【16日詳細】イスラエル ハマス側に拘束の人質3人 誤って射殺

イスラエル軍がガザ地区でハマスに拘束されていた人質3人を誤って射殺したことを受け、ネタニヤフ首相が哀悼の意を示すなど、現地では衝撃が広がっています。
イスラエル側はいまも拘束されている130人以上の人質の救出に全力を挙げる方針ですが、今回の事態が今後の作戦に影響することも予想されます。

イスラエルやパレスチナに関する、日本時間12月16日の動きをお伝えします。

ネタニヤフ首相「耐えがたい悲劇」

イスラエル軍は15日、ガザ地区北東部のシュジャイヤで、ハマスに拘束されていた人質3人を「脅威」だとみなし、誤って射殺したことを明らかにしました。射殺された人質はいずれも20代の男性で、拘束場所から自力で逃げたか、ハマス側に放棄されたとみられるとしています。

発表を受けて、ネタニヤフ首相はSNSに投稿し、「耐えがたい悲劇だ。今晩、イスラエル全土が悲しみに暮れることになるだろう」と哀悼の意を示し、ガラント国防相も「すべてのイスラエル人にとって苦痛だ」と投稿しました。

イスラエルのメディアも大きく伝えていて、このうち、タイムズ・オブ・イスラエルは、人質が射殺されたシュジャイヤの現場は、今週、ハマスの戦闘員との戦闘でイスラエル軍の指揮官を含む9人の兵士が戦死した場所の近くで、一帯ではハマスの戦闘員が小規模なグループに分散して抵抗を続けていると伝えています。

誤って射殺された3人のプロフィール 市民団体が公表

人質の解放を訴えるイスラエルの市民団体が公表した、イスラエル軍に誤って射殺された3人のイスラエル人のプロフィールです。

このうち、当時25歳だったサメル・タラルカさんはイスラエル南部に住んでいて、ガザ地区近くのニルアムという集落にあるニワトリのふ化場で仕事をしていました。ハマスによる大規模な攻撃があった10月7日も父親と一緒に仕事をしていて、「攻撃を受けてけがをした」と家族に電話したのが最後の連絡だったということです。10人きょうだいの長男で、バイクで各地を巡るのが趣味だったということです。

また、28歳だったヨタム・ハイムさんはガザ地区近くの集落クファルアザに住んでいました。メタルバンドのメンバーとして音楽活動をしていたハイムさんはドラムが担当で、人質になった当日もテルアビブで行われる音楽イベントに参加して演奏する予定だったということです。

26歳だったアロン・シャムリズさんもガザ地区近くの集落クファルアザに住んでいました。バスケットボールが好きで、この秋からは大学でコンピューター開発を学ぶ予定だったということです。

“人質全員解放の交渉を” イスラエル政府に訴える集会

イスラエル軍のハガリ報道官は15日、ガザ地区東部のシュジャイヤ地区での戦闘でイスラエル軍は3人の男性を「脅威」だと認識し、射殺したと発表しました。その後、3人が人質である可能性が浮上したため、詳しく調べたところ、いずれも10月7日にガザ地区周辺の集落からハマス側にさらわれた人物だったことが確認されたということです。

これを受けて、イスラエルの商業都市、テルアビブでは、ハマス側に拘束されている人質の親族の呼びかけで、イスラエル政府に対して、残された人質全員の解放に向けた交渉を直ちに行うよう訴える集会が開かれました。

集会には数百人が集まり、「直ちに交渉を」などと声をあげていました。ガザ地区では、イスラエル軍がハマスのガザ地区トップのシンワル指導者が潜伏している可能性があるとみる南部ハンユニスなどで攻勢を強めており、ハマス側も激しく抵抗しています。

イスラエル軍 南部ラファのハマス軍事拠点攻撃と発表

イスラエル軍はハマスのガザ地区トップのシンワル指導者が潜伏している可能性があるとみる南部ハンユニスなどで攻勢を強めており、15日には多くの避難民が逃れている南部ラファにあるハマスの軍事拠点を攻撃したなどと発表しました。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラは15日、ハンユニスでも激しい攻撃があり、アルジャジーラのカメラマンが死亡し、記者がけがをしたと伝えています。

また、イスラエルのメディア、タイムズ・オブ・イスラエルは15日、軍がハマスの地下トンネルに海水の注入を始め、試験のため限定的であるものの、成功とみなされていると伝えました。

