浅草に神戸ビーフが続々と? 外国人が戻った人気観光地で何が

いま、浅草の街を歩いていると、ある異変に気がつくかもしれません。

『浅草ステーキ神戸ビーフ』

浅草から400キロ以上離れた“神戸”の名がついた高級和牛の看板が次々と目に飛び込んでくるのです。

日本を訪れた外国人旅行者はことし1月からの累計で2233万人余りとなりました。

新型コロナの感染拡大を経て、外国人観光客がすっかり戻った浅草でいま、何が起きているのでしょうか。
(12月20日「ニュースLIVE! ゆう5時」で放送)

ここは浅草? “神戸ビーフ” が人気

神戸で焼肉レストランなどを運営している企業がいま、浅草で神戸ビーフを売りにした店舗を相次いで出店しています。

去年12月に1号店を出店したのを皮切りに、1年間でレストランやラーメン店など浅草で合わせて8店舗をオープンさせました。

19日、その店舗のひとつでは、インドネシアから訪れたという家族連れが焼かれる前の神戸ビーフと一緒に記念撮影をしていました。

そして、分厚いステーキが焼かれていく様子をスマートフォンで撮影したあと、ミディアムレアを笑顔で口に運んでいきました。

メキシコから新婚旅行で訪れた女性
「日本の和牛は母国でも食べられますが、日本にきて食べるとまったく味が違います」

食事をした外国人観光客がSNSで紹介するなど口コミが広がった効果もあって、店の売り上げは上々だということです。

コロナ禍に閉店 その跡地に

外国人観光客が多く訪れる浅草は、新型コロナウイルスの影響を最も大きく受けた観光地のひとつと言えるかもしれません。

この神戸ビーフの店は、コロナ禍に閉店を余儀なくされた飲食店などがあった場所を中心に出店を続けています。

取材の案内をしてくれた「神戸牛ダイア」の浅草エリア担当、東野秀明さんも、以前は浅草で焼肉店を経営していました。

東野秀明さん

しかし、コロナのあおりを受けて自分の店を閉じることになり、この神戸ビーフの店に移ってきたということです。

人気の秘密はあのスター選手

ところで、浅草を訪れる外国人観光客に、どうして神戸ビーフが人気を集めているのでしょうか。

コービー・ブライアントさん

東野さんは、その理由のひとつとして、NBA=アメリカプロバスケットボール、レイカーズで活躍したスター選手、コービー・ブライアントさんの影響があるのではないかと言います。

ファーストネームの「KOBE(コービー)」は、神戸ビーフのおいしさに感動したお父さんがつけたとされていて、ファンの間でも広く知られています。

「“Oh KOBE”と言って喜んだ様子で店を訪れるお客さんもいますよ」

また、東野さんによりますと、最近ではただ和牛とひとくくりにするのではなく、日本各地の銘柄牛を食べ比べて楽しむなど、日本食に強いこだわりをもつ海外の人も増えている印象があるということです。

東野秀明さん
「海外から訪れる人は浅草ならではのものを食べたいのはもちろん、日本を代表するものを食べたいという気持ちもある。たくさんの外国人が訪れる浅草には神戸牛ビーフのブランドを知ってもらえるチャンスが埋まっている。今後も20店舗くらいまで増やしていきたい」

年間の外国人旅行者 4年ぶりに2000万人超え

日本政府観光局によりますと、11月、日本を訪れた外国人旅行者は推計で244万800人となり、6か月連続で200万人を超えました。

ことし1月からの累計では、2233万人余りとなり、新型コロナの感染が拡大する前の2019年以来、4年ぶりに年間の外国人旅行者が2000万人を超えることになりました。

観光庁の高橋一郎長官は会見で「新型コロナという苦境からの回復であり、2000万人という1つの節目を超えたことは大変意義あることだ。関係者の努力に感謝したい」と述べました。

