辺野古沖 地盤改良工事めぐる「代執行」裁判 きょう高裁判決

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先になっている名護市辺野古沖の地盤の改良工事をめぐり、国が移設に反対する沖縄県に代わって工事を承認する「代執行」に向けて起こした裁判の判決が20日、福岡高等裁判所那覇支部で言い渡されます。過去に国が自治体の事務を「代執行」したケースはなく、移設工事の今後を左右する裁判所の判断が注目されます。

普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖では、埋め立て予定地で軟弱な地盤が見つかり、国が地盤の改良工事を行うため、設計の変更を申請しましたが、沖縄県が「不承認」としたため工事は進んでいません。

このため、国はことし10月、移設に反対する県に代わって工事を承認する「代執行」に向けて訴えを起こしました。

これまでの裁判で国側は「日本の安全保障と普天間基地の固定化の回避が達成できず、放置することで著しく公益を害することは明らかだ」などと述べて、県に承認を命じる判決を速やかに言い渡すよう求めました。

一方、県側は玉城知事が法廷で意見陳述を行い、「県民が明確に示す移設反対の民意こそが公益とされるべきだ。代執行という国家権力を容認せず、対話による解決の道が最善の方法だと示してほしい」などと求めました。

判決は20日午後2時に福岡高等裁判所那覇支部で言い渡される予定で、裁判所が国の訴えを認め、期限を設けて県に工事を承認するよう命じた場合、その期限を過ぎても県が承認しなければ国が「代執行」を行うことが可能になります。

国が自治体の事務を「代執行」したケースは過去になく、普天間基地の移設工事の今後を左右する裁判所の判断が注目されます。

裁判の争点は それぞれの主張は

【争点1・代執行以外の方法が困難か】
この裁判の争点の1つは、「代執行」以外の方法で解決できるのかどうかという点です。
地方自治法では「代執行」の条件の1つとして「ほかの方法での是正が困難」であることをあげています。
国はことし9月の最高裁判所の判決で、軟弱地盤の改良工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が適法なものであると確定しても承認しない県の違法な事務遂行は、「『代執行』以外の方法によって是正を図ることが困難であることは明らかだ」と主張しています。
これに対し、県は国の関与は地方自治に対する重大な侵害行為になるおそれがあると指摘したうえで、設計変更の申請が行われるおよそ半年前の2019年6月から問題解決に向けた対話を繰り返し求めてきたにもかかわらず、国はその要望を無視し、一切応じようとせず、対話による解決を放棄してきたと主張しています。
そのうえで、このような国の対応は「『代執行』以外の方法によって是正を図ることが困難」とする要件を欠くものだと主張し、訴えを退けるよう求めています。

【争点2・公益性を害するか】
もう1つの争点は沖縄県が国の申請を承認しないことが「著しく公益を害する」かどうかという点です。
地方自治法に基づいて「代執行」の裁判を起こすには、自治体の行った違法な事務遂行が「著しく公益を害することが明らか」であることが条件となっています。
これについて、国は「今回の工事は普天間基地の危険性の除去などが目的で、工事が遅れることで騒音被害など普天間基地の周辺住民の生活に深刻な影響が生じ、日米間の信頼関係にも悪影響を及ぼしかねない」と主張しています。
そのうえで、申請を承認しない違法な状態を放置することにより、日本の安全保障と普天間基地の固定化回避という公益上の重大な課題が達成されず、「著しく公益を害する」ことは明らかだとしています。
これに対して県は「もともと5年で終わるはずの埋め立て工事が最短でも12年かかり、さらに長期化する可能性は高く、完成まで普天間基地は固定化されることになり、危険性の除去という国の主張は極めて抽象的だ」と主張しています。
そのうえで、「沖縄戦や米軍基地の形成・集中の過程で、県民や県の自己決定は踏みにじられてきた。辺野古の移設計画に反対する翁長元知事に続き、玉城知事が当選し、県民投票でも反対の民意が示されていて、明確な民意それ自体が公益として考慮されるべきだ」としています。

【初弁論で双方が主張】
ことし10月30日に開かれた裁判で国側は「最高裁判所の判断が示されたにもかかわらず、その司法判断に従った事務遂行がされないという、法治国家の基盤である『法律による行政』の原理に反する看過しがたい事態だ」などと県の対応を批判し、県に承認を命じる判決を速やかに言い渡すよう求めていました。
一方、県側は玉城知事みずから法廷に立って意見陳述を行い、「『代執行』という国家権力で県民の期待と願いを踏みにじることを容認せず、国と県の対話によって解決の道を探ることこそが最善の方法であることを県民の多くの民意に即した判断として示してほしい」などと求めていました。

普天間基地の辺野古移設問題の経緯

【普天間基地と移設工事】
沖縄県宜野湾市にあるアメリカ軍普天間基地。
市街地のほぼ中央にあるこの基地の移設先となったのが名護市辺野古沖でした。
移設計画では辺野古沖の海を埋め立て、長さ1800メートルの滑走路をV字型に2本建設する方針で、国は5年前、アメリカ軍キャンプシュワブの南側、辺野古側の区域で土砂の投入を始めました。

