「話を聞いてくれていた彼が…」SNSの先にあった裏切りと恐怖

「話を聞いてくれていた彼が…」SNSの先にあった裏切りと恐怖
スマートフォンのアプリを通じて知り合った「18歳の男子高校生」は、私のすべてを肯定してくれました。

「君はそのままでいいよ」「声かわいいね」ーーそんなメッセージがうれしかったと、14歳の女子生徒は振り返ります。

学校での悩みも親身になって聞いてくれたため、信頼するようになりましたが、相手からの求めに応じて直接会った日の夜、彼女は性被害を受けました。相手は「18歳の高校生」ではなく、「49歳の会社員」でした。

年齢や肩書を偽っていた相手の“正体”を、なぜ見抜くことができなかったのか。自分のような被害を受ける人がいなくなって欲しいと、その経験を語ってくれました。(神戸放送局記者 武田麻里子)

※この記事では性暴力被害の実態を広く伝えるため、被害の詳細に触れています。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。

出会いはカラオケアプリ

相手との“出会い”は、2年前の中学1年生の夏。きっかけは、スマートフォンの無料カラオケアプリに歌声を投稿したことでした。

ふだんの悩みも、歌うことで忘れられたという女子生徒。投稿後、チャットなどに多くの反応が寄せられたといいます。
女子生徒
「家族には音痴と言われていましたが、チャットには『声がかわいい』とか『すごく上手』といったコメントがたくさん届きました。自分の歌声を聴いてくれた人の反応が楽しくなって、どんどんハマっていきました。家族に『いいかげんやめなさい』と言われても、楽しくてやめられなかったです」
中でも多くのコメントを寄せてくれたのが、「18歳の男子高校生」を名乗る人物。チャットや電話でやりとりを重ねるうちに、学校生活での悩みについても相談するようになっていきました。

女子生徒が打ち明けていたのは、小学校で周囲に無視されるなどのいじめを受けた経験。その影響で、進学したばかりの中学校でもなじめずにいました。
女子生徒
「同世代に対して自分で壁を作ってしまう性格になっていました。『迷惑をかけたくない』という思いから、家族にも人間関係の悩みは相談できず、自分で抱えていました。だからこそ、SNSは現実からの逃げ場みたいな感じで、私にとっては安心できる場所でした。相手はたくさんアドバイスをくれ、いい人なんだなと思っていました」

実際に会ってみると…

やりとりを始めておよそ1か月が経ったころ、相手から「会いたい」と誘われました。

突然の求めに驚きましたが、自分も会って話がしたいと考え、向かうことにしました。

家族に「買い物に行く」と伝えて自宅を出た生徒。車で迎えに来た相手と会った時、明かされていた年齢と見た目との差に違和感を覚えたといいます。
女子生徒
「マスクをしていましたが、声が大人っぽい感じがしたので『本当に18歳?』って聞いたら、ためらうことなく『18歳だよ』と答えたので、信じないといけないと思って……。違和感はありましたが、当時の私は家にいたくないと思っていたし、あまり学校にも行きたくなかったので、この人と一緒にいたいなという気持ちになりました。私の悩みを丁寧に聞いてくれて、『この人は家族よりも私のことを気にかけてくれている』とすら感じました」

暗くなると態度が一変

家族以外の異性とのドライブや食事、それに海岸での散歩などは初めての経験で、当初抱いていた違和感は薄れていきました。
しかし、辺りが暗くなると相手の態度は一変します。午後6時ごろ、女子生徒は「帰りたい」と伝えると、「ずっと一緒にいたい」「交際して欲しい」などと言われ引き止められました。

そして、人けのない場所に車は移動。生徒によると、後部座席に2人で座ったところ、キスをしてきたり、ひざの上に頭を乗せてきたりしたといいます。
女子生徒
「いきなりの出来事にパニック状態で、涙が流れました。怖くて断ることもできず、その場で動けずにいました」

相手の“本当の目的”は

一方、帰宅が遅いことを心配した女子生徒の母親は、警察に届け出ていました。

日付が変わった未明。女子生徒は、車の中に2人でいたところを捜索にあたっていた警察官に保護されました。そして、相手は未成年者略取誘拐の疑いでその場で逮捕。捜査関係者によると、「18歳の男子高校生」と名乗っていた相手は、実は妻子のいる49歳の会社員でした。

警察の捜査の結果、相手のスマートフォンからは、生徒が知らない間に上半身を撮影されたとみられる画像も見つかりました。

警察から一連の被害を伝えられたとき、生徒は初めて相手の“本当の目的”に気付いたといいます。
女子生徒
「相手にキスされたときはショックで、さらに盗撮されていたことには全く気付いてなく、女性の警察官に写真を見せられた時に、『あ、こういう人だったんだ』と思いました。今は軽い気持ちで会ったことを後悔しています」

