出を決めたことについては、「飛躍した言い方かもしれないが、日本の企業がアメリカの防衛政策を支える兵器工場になっていくことにもつながりかねない。日本が『国際紛争を助長しない』と言っても、アメリカのやり方次第では最終的に国際紛争を助長することになりかねず、考え直すべきだ」と指摘しています。