少子化対策強化へ「こども未来戦略」児童手当拡充など盛り込む

少子化対策の強化に向け、政府は児童手当の拡充や「多子世帯」の大学授業料の実質無償化などを盛り込んだ「こども未来戦略」を決定しました。対策に必要な安定的な財源は歳出改革や国民や企業から集める「支援金制度」などで確保していくとしています。

政府の「こども未来戦略」では、若年人口が急激に減少する2030年代までが少子化対策のラストチャンスだとして、今後3年間で着手し、加速させていく取り組みを盛り込んでいます。

具体的には
▽2024年12月の支給分から児童手当の所得制限を撤廃し、対象を18歳まで広げるとともに、第3子以降は月額3万円に増やし、第1子が22歳に達する年度まで増額を継続するとしています。

また、
▽3人以上の子どもを扶養する「多子世帯」を対象に、大学授業料を実質無償化する措置を講じるほか
▽ひとり親世帯を対象にした児童扶養手当について、満額を受け取れる年収の上限を今の160万円未満から190万円未満にまで引き上げるなど、経済支援の拡充策が盛り込まれています。

このほか、子育てしやすい環境整備に向けて
▽親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられる「こども誰でも通園制度」を創設することや
▽両親がともに14日以上育児休業を取得した場合の育児休業給付の給付率を引き上げ、28日間を上限として手取り収入を実質的に10割にすることなども盛り込まれています。

一方、一連の対策のために今後3年かけて、新たに年間3兆6000億円ほど予算を増やすとしています。

そして財源については、当面は一部を国債で賄いながら、社会保障費の歳出改革などに加え、公的医療保険を通じて国民や企業から徴収する「支援金制度」の創設により、2028年度までに安定的な確保を目指すとしています。

政府は、戦略に基づき、必要な予算措置や法改正を図っていくことにしています。

経済的支援の強化策

「こども未来戦略」には、子育て世帯に対する経済的支援の強化策が盛り込まれています。

【児童手当の拡充】
このうち児童手当については来年10月から、今は中学生までとなっている支給対象を18歳まで拡大します。
支給にあたっては、所得制限を撤廃し、
▽0歳から3歳未満は1人あたり月額1万5000円、
▽3歳から18歳の年度末までは1万円を支給します。
▽3人以上の子どもを扶養する世帯には、第3子以降は3万円に増額するとしています。
そして、第3子の手当の増額は、第1子が22歳に達する年度末まで継続できるようにするとしています

【扶養控除の見直し】
一方、児童手当の拡充に伴って、高校生などの扶養控除の見直しも検討されています。
具体的には、
▽所得税の課税対象から差し引く控除額を年間38万円から25万円に、
▽住民税は年間33万円から12万円に縮小する案をもとに来年、結論を得るとしています。

【児童扶養手当】
このほか、
▽ひとり親世帯を対象にした児童扶養手当は、再来年・令和7年1月に振り込まれる支給分から要件を緩和します。
◇満額を受け取れる年収の上限を160万円未満から190万円未満に、
◇所得に応じて減額しての支給が受けられる年収の上限を365万円未満から385万円未満に、それぞれ引き上げます。

【出産支援】
さらに、出産支援も強化するとしています。
出産費用について、2026年度をめどに保険適用を導入するほか、麻酔を使って出産の痛みを和らげる「無痛分べん」を安全に行うため、麻酔を行う医師を確保するなど、出産支援を充実させるとしています。また医療機関ごとの出産費用やサービスなどについて、来年度からホームページで公表する「見える化」を実施する方向で準備を進めるとしています。

【大学の授業料など支援】。
大学の授業料を減免する支援も強化します。
来年度は、世帯年収およそ600万円までの世帯のうち、3人以上の子どもを扶養する「多子世帯」や理工系・農学系の学生などにも拡充します。
さらに、再来年度(2025)からは「多子世帯」を対象に所得制限を撤廃し、大学の授業料を、全国平均などを目安に国公立で54万円、私立で70万円を上限に支援します。
また、大学の入学金も◇国公立で28万円、◇私立で26万円を上限に補助するとしていて、これらの支援によって「多子世帯」では授業料が実質的に無償化されるとしています。

一方、
▽授業料の支援は、留年した場合には打ち切られるほか、
▽子どもが就職するなどして扶養から外れ、扶養する子どもが3人未満となった場合は、対象外となります。

子育て世帯 切れ目ない支援のための取り組み

すべての子どもや子育て世帯を切れ目なく支援するための取り組みも盛りこまれました。

【妊娠期からの切れ目ない支援】
妊娠から出産、子育てまで一貫して支援が受けやすくなるよう、アプリやSNSなども活用した「伴走型」の相談支援事業を制度化するほか、産後ケア事業を利用しやすくするため、サービスを提供する施設への支援を拡充するとしています。
また、
▽公費で受けられる乳幼児健診を拡大し、新たに生後1か月や5歳児も対象にするとともに、
▽難病の早期発見に向けて生後まもない赤ちゃんに対して公費で行う検査の対象疾患を増やすなどとしています。