SNSきっかけの性被害は増加傾向

スマートフォンの普及に伴って、子どもが性被害に遭う危険性は増しています。

警察庁によりますと、SNSをきっかけに犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは、去年は1732人。そのおよそ95%が、スマートフォンからSNSにアクセスして被害に遭っていました。
去年、誘拐や性的暴行、強制わいせつなど重要犯罪の被害は158人と、10年前のおよそ6倍にまで増えています。

また、だまされたり脅されたりして、自分で撮影した性的な画像を送信させられたケースも相次いでいて、被害者の低年齢化も目立っています。

ある警察幹部は「子どもたちの場合、性被害に遭ったとの認識が乏しいケースも少なくないため、表面化している事件は氷山の一角に過ぎない」と言います。

狙われる“孤独感” 防ぐためには

疑うことなく“見知らぬ人”と会ってしまう子どもたち。どうすれば被害を防ぐことができるのでしょうか。

子どもの性被害の実態に詳しい追手門学院大学の櫻井鼓准教授は、そこには子どもを手なずけるための手口の存在があると指摘します。
追手門学院大学 櫻井鼓准教授
「SNS上で日常の悩みや孤独を訴えるような投稿をしている子どもを標的に、過剰に優しいことばをかけるなどして手なずけ、信頼関係を築くのが(相手の)特徴です。自分のことを認めて欲しいという承認欲求や孤独感につけ込み、親身なふりをしてやりとりを続けて懐柔していく手口は巧妙で、子どもの場合、オンライン上のやりとりだけで、わいせつ目的の有無を見抜くことは簡単ではありません」
では、子どもを守るために周囲の大人には何ができるでしょうか。櫻井准教授は次のことをポイントにあげています。
「SNSの危険性を伝える」
加害者は年齢や性別を偽ったうえ、相談に乗るなどして安心させて近づいてきます。一度手なずけられてしまうと、子どもは本当の恋愛だと信じ込んで被害を認識できない場合もあります。日頃から実際の手口を伝えるなどして、子どもの危機意識を高めてください。

「相談しやすい関係を築く」
思春期の子どもは、人間関係や勉強で悩みがあっても家族に相談せずに抱え込むケースは少なくありません。加害者はこうした子どもの孤独感や悩みにつけ込んでくるので、ささいなことでも家族に相談しやすい環境を作ることが重要です。家族に相談しにくい場合は、周囲にいる信頼できる大人にまず声をかけるよう伝えることも重要です。
櫻井鼓准教授
「SNSが普及したいま、性的な“手なずけ”は子どもにとって身近な問題です。SNSで知り合った人と会うことや性的画像を送る危険性を教えるなど、スマホを使う時のルールを決めておく必要もあります。家庭だけの見守りでは限界もあるため、学校などでも性被害を防ぐための教育が欠かせない時代になっています。それでも万が一、子どもが被害に遭っていたことがわかった場合、まずは落ち着いて子どもの話を聞いてください。子どもがとった行動を否定せず、最後まで聞き取った上で警察や支援団体などに相談してください」

SNSに潜む危険 知ってほしい

被害が相次いでいることを受けて、国はことし7月に施行された改正刑法で、わいせつ目的で16歳未満の子どもに現金を渡したり、手なずけたりして面会を要求するなどの行為を処罰の対象とした「面会要求罪」を新たに設けました。

しかし、法整備だけでは被害を抑止できないのが実情です。取材に応じてくれた生徒は家族や学校のクラスの担任から、「SNSは気をつけて使いなさい」「犯罪に巻き込まれないように」と言われていました。しかし、「自分は大丈夫」だと思い、危機感は持っていなかったということです。だからこそ、「SNSには危険が潜んでいることを知ってもらい、私のような被害を受ける人がいなくなってほしい」と生徒は訴えます。

生徒などへの取材を通して感じたのは、社会経験が乏しい子どもが大人に心理的にコントロールされることは決して珍しいことではないということ。そして、SNSが普及する今の時代、身近なつながりよりも、ネット空間こそが本当の自分の居場所だと考えている子どもは少なくないということです。

日常の生活に悩み、孤独感を抱えている子どもを救い出すことは周囲の大人の役割でもありますが、それは決して容易なことではありません。

ふだんからの被害を防ぐための取り組みや、家族や学校以外の相談体制の充実など、子どもがSOSを発信しやすい環境づくりが、今後より重要になってくると思います。

(11月30日「Live Loveひょうご」で放送)
神戸放送局記者
武田麻里子
2021年入局
事件・司法の担当を経て、現在は阪神地域の行政を担当
犯罪被害者の取材も続ける
※性被害に遭った方や、過去の経験でつらい思いをしている方のため、以下のような相談窓口があります。

全国共通の短縮ダイヤル「#8891」
携帯電話や固定電話で「#8891」にかけると、最寄りにある性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターにつながり、専門の相談員が応じます。

内閣府のチャット相談事業「Cure Time」
性暴力に関する相談を毎日17時~21時、チャットやメールで受け付けています。年齢・性別・セクシャリティーを問いません。日本語のほか、英語や中国語など10か国語に対応しています。