防衛力強化決定から16日で1年 “反撃能力”ミサイルの配備急ぐ

政府が5年間で43兆円をかけて防衛力を抜本的に強化することを決定してから16日で1年となります。相手のミサイル発射基地などを攻撃できる「反撃能力」に活用するミサイルの配備を急ぐ一方、円安や物価高で価格が上昇している防衛装備品があり、計画どおりに強化を進められるかが課題となります。

安全保障関連の3文書 防衛力強化に5年間で43兆円

政府は去年12月、「反撃能力」を保有することなどを盛り込んだ安全保障関連の3つの文書を決定し、5年間で43兆円を投じ防衛力の抜本的な強化を進めることになりました。

この1年、「反撃能力」に活用するミサイルの配備を急ぎ、射程を伸ばす改良を進めている国産の「12式地対艦誘導弾」について、木原防衛大臣は15日、当初の計画から1年前倒しし2025年度から配備することを発表しました。

また、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」も半数の200発を1年前倒しし、2025年度から配備する予定です。

その一方で、防衛装備品の中には円安や物価高の影響で価格が上昇しているものがあります。

例えば陸上自衛隊のCH47輸送ヘリコプターは、おととしまでの5年間は平均で1機76億円でしたが、来年度予算案の概算要求では2倍以上の185億円となっています。

こうした価格の上昇や、財源の確保に向けた増税の開始時期が決まらない中、計画どおりに防衛力の強化を進められるかが課題となります。

木原防衛相「効率化を徹底 計画の範囲内で防衛力強化」

木原防衛大臣は閣議の後の記者会見で「防衛力の抜本的強化の実現に向けて取り組みを1つ1つ着実に進めることができた。円安や物価高による装備品の価格の上昇への対応が課題だが、いっそうの効率化や合理化を徹底することで、計画に定められた金額の範囲内で必要な防衛力の強化を行っていく。国民の理解をしっかりと得られるよう丁寧な説明やわかりやすい情報発信を心がけていきたい」と述べました。

“反撃能力”に活用の国産ミサイル 配備を1年前倒しへ

木原防衛大臣は、相手のミサイル発射基地などを攻撃できる「反撃能力」に活用する国産のミサイルについて、2026年度からとしていた配備を1年前倒しすることを明らかにしました。

木原防衛大臣は15日の閣議のあとの記者会見で「反撃能力」に活用する開発中の「12式地対艦誘導弾」の改良型について、企業側との調整がついたとして、2026年度からとしていた配備を1年前倒しすることを明らかにしました。

木原大臣は「厳しい安全保障環境を踏まえ、前倒しは実戦的な『スタンド・オフ・ミサイル』による防衛能力を早期に獲得しなければならないという切迫感を具現化したものだ」と述べました。

「反撃能力」に活用するミサイルをめぐっては、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」についても、半数の200発を1年前倒しし2025年度から配備する予定です。

防衛力強化に向け各地で動き

防衛力の抜本的な強化に向けた動きは各地で出ています。

1.弾薬庫の増設

安全保障関連の3つの文書では、自衛隊が戦いを継続する能力を確保するためとして弾薬庫を増設する方針が示され、防衛省はおよそ10年後までに全国で130棟程度を新たに整備するとしています。

このうち、大分市にある陸上自衛隊大分分屯地では大型の弾薬庫2棟を増設する計画で、先月29日に工事に着手しました。

防衛省は大型弾薬庫について、「反撃能力」として使われる射程の長いミサイルも保管できるとしていますが、具体的にどのような弾薬を保管するかについては「自衛隊の能力や運用が推察される」として明らかにしないとしています。

また、青森県むつ市の海上自衛隊大湊基地でも大型弾薬庫2棟を新たに整備する計画で、ことし6月から工事を行っています。

このほかに弾薬庫の整備場所として明らかにしているのが、▽宮崎県えびの市の陸上自衛隊えびの駐屯地と▽鹿児島県奄美市の瀬戸内分屯地、▽沖縄市の沖縄訓練場の合わせて3か所です。

このうち沖縄訓練場については、多くの弾薬や燃料などを集積する補給拠点として整備するため、現時点で5棟の弾薬庫を設置する計画です。

また、火薬庫の整備に適しているか調べるため、北海道の▽多田分屯地、▽近文台分屯地、▽沼田分屯地、▽足寄分屯地、▽日高分屯地、▽白老駐屯地のほか、▽京都府の祝園分屯地と▽広島県の呉基地の合わせて8か所で調査を行うとしています。

