小学校でも活用 生成AIがもたらす学びの革命

小学校でも活用 生成AIがもたらす学びの革命
“家庭教師”はAI――。そんな時代が、すぐそこまで来ているような気がする。

ChatGPTが公開されてから1年、生成AIは教育分野でも存在感が強まっている。

国がことし7月に発表した小中学校での生成AI活用に関する「暫定的なガイドライン」では、リスクに対応できる一部の学校で試験的に取り組み、今後の議論につなげるべきだとされているが、小学生から大学生までさまざまな学びの現場で自主的な活用が始まっている。生成AIがもたらす学びの革命とは。

(科学・文化部記者 絹川千晴)

夢は本場のヒップホップ

都内の大学に通う男子大学生。音楽が好きでラッパーを目指している。

寝る前に歌詞を書き、休日にはライブハウスで自作のラップを披露する。
音楽を始めて以降、海外の人からメッセージを受け取ったり、歌詞に使える英単語を調べたりする機会が増えた。しかし、これまで積極的に英語を学ぶ機会はなく、苦労していた。

そうした中、最近、大学の授業で使い始めたのが、生成AIを使った英会話のアプリだ。
アプリが「Hi!What’s your name?」と切り出し、自己紹介するところからスタート。「あなたはどこに住んでいるの?」と聞かれ「東京」と答えると、「東京は好きな街です。そちらの天気は?」と会話が続いていく。

うまく言葉が通じなかったら、例えば「I said Tokyo,not Kyoto」と片言でも訂正すれば、会話は軌道修正される。
相手は人間ではないので、間違うことにも気兼ねはいらない。それが勉強のモチベーションにつながっていると学生はいう。
学生
「スマホ1つでできるのは気楽だし、やればやった分、聞きとりや発音もよくなっていくと思います。英語がペラペラになって海外で本場のヒップホップを見たいし、現地の人としゃべるのが1つの夢です」

アプリが課題解決に

授業にアプリを導入したのは杉野服飾大学の非常勤講師、小田恭子さん。
学生たちになかなか英会話の実力が養われないのは、実践の機会がないこと、実践しようと思えるだけの自信がないことが原因だと考えていた。

このアプリを導入することで、まさにその課題解決になると考えた。

失敗をおそれることなく、経験を積むことができるアプリ。これまでの英会話学習の壁を突破できるようになるのではと手応えを感じている。
小田恭子さん
「生身の人間と英会話する中で習熟度あげるのが本当は理想ではあるんですけれども、多くの学生はそこに行きつかない、挑戦しようとも思えないところで止まってしまっている。生成AIはそのブリッジというか、勉強と実践の橋渡しをすることができます。間違っても恥ずかしくない環境を与えられることが、生成AIの良さだと思います」

中学生:家庭教師は生成AI

生成AIは、家庭教師の役割を果たすようにもなっている。

都内の中学校に通う1年生の女子生徒。部活動や習い事が忙しく、毎日の勉強は学校の宿題がやっと。中学では英語でつまずいた。

漫画家の両親は在宅で仕事をしているが、忙しい時に分からないところを聞くのは気が引けるという。そこで父親が提案したのが、生成AIのChatGPTを使うことだった。

「中一の英語の家庭教師をしてください」と父親はAIに指示して、タブレットを娘に渡した。

娘が問題文とともに自分の回答を打ち込む。するとChatGPTが答え合わせをして、間違ったところは解説を添えて返してくる。
「この解説で分かった?」
「代名詞ってなに?」
「それも聞いてみな」
「『もう少し簡単に教えてください』(打ち込み)」

「学校の解説書には一応解説は載っているけれど、少ししか載ってない。ChatGPTは、聞けばいろんな解説を出してくるので、結構分かりやすいです。人間に質問する時は気を使ったり、聞き方を工夫したりしなきゃいけないけれど、ChatGPTは何分でも待ってくれるし、自分のペースで話せます」
この家庭で初めて生成AIを学習に使ったのはことしの春休み。「小学校の思い出」というテーマの作文が宿題で出された時だった。

書くことがなかなか決まらず悩んでいた娘。父親は子ども向けに分かりやすくアドバイスするようAIに指示した。
指示を受けたAIは娘に思い出の内容を尋ね、その中で何が大変で、どうやってその壁を越えたのかと質問を重ねた。