1位韓国 2位台湾 3位中国

11月の外国人旅行者を国や地域別で見ますと韓国が64万9900人と最も多く、次いで台湾が40万3500人、中国が25万8300人、香港が20万400人などとなっています。

韓国や台湾のほか、アメリカやオーストラリアなど13の国や地域は、11月としては過去最高の旅行者数となりました。

日本政府観光局は「円安で旅行がしやすくなり、アジアや欧米など幅広い地域から旅行者が増加する傾向が続いている」としています。

“日本を楽しみ放題”なホテルも

浅草を訪れる外国人観光客のさらなる増加に期待して、これまでにないようなサービスを始めているホテルがあります。

11月末にオープンしたばかりホテルでは、外国人の宿泊客に日本ならではの食や文化を楽しんでもらおうと趣向を凝らしています。

ホテルのチェックインを済ませた人はまず、日本酒を入れるための自分専用の升を受けとります。

1階のフロアには日ごとに入れ代わる4、5種類の銘柄の日本酒、それにおばんさいが並べられていて、好きなだけ飲んだり食べたりできるということです。

升には自分の名前を書き込んで旅の記念として持ち帰ることができます。

また、このホテルでは着物を無料でレンタルできるほか、今後は書道や折り紙などが体験できるワークショップも計画しているということです。

数多くの宿泊施設が建ちならぶ浅草で、より外国人を意識したサービスを売りにしながら顧客の取り込みを図ろうとしています。

SAKE Bar Hotel ASAKUSA 広報担当 瀧口喜子さん
「ホテルが数多くあり、激戦区の浅草で突き抜けるために外国人にふりきって勝負しています。日本文化の体験を通じてリピーターを増やしていければと思います」

「その荷物、邪魔になるなら預かります」

コロナ禍を経ていま再び外国人が殺到している浅草では、観光客の増加による影響に配慮した動きもみられます。

ことし8月に浅草寺のほど近くで開業した観光案内所では、日々、外国人観光客のさまざまな相談にのっています。

観光スポットを案内するだけでなく、ガイドブックに載っていないような穴場の店を紹介したり、歌舞伎や落語のチケットを代わりに手配したりしています。

ほかにも、「中古のこけしがほしい」といった相談もあり、多様なニーズに応じているということです。

19日は「フクロウと戯れられるカフェに行きたい」という外国人女性のリクエストに対応していました。

この案内所では、外国人の観光客が増加することによる影響に配慮した取り組みも始めています。

そのひとつがスーツケースなどの荷物を一時的に預けられるサービスです。

“手ぶらで観光”をサポート

外国人の観光客の中には、ホテルにチェックインする前に荷物を抱えたまま観光地をまわるという人もいて、大きなスーツケースを引きながら街を練り歩いくことで周囲の迷惑になってしまうケースもあるということです。

案内所では保管できる場所がない荷物を一時的に預かったり、次の目的地や空港まで配送したりするサービスを行っていて、できるだけ手ぶらで観光ができるようにサポートしています。

観光案内所を運営 IKIDANE 岡田宗一郎さん
「ほかの観光地では治安やごみの問題が出ているところもあります。観光客にもマナーを守ってもらいたいし、地域の人たちからの観光客への否定的な見方を減らすようにしていきたい」

コロナ前後で変わる浅草 目指す観光地とは

観光案内所の担当者は、コロナ禍の前と今とを比較して、浅草を訪れる外国人観光客にある変化があったと話します。

以前は中国からのバスツアーなどで訪れる団体客が目立っていましたが、最近では世界各国、さまざまな地域から多様な人たちが訪れる姿に見られるようになっているということです。

一方で、コロナ禍を経て日本人からの人気も高まっていると言います。

コロナによる行動制限をきっかけに近場で観光できる場所として訪れる人や、今も円安の影響で海外旅行を控え、国内での観光を考える人など、初めて浅草に触れてその魅力に気づくという人も少なくないということです。