このほかの設置場所については検討中としていて「示すことができる情報については、関係自治体や住民にしっかりと説明をする」としています。

防衛省は一部で住民への説明を始めていて、このうち先月大分市で開いた説明会では、住民から「射程の長いミサイルが保管されれば、攻撃される危険が増すのではないか」などと不安の声が上がりました。

2.“民間空港”で戦闘機の離着陸訓練

安全保障関連の3つの文書では、有事に対応するためとして空港や港の利用を拡大する方針も示されていて、先月には航空自衛隊の戦闘機が4つの空港で訓練を行いました。

訓練は、自衛隊の基地が攻撃を受けて使えなくなったことを想定して、▽大分空港と▽岡山空港、▽鹿児島県の徳之島空港と奄美空港で行いました。

大分空港

このうち、大分空港では先月13日、福岡県の築城基地に所属するF2戦闘機4機が着陸して旅客機と同じ燃料を給油したあと離陸しました。

また、同じ日には徳之島空港でも那覇基地に所属するF15戦闘機4機が滑走路に着陸したあと、すぐに離陸する「タッチアンドゴー」を行いました。

民間機が主に利用する“民間空港”で、自衛隊の戦闘機が有事を想定して離着陸訓練を行ったのは初めてです。

自衛隊の戦闘機は北海道と青森、茨城、石川、福岡、宮崎、沖縄の7道県にある基地に配備されていますが、有事ではミサイル攻撃を受け、滑走路が破壊されるなどして離着陸できなくなる可能性があります。

一方、国内には空港がおよそ100あり、このうち戦闘機が安全に離着陸できる長さ2000メートル以上の滑走路をもつ“民間空港”がおよそ60あります。

今回の訓練は、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返し、中国が軍事力の増強を進める中、有事を念頭に使える空港を1つでも増やしたいというねらいがあるとみられています。

防衛省は、先月4つの空港で訓練を行ったのは関係自治体の理解が得られたためとしていて、ほかの空港についても理解が得られれば訓練を行いたい考えです。

一方で、空港での訓練をめぐっては住民から懸念の声も上がっていて、大分空港の周辺では先月13日に訓練に反対する集会が開かれました。

財源確保に向けた増税 開始時期が決まらず

防衛力の抜本的強化の財源確保に向けた増税は、開始時期が決まっていません。

自民・公明両党は、去年決定した税制改正大綱で、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目で増税などの措置を複数年かけて実施し、2027年度に1兆円余りを確保するとしていました。

一方、増税の開始時期は「2024年以降の適切な時期」とし、ことし改めて与党で議論して決めることにしていたため、ことしの税制改正議論では増税の開始時期が焦点の1つとなりました。

自民党は当初、再来年・2025年か、3年後の2026年から実施する2つの案を軸に検討する方針でした。

一方、公明党内には来年の所得税減税の実施前に増税の開始時期を決めるのは一貫性を欠くと受け止められ得策ではないとして、開始時期の決定に慎重な意見が大勢でした。

さらに、今月にかけて自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題が次々と明らかになり、自民党内でも「政権が吹っ飛ぶような話が出ている中で決められないのはしかたがない」という声が急速に広がっていきました。

こうした状況を踏まえ、岸田総理大臣は自民党の宮沢税制調査会長にことしは決定しない意向を伝え、結局、開始時期の決定は見送られました。

宮沢氏は記者会見で「増税というものはそれなりに政権の力が必要だが、残念ながら昨今の政治状況はかなり自民党にとって厳しく、ことしは決定しないことになった」と述べました。

これによって増税の開始時期は2026年以降となる公算が大きくなっています。

装備品の導入をめぐっては、防衛省の担当者が「ここまでとは想定外だ」という円安や物価高の影響が懸念されています。

政府は、まとめ買いなど効率化・合理化を図り43兆円の範囲内で進めていく方針ですが、1年前に必要だとして掲げた強化策はすべて実現できるのか。

実施時期は決まっていなくても財源の一部を増税によって確保しようとしているだけに、政府には説得力のある説明が求められます。