介護サービス利用料 引き上げ見送る方針固める 厚生労働省

介護にかかる費用が増え続ける中、厚生労働省は、高齢者が入浴介助などの介護サービスを受けた際に支払う利用料の引き上げについて議論してきましたが、物価高による高齢者への影響を慎重に検討する必要があるとして、引き上げを見送る方針を固めました。

近く、与党と協議をした上で、正式に決定することにしています。

現在、高齢者が入浴や食事の介助などの介護サービスを受けた際に支払う利用料の自己負担の割合は原則1割で、年収が単身世帯で280万円以上の人は2割、340万円以上の人は3割と段階的に多く自己負担する仕組みになっています。

3年に1度見直される介護保険制度の議論の中で、厚生労働省は制度を維持するために、高齢者の自己負担の引き上げが必要だとして、介護サービスを受けた際の利用料について、現在は1割を自己負担している人の中から2割負担してもらう人を増やす案を検討してきました。

しかし、物価高の中で、高齢者の負担が増えることへの影響を慎重に検討する必要があるとして厚生労働省は、今回の介護保険制度の見直しでは自己負担の引き上げを見送る方針を固めました。

近く、与党と協議をした上で、正式に決定することにしています。

介護サービス利用料の負担 これまでの経緯

介護施設への入所や、訪問介護の利用など、介護保険サービスにかかる費用は、利用する高齢者が自己負担する利用料と、40歳以上の人が支払う介護保険料、それに税金などの公費でまかなわれています。

このうちサービスを利用した高齢者の自己負担については、介護保険制度が始まった2000年は、年収にかかわらず全員1割負担と定められていました。

その後、急速に進む高齢化に備えて制度の持続可能性を高める必要があるとして利用者の自己負担割合の見直しが行われ、2015年8月からは原則1割負担としながらも、単身世帯で年収280万円以上の人は2割負担に引き上げられました。

さらに、3年後の2018年8月からは、単身世帯で年収340万円以上の人は現役並みの所得があるとして、3割負担に引き上げられ、年収に応じて段階的に多く利用料を自己負担する仕組みになっています。

現在、介護サービスを利用している高齢者の負担割合の内訳は、1割負担の人が全体の91.8%、2割負担の人が4.6%、3割負担の人が3.6%となっています。

しかし、それでも介護保険制度をめぐる財政状況は厳しさを増していて、現役世代にこれ以上の負担を強いるのも難しいことから、現在、利用料を1割負担している高齢者の中から2割負担してもらう人を増やせないか、厚生労働省の専門家部会で検討が行われていました。

介護の問題に詳しい専門家「いつかは見直し必要」

介護の問題に詳しい東洋大学の高野龍昭教授は、今回自己負担の引き上げを見送る方針を固めたことについて、「高齢者にとっては利用料の増加につながらず、今まで通り介護サービスを利用した上で同じように生活もできるので非常に安心できる材料になると思う」と述べました。

一方、高齢者の介護サービスの自己負担を増やすことは、これまで何度も先送りにしていて、財政的な側面から考えると懸念があるとして、「高齢者の増加により次の見直しの時期には今以上に財政的に厳しい状況になっていると思われるので、高齢者には痛い見直しではあるが、やはり負担できる高齢者には負担をもう少ししてもらう仕組みに変えていく必要がある」と話しています。

増加する要介護者と介護費用

介護が必要な高齢者の数は高齢化に伴い年々増加し、ことし3月末時点で、およそ694万人と介護保険制度が始まった2000年4月末時点の3倍以上に増えました。

これに伴い、介護サービスにかかる費用も年々増加し、今年度の総額は予算ベースで13兆8000億円で、機械的な試算では2025年度にはおよそ15兆円に、さらに団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年度にはおよそ26兆円になると推計されています。

一方、保険料を高齢者とともに支払い、制度を支えている40歳から64歳までの現役世代は減少傾向で、このままでは財源を確保できなくなるおそれがあり、費用を抑制し制度を持続可能なものにすることが課題となっています。