【県民投票で「反対」多数】
移設反対を掲げた玉城氏が知事に当選し、翌年には埋め立ての賛否を問う県民投票で「反対」が多数となりましたが、国は移設に向けた工事を続けました。

【軟弱地盤があることが発覚】
一方、キャンプシュワブの北側、大浦湾側の区域には軟弱地盤があることが発覚。
国は2020年4月、改良工事が必要になったとして設計変更を県に申請します。
しかし、移設に反対する県は翌年、これを「不承認」とし、埋め立て区域全体の7割ほどの面積を占める大浦湾側では工事が進みませんでした。

【県が最高裁で敗訴 代執行訴訟へ】
こうした中、軟弱地盤の改良工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が違法かどうかが争われた裁判で、ことし9月、沖縄県の敗訴が確定。
県は工事を承認する義務を負うことになりましたが、応じなかったことなどから、国は県に代わって承認する「代執行」に向けて裁判を起こしました。

移設工事の現状と今後

国が移設工事に着手したのは6年前の2017年2月6日で、その後、護岸工事を進め翌2018年12月14日、アメリカ軍キャンプシュワブ南側、辺野古側の区域で土砂の投入を始めました。

沖縄防衛局によりますと、辺野古側の区域では埋め立てを開始してからこの5年間で、必要な量の99.6%にあたるおよそ318万立方メートルの土砂が投入されたということです。

一方、埋め立て区域全体の7割ほどの面積を占めるキャンプシュワブの北側、大浦湾側の区域では軟弱地盤があることが発覚。

国は地盤の改良工事のため設計の変更を申請しましたが、移設に反対する沖縄県がこれを「不承認」としたため工事は進んでいません。

今回の裁判で国の主張が認められ、裁判所が命じた期限を過ぎても県が承認しなければ、国が県に代わって工事を承認する「代執行」を行うことが可能になり、その後、沖縄防衛局は大浦湾側の区域の工事に着手する見通しです。

工事の着手を見据えて、沖縄防衛局は今月5日、海洋土木が専門の大手建設会社や地元の建設会社などで構成するJV・共同企業体と大浦湾側の区域の地盤の改良や護岸の設置に関する工事について契約を結びました。

防衛省によりますと、地盤の改良工事にはおよそ7万1000本のくいを最大で水深およそ70メートルに打ち込む計画で、大浦湾側の区域の埋め立てには辺野古側の5倍以上のおよそ1700万立方メートルの土砂が必要だということです。

一方、土砂の調達先の候補については本島北部と県外としてきましたが、設計の変更により、沖縄戦で激しい戦闘が行われた本島南部の糸満市と八重瀬町、それに宮古島市や石垣市などが加わりました。

土砂を本島南部から調達することについて、県内からは「国のために尽くした犠牲者の骨や血のしみこんだ土砂を埋め立てに使うことはあってはならない」などと、採取しないよう求める声があがっています。

これに対し、沖縄防衛局は「今後の埋め立てに使用する土砂の調達先は工事の実施段階で決まるものであり、県内と県外のどちらから調達するかも含め現時点で確定していない」としています。

辺野古への移設計画とは

沖縄県と国が対立を続けるアメリカ軍普天間基地の移設計画は、沖縄本島中部、宜野湾市の市街地のほぼ中央にある普天間基地を閉鎖し、沖縄県に跡地を返還して本島北部の東海岸に位置する名護市辺野古に代わりの施設を建設するものです。

防衛省によりますと、移設計画ではアメリカ軍キャンプシュワブに隣接する名護市辺野古沖のおよそ150ヘクタールを埋め立て、オーバーランを含めて長さ1800メートルの滑走路をV字型に2本建設することになっています。

また、普天間基地には整備されていない
▽艦船が着岸できる岸壁や
▽軍用機に弾薬を搭載できるエリアなどが設置されることになっています。

移設後は、普天間基地に所属する
▽輸送機のMV22オスプレイや
▽CH53ヘリコプター、
▽UH1ヘリコプターなどが配備されることになっています。

一方、移設工事をめぐりキャンプシュワブ北側にある大浦湾側の埋め立て予定地では軟弱地盤があることが発覚し、工事は進んでいません。

防衛省は地盤の改良工事に着手してからアメリカ軍に施設を提供するまでにおよそ12年かかり、経費は当初の見積もりのおよそ2.7倍のおよそ9300億円に上るとしています。

一方、県は大浦湾側の埋め立て工事について、「前例のない大規模かつ高度な地盤改良工事で設計上の安全性が十分に確保されていない」と指摘し、経費は最大で2兆5500億円になると試算しています。

辺野古への移設をめぐって国は移設が唯一の解決策であるという方針に基づいて、着実に工事を進めていくことが普天間基地の一日も早い全面返還を実現し、危険性の除去につながるとしています。

これに対し沖縄県は、辺野古への移設では普天間基地の一日も早い危険性の除去にはつながらず、過重な基地負担を固定化するものだとして、県外や国外への移設を求めています。