「キックバックは現金で」事情聴取に安倍派議員の複数秘書説明

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で、安倍派の所属議員の複数の秘書が東京地検特捜部の任意の事情聴取に対し「派閥側からのキックバックは現金で受け取り、政治資金収支報告書に記載しないよう指示された」などと説明していることが関係者への取材でわかりました。
東京地検特捜部は、キックバックされた金額が多い議員を中心に任意の事情聴取を要請していて、派閥側や議員本人の認識など、不透明な資金の流れの実態解明を本格化させるものとみられます。

自民党の最大派閥、安倍派「清和政策研究会」の政治資金パーティーをめぐっては、松野・前官房長官ら派閥の幹部6人を含む大半の所属議員側が、パーティー収入の一部についてキックバックを受け、議員側の政治団体が政治資金収支報告書に収入として記載していない疑いがあり、議員側にキックバックされた資金の総額は去年までの5年間で、およそ5億円に上るとみられています。

関係者によりますと東京地検特捜部はこれまで、キックバックを受けていた安倍派の所属議員の秘書ら数十人から任意で事情を聴いていますが、複数の秘書が特捜部に対し「派閥側からのキックバックは現金で受け取り、政治資金収支報告書に記載しないよう指示された」などと説明していることがわかりました。

特捜部は、すでにキックバックされた金額が多い議員を中心に任意の事情聴取を要請していて、派閥側や議員本人の認識など、不透明な資金の流れの実態解明を本格化させるものとみられます。

元秘書「議員の胸ポケットに」

安倍派の所属議員の元秘書がNHKの取材に応じ、派閥のパーティー収入をめぐるキックバックの実態を証言しました。

“キックバックは当たり前”
元秘書は「政治の世界に秘書として入って1年目から、キックバックというものがあると先輩秘書や派閥の事務局などから聞いていた。当たり前のように感じていたので、事務所の中でも悪いという認識はなかったと思う」と話しました。

派閥幹部から議員に現金手渡しか
その上で「年末が近づくと派閥の幹部から議員の事務所に連絡があり、本人が議員会館や派閥の事務所に出向いて幹部と面会していた。面会を終えた議員の胸ポケットには封筒が入っていて『先生、その胸ポケットのやつって、何かの資料ですか』と聞くと『これは派閥からのキックバックだよ』と言っていた。封筒の中身を見たことはないが、現金以外には考えられない」と証言しました。

収支報告書に記載せず
さらに「キックバックを受けた分は本来、政治資金収支報告書に記載すべきだと思うが、派閥から『記載しないでください』と明確な指示があったので、一切記載していなかった。派閥の事務局に『これは裏金なのではないか。記載しないとやばくないか』と聞いたところ『なので、逆に記載しないでください。記載してしまえば、裏金ではなくなってしまいます』と言われた」と明かしました。

資金の使途は
また、キックバックされた資金の使いみちについては、「聞いてはいけないと思い、聞いたことはなかった」とした上で「議員が派閥の幹部と会った2、3週間後に寸志のような形で事務所のスタッフに配られていたので、派閥のキックバックの金がそうした用途に使われているのだと思っていた」と話しました。

昔から続く“裏金”づくり
そして「はじめは報告書に記載しなくていいのかという思いはあったが、派閥の中の集団心理というか、みんな記載していないと聞いていたので、そういったところでの安心感というか、『赤信号みんなで渡れば怖くない』というところがあったのかもしれない。ある意味思考停止していたのだろう。派閥の事務局に『この世界では裏金をつくるといったことはずっと昔からやってきていますから』と言われたこともある。政治の世界にいると裏金をつくるのが当たり前の風習になっていて、政治家は裏金が悪いものだという認識が相当薄れている。今回の派閥の問題は氷山の一角だと思う」と話していました。

安倍派幹部の支持者「事実上の企業献金」

安倍派幹部の支持者で、派閥のパーティー券を毎年複数枚買っているという50代の会社役員の男性がNHKの取材に応じ「仕事上のつながりがあるのでパーティー券を買わないという選択肢はなく、事実上の企業献金になっているのではないかと思う」と実態を証言しました。

この男性は、10年ほど前から安倍派のパーティー券を買っていて、支持している派閥幹部の事務所から、毎年、複数枚が封筒に入った形で会社に送られてくるといいます。

1枚2万円で、1回で10枚分、あわせて20万円を指定された口座に振り込んだことがありますが、実際にパーティーに出席するのは2年に1回程度だといいます。

男性は「事務所から『10枚買って』とか『今回は5枚お願いします』などと連絡が来る。買ったパーティー券はほかの人に譲ることもあるが、さばけないことが多いので、余った分はごみ箱に捨てることになる」と話しています。