また、最近では着物を着て散策ができたり、はやりのスイーツの店が出店したりと、若い世代の姿も目立つようになっています。

外国人からも、日本人からも、熱いまなざしが注がれる浅草の今後について観光案内所の担当者に聞きました。

IKIDANE 岡田宗一郎さん
「今の浅草はいつもすごい人の数で、外国人も日本人も勢いがあって、近い将来、おそらく過去最高を超えてくるのではないでしょうか。外国人が増えて、ホテルなどの宿泊料が上がると日本人観光客が影響を受けてしまうといった相いれない側面もありますが、いろんな配慮をしながら誰もが訪れたい街に近づいていければと思います」

外国人観光客の目的地 検索数のランキングで見てみると

日本を訪れている外国人観光客は、どのような場所を目指して旅をしているのでしょうか。

地図ポータルサイトを運営するナビタイムジャパンは、ことし、外国人向けのアプリでどのような目的地が設定されたのかを分析しました。

目的地として入力、検索された回数をランキングにしたところ、1位は京都の「伏見稲荷大社」で、3位が「奈良公園」、4位が「大阪城天守閣」と日本らしいおなじみの定番スポットがならんでいます。

また、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」や「東京ディズニーランド」といったテーマパークも人気を集めているようです。

ナビタイムジャパン 藤澤政志さん
「年ごとのランキングをみても、日本に初めて訪れた人が行くような有名な観光地がいつも上位を占めています。2回目以降のリピーターが家族や友人を連れてまた同じ場所に行ったりしていて人が人を呼ぶようなかたちで定番の観光地に人が増え続けているという状況が続いています」

GPSで見ると 日本人も知らない場所が行き先に!?

一方、旅行者の協力を得てGPSで行動を詳しく分析していくと、外国人観光客の意外な行き先も見えてきました。

地図ポータルサイトを運営する会社では、日本を訪れた外国人の数が過去最高を記録した4年前の2019年とことしを比較して、その「伸び率」を市町村別に分析しています。

たとえば、ある自治体で4年前に訪れた外国人観光客が10人だったところが、4年後に100人に増えていれば10倍の伸び率となります。

この分析では、三重県南伊勢町や、山形県高畠町などが上位にランクインしています。

藤澤さんによりますと、およそ80倍で1位となった三重県南伊勢町は、まぐろの養殖が盛んで、漁師が営むゲストハウスで船に乗ってマグロをとりにいくといった体験が人気を集めているということです。

町の近くには伊勢神宮があり、参拝したあとに外国人観光客がふらっと訪れるような場所になっていると分析しています。

また、ふとしたきっかけで外国人が訪れるようになったとみられる地域もあるようです。

8位にランクインした青森県西目屋村です。

台湾の有名シェフ アンドレ・チャン氏

この村には、青森県のプロモーション活動の一環として台湾で評判のレストランのオーナーシェフを招いたことがありました。

これが台湾からの観光客の呼び込みにつながった可能性も考えられると言います。

これについて藤澤さんは「海外から訪れた有名な料理人が日本で出会った食材を自分の国で紹介したりすれば私も行ってみたいという気持ちにつながるかもしれません」と話しています。

奈良県 曽爾村のキャンプ場

このほか、上位にランクインした自治体にはキャンプ場が充実していたり、全長247メートルのローラーすべり台があったりするなどの特徴が見られます。

京都や富士山など、日本を代表するような観光地だけではなく、さまざまな地域に外国人の熱い視線が注がれていることがみえてきます。

藤澤政志さん
「初めて訪れる人だけではなくリピーターが増えたり、滞在期間が長くなったり、日本での旅の楽しみ方は多様になっていて、これからいろんな地域で外国人を呼び込めるチャンスがあると言えます。有名な観光スポットだけに人が集中してしまうとオーバーツーリズムの問題が生じるおそれがあり、地域ごとの魅力を掘り起こし日本全体の観光が盛り上がっていくようになっていけばと思います」