作文に書ける要素を引き出された娘は、ものの10分ほどで作文を書き始めた。

答えをせかしたり余計な誘導をしたりしないAIに、父親は「家庭教師として使える」と可能性を感じたという。

英語以外の教科での使用も考えたが、数学や歴史では間違いが多かった。そのため、本格的な使用は見合わせている。

英語の学習に使う時も娘ひとりに任せるのではなく、父親が仕事中のパソコンで時折やりとりをチェックしている。
父親
「たまに聞いてもないのに答えを先走って教えることもあり、適宜こっちで割って入って『答えまで言わないでください』などと、AIに指示することはあります。隣に座って、たまに様子をちょこちょこって見ながら自分の仕事もやるのがお互い幸せな感じなので、今後も使っていきたいです」

小学校:意識に大きな変化が

子どもたちは、新たな技術にどう向き合っていくのか。東京学芸大学附属小金井小学校はことし3月、いち早く生成AIを授業に取り入れた。
この日の4年生の社会の授業のテーマは、「江戸時代に水路が引かれたことで地域の暮らしはどう変わったか」だった。

子どもたちは先生から人口が増えた江戸の町のために玉川上水が引かれたという歴史について学び、そのあとに問いの答えを考えて、それぞれのタブレットに打ち込んだ。

集まった100個以上の意見は、先生のタブレットに送られた。先生は、集まった意見の一覧を生成AIに読み込ませ、特に多かった意見をまとめるよう指示した。
すると15秒ほどで、「水不足の解消」「飲料水の確保」「農業の発展」などの10項目に整理され、表示された。

中には「人口が減少した」と「人口が増加した」という対立する項目も。
この項目をもとに議論を深めていった。

驚いたのは、子どもたちの発言があまりにも積極的だったことだ。

「水が飲めるようになって人口は増えたはずだ」「いや、水路が造られた分、人が住める土地が減ったから人口は減った」「昔は人が少なかったから、ほかにも住める場所がいっぱいあった」などと議論が白熱。

子どもたちは相手の意見をしっかり聞いた上で、自分なりの意見を述べる。反論された子どもも嫌な顔をしたり萎縮したりすることなく、話を聞いてすぐに手を挙げる。意見は次々に出てきて、時間が足りなくなるほどだった。
担任の鈴木秀樹教諭によると、生成AIの導入は大きく2つの効果があったという。

ひとつは、学習をより早く深く進められるようになったこと。これまで子どもたちから集めた意見は、授業後に教師が目を通してまとめるため、議論に使えるのは次の授業だったが、1回の授業でもう一段議論を深めることができるようになった。

そしてもうひとつは、私が取材で感じたように、子どもたちが自分の意見を積極的に主張できるようになったことだ。
鈴木秀樹教諭
「以前は自分とは違う意見が出てくると、黙ってしまうところがあったんですね。ところが生成AIが出してきた意見に対してはみんな情け容赦なくだめ出しをして、違う意見を主張できるようになりました。これは生成AIが出してきたものに対して、自分はどう考えるだろうと思考が働いている証拠でもあると思うんです」
一方で頭を悩ませているのが、生成AIについて子どもたちにどう教えるかだ。

ディープラーニングなどAIの詳しい仕組みを理解するのは、小学生にはまだ難しいとも考えられる。

また、生成AIは間違った答えを出してくることもあり、そうした場合に子どもたちがうまく対処できるかどうか、心配な面もある。
しかし鈴木教諭は、今後も授業に生成AIを活用しない選択肢はないと考えている。今の子どもたちは、AIとともに生きていく世代になるからだ。

教師が授業で積極的に使う姿を見せることで、子どもたちがAIとの正しい向き合い方を体感する重要な機会になると考えている。
鈴木秀樹教諭
「いまは教師が主導してAIってこういうものだよって見せるチャンスだと思っています。基礎的な態度を身につけて、中学高校で実際に触ってみることで、AIの持っているリスクを避けて上手に使う人になってくれると思います。誰も正解が分からないことをやっているので、少しおっかなくはあるんですが、やはり今やらないわけにはいかないと思っています」

学びの革命はこれから

これまで人間の専売特許だった「知性」の源であることばを、巧みに操るようにも見える生成AI。

私たちは、その新しい「知性」に向き合った時に、どのような学びの経験を手にすることができるのか。その可能性は無限に広がっているように感じた。

(11月30日「ニュースウオッチ9」で放送)
科学・文化部 記者
絹川千晴
2016年入局
和歌山局、京都局を経て現所属
2023年から消費者庁とIT・ネット関連の話題を担当