パーティー券を買うのは、安倍派幹部が関係する法人から業務を受注してきたためだといいます。

男性は、同じように企業の関係者が仕事上のつきあいでパーティー券を買うケースがほとんどではないかとした上で「地元企業はパーティー券を買ったからといってプラスにはならないが、『ここは買ってくれなかった』ということになるので、買わないと大いにマイナスになる。仕事がらみでつながっている人にとってパーティー券を買わないという選択肢はなく、事実上の企業献金になっているのではないかと思う」と実態を証言しました。

その上で「パーティー券が送られてきた分だけ代金を支払わなければならず、企業にとっては負担だ。政治資金パーティーは資金を集めるための行事なので、キックバックもあるのではないかとうすうす感じてはいたが、こうしたやり方は国民をばかにしていると感じる」と話していました。

自民党関係者「腹立たしいというか、おかしい」

20年ほど前から毎年のように派閥のパーティー券を買っているという福井県内の自民党関係者は「パーティー券を売った分だけ食事や飲み物を用意すると経費がかかり、集めた金がむだになる。パーティー券を買うだけ買って行かないほうが政治家にとってもいいだろうから、これまでほとんど出席してこなかったし、秘書も『本音でいえば来ないほうがありがたい』と言っていた」と話していました。

そのうえで「金を集められないと派閥でも党の中でも要職につけないことがわかっているから、少しずつでもみんなで応援したいという気持ちでパーティー券を買っていたのに、なぜもらったキックバックを収支報告書に記載してきちんと政治活動に使わないのか。腹立たしいというか、おかしいと思う」と話していました。

販売側「購入額が20万円超えないよう言われた」

安倍派の所属議員の関係企業に勤めていた男性が、NHKの取材に応じました。

男性は、下請け企業などに派閥のパーティー券を販売していたとしたうえで、収入が所属議員側にキックバックされる仕組みについて「私を含め、お金を払った人は全部派閥に行ってると思っているので、それがキックバックという形でかすめとられたとは思っていませんでした。皆さん余裕がない中で政治にいかされると思って1枚2万円を払っていたわけで、それが議員本人の懐に入っていたのが事実ならば、皆さんの気持ちを裏切っていると思います」と話しました。

さらに、別の社員がパーティー券の割りふりを決めていたとしたうえで「購入額が20万円を超えないように強く言われました。名前を出さないと届けをしないといけないからでしょう。地方から旅費や宿泊費を使ってまで行くだけの時間的な余裕も金銭的な余裕もないので、要はパーティー券を買って献金しているような感じでした」と話していました。

継続購入者「裏切られた気持ち」

安倍派のパーティー券を継続的に購入していた事業所に勤める男性は、NHKの取材に応じ、政治資金パーティーをめぐる問題について「ずっと応援してきたから、こういう形で報じられてとても残念です」と話しました。

そのうえで「お願いされていた枚数はいつも10枚で、2万円の券なので20万円になります。派閥のパーティーは、東京では他の議員と重なってしまうことがあって、議員の秘書から、『なかなか売りにくいので、地元でノルマをこなさなければいけないんだ』と聞いたことがあります」と語りました。

さらに「ノルマをこなすのは大変だから協力してほしいと言っていたが、こんなにたくさんキックバックをもらっているんだとしたら裏切られた気持ちだ」と話していました。

透明性低い“パーティー収入”

パーティー収入は、寄付と比べて収支報告書に名前などの記載が義務づけられる基準となる額が高いため、長年、透明性が低く企業・団体献金の抜け道になっているのではないかと指摘されてきました。

支払った側の名前などの記載が義務づけられるのは、寄付は年間5万円を超えた場合ですが、パーティー券は同じ人や団体から1回のパーティーで20万円を超える支払いを受けた場合です。

総務省届け出の政治団体のパーティー収入は、企業・団体献金に対する制限が厳しくなる中で、2000年を境に毎年企業・団体献金を上回り続けていて、去年は3倍近くにのぼりました。

このうち、国会議員が関係する政治団体について、NHKが去年のパーティー収入を調べたところ、94%にあたる53億円余りは、購入者の名前などが記載されず、議員がどのような企業や団体などから支援を受けているかわからない状況となっていました。