来年度の診療報酬改定 人件費など引き上げも薬価は引き下げ

来年度の診療報酬の改定をめぐり、武見厚生労働大臣は鈴木財務大臣と協議し、医療従事者の人件費などに充てられる「本体」を0.88%引き上げる一方、医薬品の公定価格の「薬価」は引き下げ、全体で0.12%のマイナス改定となることが決まりました。

人件費に充てられる「本体」は0.88%引き上げ

来年度予算案の編成に向けて、武見厚生労働大臣は20日午前、財務省で鈴木財務大臣と閣僚折衝を行いました。

その結果、医療機関に支払われる診療報酬について、医療従事者の賃上げを行うため人件費などに充てられる「本体」を0.88%引き上げることが決まりました。

内訳は医療従事者の賃上げに0.89%程度、医療の質の向上などに0.18%、20年以上据え置かれていた入院患者の食費の引き上げに0.06%をあてる一方、生活習慣病の患者の診療を行う医療機関への加算を見直すなど報酬の適正化で0.25%引き下げます。

賃上げは、看護師のほか看護補助者や技師などのいわゆる「コメディカル」に加え、40歳未満の勤務医や薬局などに勤務する薬剤師も含め幅広い職種で行われる見通しです。

このうち看護師や病院に勤める薬剤師、それに「コメディカル」については定期昇給分を除き、来年度は2.5%、再来年度は2%のベースアップを実施するということです。

「薬価」1%引き下げ 診療報酬全体ではマイナス改定

一方で、医薬品の公定価格の「薬価」は市場価格にあわせて1%の引き下げとなりました。診療報酬全体では0.12%のマイナス改定となります。

また、新薬の開発や、在庫不足が続く後発品の安定供給のための取り組みに充てる財源として、ジェネリック=後発医薬品がある一部の薬については、患者の窓口負担額を来年10月から増やすとしています。

介護報酬は全体で1.59%のプラス改定

また、介護報酬については介護職員の処遇改善のため0.98%を上乗せし、全体で1.59%のプラス改定とするほか、障害福祉サービス報酬も賃上げや人材確保に向け、1.12%のプラス改定とすることが決まりました。

厚生労働省は、年明け以降、中医協=中央社会保険医療協議会で具体的な制度設計を議論することにしています。

武見厚生労働相「賃上げにつながる仕組みの構築を」

閣僚折衝のあと、武見厚生労働大臣は記者会見を開き、「医療・介護・福祉の分野で働く人の賃上げを実現できる水準を確保できた。財務省と主張に開きがあったのは事実だが、賃上げによる経済の好循環を作る役割を果たすことを考えながら任にあたらせていただいた。今後、この改定率を前提に賃上げや処遇改善につながる仕組みの構築に向けて具体的な議論を深めていきたい」と述べました。

日本医師会 松本会長「賃金アップに取り組んでいきたい」

日本医師会と日本歯科医師会、それに日本薬剤師会の会長がそろって記者会見を開きました。

この中で、日本医師会の松本会長は「賃金の上昇や物価高騰への対応が必要だと主張してきた。必ずしも満足するものではないが、率直に評価させていただきたい。いただいた財源をしっかり活用して対象となっている人たちの賃金アップに取り組んでいきたい」と述べました。

専門家 “国民の保険料負担増加は今後も避けられない”

財政や社会保障に詳しい慶應義塾大学・経済学部の土居丈朗教授は今回の改定について「国民の負担増を抑えるには報酬を引き上げない方がいいが、医療従事者などの賃上げの原資を得るにはできるだけ高い引き上げが必要という中、財務省と厚生労働省の主張を足して2で割ったような決着だ」と述べました。

その上で、今回決定した改定率をもとに、年明け以降、確実に医療従事者などの賃上げにつながる仕組みを構築するよう求めました。

一方で「診療報酬は全体としてマイナスだが、介護報酬は相当なアップになっているので、トータルでは保険料は増える」として、国民の保険料負担の増加は今後も避けられないと指摘しました。

また「現役世代はもうこれ以上、負担を増やしてもらってはたまらないという限界に来ている」と述べました。

そして、負担感を軽減するため、医療や介護などで働く人以外の賃上げの実現も重要になると強調したほか、労働人口の減少に備え医療や介護の歳出改革を継続する必要があるという認識を示しました。

診療報酬とは

診療報酬は、病院や診療所、薬局などの医療機関に対して支払われる医療費のことです。
診療や医療サービスの対価で医療従事者の人件費などに充てられる「本体」と、医薬品や医療機器の公定価格を定める「薬価」の2つで構成されています。昨年度は総額およそ46兆円が支払われていて、財源の内訳はおおむね保険料が5割、税収などの公費が4割、患者の自己負担が1割程度となっています。
診療報酬全体の水準や個別の診療行為などの価格は2年に1度の改定で国が決めていますが、医療の質の向上や医療従事者の処遇改善を求める声がある一方、現役世代の負担増や財政への配慮を求める声もあり、「改定率」は毎回、予算編成の焦点の1つとなります。