【「こども誰でも通園制度」創設】
親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられる「こども誰でも通園制度」を新たに創設するとしています。
具体的には
▽来年度=令和6年度に一部の自治体で試験的に導入し、
▽3年後の令和8年度には、1か月あたりの利用時間の上限を設けた上で、全国すべての自治体で実施することを目指しています。

【保育士配置基準見直し】
保育の質を向上させるため、
▽4・5歳児の保育士の配置基準を75年ぶりに見直し「子ども30人に保育士1人」から「25人に1人」に見直し、保育所や認定こども園などの運営費を加算します。
▽1歳児についても再来年度以降の早い時期に「子ども6人に保育士1人」から「5人に1人」となるよう改善を進めるとしています。

【障害児や医療的ケア児の支援】
専門的支援が必要な子どもたちへの対応のため地域の連携体制を強化するとともに、日常的にたんの吸引や人工呼吸器などが必要な医療的ケア児を一時的に預かる場所や、保育所などでの受け入れ体制の整備を進めるとしています。
また、障害のある子どもが使用する車いすや補聴器などの費用の補助制度について、所得制限を撤廃することも盛りこみました。

「共働き・共育て」定着への政策

「こども未来戦略」には少子化対策として国際的に見て低い水準にある男性の家事や育児の時間を増やし夫婦で仕事と家事育児を行う「共働き・共育て」を定着させるための政策が盛り込まれました。

【育休給付の給付率引き上げ】
このうち男性の育児休業の取得率は2025年までに50%、2030年までに85%と目標を大幅に引き上げるとしています。
取得に向けて両親がともに14日以上育児休業を取得した場合、手取り収入が休業前の8割相当となっているのを10割相当になるよう給付金の給付率を引き上げる方針です。
給付率は28日間を上限に引き上げることにしていて、再来年度(2025年度)からの開始を目指しています。

【時短勤務の給付金】
また、子どもが2歳未満の期間に時短勤務を選択した場合、賃金に上乗せして賃金の1割に相当する額の給付金を支給する方針も示しています。
時短勤務によって収入が減る状況を改善することで男女ともに時短勤務を選択しやすく、子育てしやすい環境を作るのがねらいで、再来年度(2025年度)からの開始を目指しています。

【柔軟な働き方の推進】
このほか、育児期に柔軟な働き方をして仕事と育児の両立ができるよう、企業に対し、
▽子どもが3歳になるまではテレワークを認めることを努力義務とするほか、
▽3歳から小学校入学までは短時間勤務やフレックスタイム制、保育施設の設置などから、2つ以上の制度を設けることを義務づける方針です。

関連する内容は来年の通常国会に提出する法案に盛り込むことにしています。

財源は?国民の負担は?

【財源は】
少子化対策の強化に向けて政府は、2028年度までの6年間で年間3兆6000億円程度の安定的な財源を確保するとしています。
内訳は、
▽すでにある予算の活用で1兆5000億円程度、
▽歳出改革で1兆1000億円程度、
▽企業や国民から広く集める「支援金制度」を創設して1兆円程度を捻出するとしています。

【支援金制度とは】
このうち「支援金制度」は2026年度から公的医療保険を通じて徴収が始まり、28年度には全体で1兆円の規模となる見通しです。
その時点での医療保険の加入者1人あたりの負担額は月額で数百円程度になるとみられています。

【実質負担なしとは】
政府は賃上げと医療・介護などの歳出改革を進め、「支援金」の徴収による実質的な追加負担は生じないようにすると説明しています。

【本当に負担はないの?】
一方で、来年度から医療や介護の現場で働く人たちの賃上げを行うことなどで、社会保険料の負担が増えますが、これについては、当面「実質的な追加負担」には含めないとしています。
社会全体の賃上げで保険料収入が増えればその分でカバーできるとして計算上、除いたと説明しています。

【丁寧な説明を】
このため政府・与党内からも「つじつまあわせと言われてもしかたない」といった声や「将来世代のために、どうしても足りない分の負担は正面からお願いするべきだ」といった声が出ており、政府にはいっそう丁寧な説明が求められます。

財源の一部を捻出 歳出改革の工程は

政府は、少子化対策の財源の一部を歳出改革で捻出していく方針で、その工程も22日に閣議決定しました。

【2024年度に実施】
このうち来年度は
▽医療機関に支払われる診療報酬のうち、医薬品の公定価格「薬価」を見直すことや
▽医療や介護の保険料について、所得の高い人がより多く負担する仕組みの導入などが盛り込まれています。

介護サービスの利用料について2割負担の人を増やす案も検討されましたが、実施は見送られ、3年後の制度の見直しの中で引き続き検討するとされました。

【2028年度までに実施】
2028年度までに実施を検討する項目には
▽高齢者の医療費や介護費の自己負担について、3割負担とする対象範囲の見直しや
▽保険料の算定に給与などの所得だけでなく、金融所得を加えることなどをあげています。

このほか
▽介護現場の作業効率化のため、ロボットやICT=情報通信技術を活用することや
▽医療現場のデジタル化を進めて事務負担の軽減を図ることも盛り込まれています。