一方、ハマスは15日、ハンユニスでイスラエル軍の兵士がいた建物を爆破したなどとSNSで発表し、イスラエル軍に打撃を与えていると主張しています。

さらに、15日にはガザ地区からエルサレムに向けてロケット弾を発射しましたが、イスラエル軍に迎撃され、けが人はいませんでした。

ガザ地区の保健当局によりますと、これまでの死者は1万8787人に上り、人道状況が一段と深刻となっています。

イスラエル政府 検問所からの人道支援物資搬入を一時的許可

こうした中、イスラエル政府は15日、ガザ地区とイスラエルとの境界にあるケレム・シャローム検問所からの人道支援物資の搬入を一時的に許可すると発表しました。

これまで物資の搬入はエジプトとの境界にあるラファ検問所に限られ、新たな検問所の開放を許可するかが焦点となっていて、14日からイスラエルを訪れていたアメリカのサリバン大統領補佐官も対応を働きかけていました。

イスラエル政府は「1日当たりトラック200台分の輸送を約束している」として、物資の搬入量を倍増させる姿勢を示しており、人道状況の改善に結び付くのか注目されます。

サリバン米大統領補佐官 アッバス議長と会談

中東地域を訪問しているアメリカ・ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は15日、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と会談しました。

ホワイトハウスによりますと、サリバン補佐官は会談で、ガザ地区で犠牲となったパレスチナの人々への哀悼の意を示すとともに、民間人の保護を強化する重要性について強調したということです。

また、ガザ地区への人道支援の搬入を拡大することや、ヨルダン川西岸の安定を促進するための取り組みについても協議したとしています。

さらに、サリバン補佐官はアッバス議長に対して、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による和平を目指すべきだというバイデン大統領の考えを伝えたということです。

米政府高官「より精密で範囲を絞った作戦に移行を」

イスラエルのガラント国防相は14日、イスラエルを訪問していたアメリカ・ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官と会談した際、ハマスの壊滅には少なくとも数か月がかかり、軍事作戦は長期にわたるとの見通しを示しました。

これに関連してホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は15日、記者団に対し、「私たちはイスラエル側と同意見で、戦闘が数か月続く可能性がある」と述べました。その上で、「イスラエルを訪れたサリバン補佐官は、標的を絞り、より精密で、範囲を絞った形での作戦に移行することを検討する重要性についてイスラエル側に話した」と述べ、イスラエル側に対し、民間人の犠牲を少なくするため、ガザ地区での作戦を切り替えるよう求めていると強調しました。

また、カービー調整官は「より激しさを抑えた作戦への移行が次の重要なステップになるという点では大筋の合意があると思う」と述べる一方、作戦を切り替える時期については「イスラエル側が決めることだ」とだけ述べました。

ヨルダン川西岸と東エルサレムのパレスチナ人死者 年間最多

OCHA=国連人道問題調整事務所は15日、ヨルダン川西岸と東エルサレムで10月7日から12月14日までに、子ども70人を含む276人のパレスチナ人が死亡したと発表しました。

ことしに入ってからヨルダン川西岸と東エルサレムであわせて476人のパレスチナ人が死亡し、OCHAが2005年に集計を始めてから年間で最も多くなっているということです。

また、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は14日の発表で、10月7日以降、ガザ地区で亡くなったUNRWAの職員は135人にのぼるとしています。

外国特派員協会「アルジャジーラカメラマン死亡の調査と説明を」

アルジャジーラなどの報道によりますと、アルジャジーラのサメル・アブダッカカメラマンは15日、南部ハンユニスの避難所で取材をしていた際に、イスラエル軍のドローン攻撃に巻き込まれて負傷し、その後、治療を受けられずに死亡したということです。

外国特派員協会が発表した声明では「アルジャジーラの報道では、サメルカメラマンは安全な場所に地面をはって移動しようとしたが断続的な砲撃にさらされ、パレスチナの救急隊が到着したときには数時間に及ぶ流血ののち死亡していた」としています。

そのうえで、「われわれはこのことについてのイスラエル軍の沈黙に驚いており、なぜこの地域を攻撃したのか、なぜサメルカメラマンが長い間移送や治療が受けられず、救われたかもしれない命が救われなかったのか、直ちに調査と説明を求める」としています。

報道の自由を守る活動をしている国際的なNPO、CPJ=ジャーナリスト保護委員会は、10月7日から始まったイスラム組織ハマスとイスラエル軍との一連の衝突で、今月15日までに少なくとも64人のジャーナリストなど報道関係者が各地で死亡したとしています。

