日本製鉄 米大手鉄鋼メーカー「USスチール」買収で合意

日本製鉄は、アメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」を買収することで両社の間で合意したと発表しました。買収額はおよそ2兆円にのぼる見通しで、日米の鉄鋼業界の大型再編となります。

発表によりますと、日本製鉄はアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」を買収することで両社の間で合意し、USスチールの株主総会や関係当局の承認が得られることなどを前提に、来年4月から9月までの間に日本製鉄がUSスチールを子会社化するとしています。

買収額はおよそ2兆円にのぼる見通しで、実現すれば日本とアメリカの鉄鋼大手どうしの大型再編となります。

アメリカの鉄鋼市場は国内需要を中心とする安定的な市場で、さらに経済安全保障の観点から国内での安定供給を目指すいわゆる「国内回帰」が進むことで、今後、さらに市場の成長が見込まれるとしています。

日本製鉄はこれまで力を入れてきたインドと東南アジアにあわせてアメリカでの事業を強化し、海外事業の拡大につなげるとしています。

さらに鉄鋼業界で二酸化炭素の排出削減が大きな課題となるなか、両社が持つ環境技術を組み合わせることで競争力の強化を図るねらいがあるとしています。

日本製鉄とUSスチールは、日本時間の18日夜、投資家など向けの電話での説明会を開きました。

このなかで日本製鉄の森高弘副社長は「世界をリードする能力を備えた最高の鉄鋼メーカーとなるこころざしに向けて加速するための最適なパートナーを見つけたと信じている」と述べ、買収の意義を強調しました。

一方、USスチールのデイビッド・ブリットCEOは「われわれとアメリカの鉄鋼産業にとって刺激的な日になった。競争力があり革新的な鉄鋼生産をアメリカでさらに強化することができる」と述べました。

全米鉄鋼労組は反発

アメリカの鉄鋼業界の労働組合、USW=全米鉄鋼労働組合は声明を発表し「失望したといっても言い過ぎではない。USスチールは労働者の懸念を脇に押しやって外資の企業に売却することを選んだ」などと買収を非難しています。

また、今回の買収についてUSスチールや日本製鉄から連絡がなかったとしたうえで「政府の規制当局に対し、買収案を慎重に審査し、提案されている取り引きがアメリカの安全保障や労働者に利益をもたらすものかどうかを決めるよう求めていく」としています。

日本製鉄の狙いは

USスチールは、1901年に設立されたアメリカを代表する鉄鋼メーカーで、2022年の粗鋼生産量は1400万トン余りとアメリカ国内で3位の規模となっています。

国内に鉄鉱石の鉱山も保有し、原料から生産までを一貫して手がけているほか「高炉」による鉄鋼の生産に比べて生産の際の二酸化炭素の排出を抑えることができる「電炉」による生産の強化を進めてきました。

アメリカでは経済安全保障の観点から鉄鋼製品の国内での供給体制の強化を進めていて、日本製鉄としてはUSスチールの買収によってアメリカ市場の強化を図る狙いがあります。

一方、脱炭素に向けた対応として、日本製鉄は水素を活用した鉄鋼の生産技術の開発や大型の電炉による品質の高い鉄鋼製品の生産などに力を入れてきました。

これに対してUSスチールは、2019年に電炉による生産を手がけるアメリカの企業を買収し、環境への対応を強化してきました。

今回の買収によって両社の環境技術を組み合わせ、競争力を強化する狙いもあります。

粗鋼の生産量 世界3位に

日本製鉄とUSスチールの粗鋼の生産量を単純に合計すると、その規模は世界3位となります。

世界鉄鋼協会のまとめによりますと、2022年の粗鋼の生産量は、日本製鉄が4400万トン余りで世界4位、USスチールは1400万トン余りで世界27位となっています。

両社の生産量を単純に合計すると5800万トン余りとなり、世界3位になります。

世界の鉄鋼メーカーの競争では中国が粗鋼の生産量で高いシェアを持ち、国内市場が縮小するなか、日本製鉄はこれまでインドや東南アジアを成長市場と位置づけてきました。

今回の買収によってアメリカでの事業を強化し、海外事業の拡大を図る狙いがあります。

ただ、中国のメーカーに対して粗鋼の生産量の規模で対抗するのは難しいのが現状で、両社は脱炭素に向けた環境技術の強化などで世界での競争力の確保につなげたい考えです。