Jリーグは、現在、2月ごろに開幕して12月ごろにシーズンを終える日程でリーグ戦を行っていますが、ヨーロッパの主要リーグが秋に開幕して春に終了する日程でリーグ戦を行っていることや、ACL=アジアチャンピオンズリーグも秋に開幕する日程になったことなどを受けて「秋春制」への移行を検討してきました。
今月14日には、J1からJ3までの60クラブすべての代表者による実行委員会で各クラブの賛否を確認する投票が行われ、52のクラブが課題について継続検討することを条件に賛成の意思を示しました。
サッカー Jリーグ「秋春制」移行を正式決定 2026年から
サッカーJリーグは、19日開かれた理事会で、2026年から2027年にかけてのシーズンからリーグ戦を秋からの開催とする「秋春制」に移行することを正式に決めました。
一方、寒冷地のクラブが抱える試合運営の課題などについては、今後、継続して検討していくとしています。
2026年~2027年にかけてのシーズンから「秋春制」移行
19日午後、都内で開かれた理事会で「秋春制」への移行が話し合われ、2026年から2027年にかけてのシーズンから「秋春制」に移行することが全会一致で正式に決まりました。
「秋春制」では、夏場の試合が減ることによる選手のパフォーマンス向上などのメリットが示される一方、寒冷地に本拠地を置くチームにとっては試合運営への影響などが懸念されています。
こうした課題についてJリーグは、今後、継続して検討していくとしています。
また、2025年のシーズンまでは、これまでどおりの開催期間で行い、新たなシーズンが開幕する2026年8月までの期間については、特別大会の開催を検討するとしたうえでクラブやリーグの収益の確保を議論していくとしています。
野々村芳和チェアマン「Jリーグを世界と戦う舞台に」
理事会のあとの記者会見で、野々村芳和チェアマンは「Jリーグを世界と戦う舞台に変えていく。10か月以上にわたって各クラブのスタッフなどを含めて500人ぐらいの人たちとJリーグの方向性を話してきた。その中で世界と戦う舞台に変えていくために、シーズンを変えるということが必要なんじゃないかという結論に至った。10年後、20年後にスポーツの文化がよくなったと言える行動をJリーグと各クラブでやっていきたい」と述べました。
Jリーグの「秋春制」移行をめぐっては過去にも議論されながら見送られてきた経緯があり、30周年を迎えたJリーグは、今後、大きな転換点を迎えることになります。
Jリーグの案“8月ごろに開幕して5月ごろにシーズン終える”
Jリーグが検討してきた「秋春制」への移行は、秋ごろから年をまたいで春ごろにかけての時期にリーグ戦を開催するものです。
現在のJリーグは、2月ごろに開幕して12月ごろにシーズンを終える日程を採用していますが、Jリーグが現在示している案では8月ごろに開幕して5月ごろにシーズンを終えるとしています。
また、降雪地域のクラブへの対応として、冬の時期の12月ごろから2月ごろまでのおよそ2か月間を「ウインターブレーク」としてリーグ戦の休止期間を設けるとしています。
背景に “世界基準のリーグをつくる” Jリーグの理念
「秋春制」移行の検討が急速に進んだ背景には、Jリーグが掲げた「世界基準のリーグをつくる」という理念がありました。
リーグ戦の開催時期を秋から春に移行する案については10年以上前から検討されてきましたが、降雪地域のクラブへの影響や現状のほうが試合間隔にゆとりがあるなどといった理由から、たびたび見送られてきました。
こうした中、Jリーグは30周年の節目のことし、4月に秋春制への移行を再び検討する考えを示しました。
理由の1つとして挙げられるのが、ACL=アジアチャンピオンズリーグがことしから9月に開幕、5月に決勝という日程に変更されたことです。現状のシーズンのままだと1次リーグの試合が立て込む時期にJリーグの終盤の優勝争いが重なり、Jリーグの新しいシーズンが開幕する時期に決勝トーナメントを迎えることになり、勝ち上がったチームの選手や監督が変わる場合も想定されました。
こうした中、Jリーグは次の10年で「アジアや世界と戦えるJリーグをつくる」などとした理念を掲げ、課題となっていた降雪地域の対応やマーケティングなどに関する分科会を設けて、本格的に移行できるかどうか議論を進めました。10月には各クラブの代表者などでつくる実行委員会で「前向きに検討する」という方針を伝え、年内に結論を出す方向で議論を加速させるとしました。
そして今月14日、実行委員会で各クラブの賛否を確認し、60クラブのうち52のクラブが残された課題について継続検討することを条件に賛成の意思を示しました。
寒冷地では移行に反対するクラブも
ただ、寒冷地では移行に反対するクラブもあり、サポーターなどからも懸念の声が上がっていて、残された課題にどう対処するのか具体的で丁寧な対応が求められています。
- 注目
《Jリーグが示す主なメリットとデメリット》
【メリット】
1.ACLとの一致で世界と戦える環境を