イスラエル軍報道官「人質3人を誤って射殺」

イスラエル軍のハガリ報道官は15日の記者会見で、「きょう起きた困難でつらいできごとについて皆さんに伝えなければならない」と切り出しました。

ハガリ報道官によりますと15日、ガザ地区東部のシュジャイヤ地区での戦闘でイスラエル軍は3人の男性を「脅威」だと認識し、射殺しました。その後、3人が人質である可能性が浮上したため、イスラエル側に遺体を移送して詳しく調べたところ、いずれも10月7日にガザ地区周辺の集落からハマス側にさらわれた人物だったことが確認されたということです。

3人は拘束場所から自力で逃げたか、ハマス側に放棄されたとみられるとしています。
ハガリ報道官は「イスラエル軍がすべての責任を負う」としたうえで、調査を開始したことを明らかにしました。そのうえで、「これは戦闘地帯で起きた悲劇的なできごとだ」と述べ、ハマス側が自爆装置を身につけて兵士に接近したり、兵士をわなにおびき寄せようとしたりするケースも起きているとして兵士たちを擁護しました。

ネタニヤフ首相は旧ツイッターのXへの投稿で、「耐え難い悲劇だ。今晩、イスラエル全土が悲しみに暮れることになるだろう」としたうえで、引き続き、人質の救出に全力を尽くすと強調しました。

海運大手 紅海での航行取りやめ相次ぐ

ロイター通信など複数のメディアによりますと、デンマークのA.P.モラー・マースクは15日、紅海を経由するすべての船舶の航行を一時的に停止すると決めたということです。会社は声明で「この海域で起きている商船へのここ最近の攻撃は、船員の安全と安心に対する重大な脅威となっている」と懸念を表明しています。

また、ドイツのハパックロイドも15日、紅海を通るすべてのコンテナ船の航行を18日まで停止するとしています。イギリスの公共放送BBCによりますと、紅海につながるバーブルマンデブ海峡は幅が30キロほどで航行には危険が伴うことで知られています。

スエズ運河につながるこの海域は、毎年、世界全体の貿易の10%、およそ1万7000隻の船が通る世界でも主要な航路で、う回するにはアフリカ南部を航行するなど、はるかに長い距離の航路をとる必要があるということで、影響の拡大が懸念されています。

イエメン反政府勢力フーシ派「2隻の貨物船にミサイル攻撃」

イスラエルと敵対するイエメンの反政府勢力フーシ派は15日、イスラエルに向かっていた2隻の貨物船に対して、対艦ミサイルで攻撃を行ったと発表しました。

フーシ派のSNSに投稿された映像では、報道官が群衆を前に演説し、「イスラエルへと向かっていた2隻の貨物船に対して適切な対艦ミサイルで攻撃を行った」と述べました。

そのうえで、「ガザ地区へ必要な食料や医薬品が搬入されるまでイスラエルへと向かうすべての船舶の航行を阻止する」として、引き続き、同様の攻撃を行うと主張しました。船の位置情報を公開している「マリントラフィック」によりますと、2隻の貨物船はいずれもリベリア船籍だということです。

フーシ派はこれまでも、紅海につながるバーブルマンデブ海峡や周辺海域で「イスラエルの船舶に対する攻撃を行った」などと主張し、航行中の貨物船への攻撃を繰り返しています。

国連報道官 “検問所物資搬入許可 物資さらに届けることできる”

イスラエル政府がケレム・シャローム検問所からの物資の搬入を一時的に許可すると発表したことについて、国連のデュジャリック報道官は15日の定例会見で、「発表を歓迎する。早期の実現によって人道支援物資の流れが増加するだろう。国連やNGOからの物資をさらに届けることができる」と述べ、一刻も早く搬入が開始されるよう期待を示しました

米大統領補佐官 “検問所物資搬入許可 意義深い一歩”

イスラエル政府がケレム・シャローム検問所からの物資の搬入を一時的に許可すると発表したことを受けて、アメリカ・ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は15日、声明を発表しました。

サリバン補佐官はネタニヤフ首相らと行った会談の中で、検問所が重要な議題だったとし、「意義深い一歩だ」と歓迎しました。

そのうえで、「ガザ地区で人道支援を緊急で必要としている人たちのために、物資の搬入が円滑に進むことを願う」として、アメリカとして引き続き、エジプトなどと連携して人道支援に取り組んでいく考えを強調しました。