まず挙げられるのが、アジアナンバーワンクラブを決めるACL=アジアチャンピオンズリーグが9月に開幕し、5月に決勝を迎える日程に変更されたことです。
1次リーグの試合が立て込む時期にJリーグのリーグ戦終盤の優勝争いが重なることなどが懸念されていました。「秋春制」になるとJリーグのチームがACLを戦いやすくなり、クラブチーム世界一を決めるクラブワールドカップなどで世界と戦う環境を整えるねらいもあります。
2.猛暑の試合数減少で試合のクオリティーアップ
猛暑の時期に行われる試合数の減少もメリットに挙げられています。今シーズンのJ1のリーグ戦全34節のうち、6月から9月にかけての時期に行われたのは1チーム14試合ほどでした。
Jリーグの調査によりますと、この時期は1試合当たりの選手の走行距離がシーズン当初と比べて短くなる傾向があり、夏場の試合を減らすことで試合のクオリティーを保つことができるとしています。
3.欧州シーズンとの一致で移籍がスムーズに
ヨーロッパの主要リーグとリーグ戦の開催時期を合わせることができるのも大きなメリットです。ヨーロッパの主要リーグは、8月ごろに開幕し、5月ごろにシーズンを終える日程を採用しています。
近年はJリーグの選手の海外クラブへの移籍が活発になる一方、Jリーグのクラブにとってはシーズン途中で主力選手が抜ける状況が起きていました。
「秋春制」に移行すると、日本選手が移籍しやすくなるだけでなく、Jリーグの各クラブが海外の選手や監督を獲得しやすくなります。
【デメリット】
1.寒冷地・降雪地域で試合を開催できるか
大きなデメリットとなるのが冬の時期の寒冷地や降雪地域での対応です。
1993年に10クラブでスタートしたJリーグは現在、41都道府県、60のクラブまで増えました。このうち東北や北信越など降雪地域のクラブは10クラブほどになります。
Jリーグは「秋春制」移行後も12月から2月にかけて「ウインターブレーク」として試合を行わない期間を設けるとしていますが、春まで雪がとけない地域のクラブはアウェーの試合が続くことが予想されます。集客などの経営面や練習環境を含めて乗り越えなければならない課題が残されています。
Jリーグはこうした課題に対してリーグと日本サッカー協会が拠出するおよそ100億円の財源を活用し、雪の少ない地域でのキャンプ費用や降雪地域などを含めた施設の整備の支援に充てるとしています。
ただ、こうした支援は恒久的なものではないため、各クラブの理解を得ながら具体的な支援策を話し合い、移行を進めていく必要があります。
2.スポンサーや自治体の年度とのズレ
企業や自治体が4月スタート、3月を年度末としている中「秋春制」になるとスポンサーとの契約や公共施設の会場確保などの時期がずれるため、契約や施設の確保が難しくなるのではないかという意見も出ています。
Jリーグ 杉本理事“降雪地域などの課題 継続して検討”
経営面の有識者としてJリーグの理事に選任されている杉本勇次理事がNHKの取材に応じ「選手がシーズン中盤に高い強度でプレーできることが非常に重要だと考えていて、Jリーグ理事の宮本恒靖さんや特任理事の中村憲剛さんからも『現役時代にこのような形のシーズンでプレーしたかった』とのことばもあった。私としても経営面で選手の移籍が活発になり、さらに移籍金が獲得しやすくなると考えている」と述べ、賛成の意向を示したことを明らかにしました。
一方、降雪地域などの課題について理事会では「試合運営などは今のシーズンとそこまで大差はないと思うが、そうした地域でも1年を通じてサッカーができる環境づくりが議論となった。金銭的な支援策などを含めて継続して検討していく」と述べました。
そのうえで、経営面で今後必要となるサポートについては「金銭的な支援と人的な支援が必要で、どんな設備が必要かはスポンサーや自治体も巻き込んで議論していく必要がある。Jリーグとしてクラブへのサポートを行う部署も立ち上げているので、不利益を被る点などについては支援する体制を整えていきたい」と述べました。
寒冷地 アルビレックス新潟のサポーターは
サッカーJリーグが「秋春制」への移行を正式に決めたことについて、アルビレックス新潟のサポーターからは「反対する側の懸念を解消するまで、話し合いを重ねてからでもよかったのではないか」という声が聞かれました。
新潟市北区で日本料理店を営む北村英紀さん(45)はアルビレックス新潟がJリーグに加盟する前からのサポーターで、全国各地で行われるアウェーの試合にも駆けつけるなど熱心に応援を続けてきました。
「秋春制」への移行が正式に決まったことについて、北村さんは「特定の地域に不都合がかかりかねない事柄を多数決で決めたことがいちばん残念だ。反対する側の懸念を解消するまで、話し合いを重ねてからでもよかったのではないか」と話していました。そのうえで「アルビレックス新潟は地方にプロスポーツは根付かないという固定観念にずっと挑戦してきた。決まった以上はこのルールで戦うしかないし、タイトルをつかんで初めてクラブとしての誇りが心に芽生えると思う。これからもアルビレックスを応援する」と話していました。