「その誘い、大丈夫?」セクストーションに気をつけて

SNSで知り合った異性から「楽しいことをしてみない?」というお誘い。

性的な動画や写真を相手にだまし取られ、口止め料を要求される性的脅迫、「セクストーション」をご存じですか。

「まさか自分が引っかかるわけがない」そう思うかもしれません。

しかし、近年、被害相談が増えています。

今回、被害に遭った20代の男性が、取材に応じました。

恥ずかしいという気持ちにつけ込み、被害を見えにくくする、サイバー犯罪「セクストーション」。

その誘い、本当に大丈夫?

(デジタルでだまされない取材班/機動展開プロジェクト 能州さやか 科学・文化部 福田陽平)

「まさか自分がだまされるなんて…」

被害者のコウスケさんと取材する記者

ことし10月に被害にあったという20代の大学生のコウスケさん(仮名)。

始まりは、インスタグラムに届いた1通のメッセージでした。

Hello.

Where do you live?

I guess you are a student.

差出人は、「千葉県に留学している学生」を名乗る、外国人女性とみられるアカウント。

警戒心はあったものの、学生どうしの英語でのメッセージのやりとりは英会話の練習になるかもしれないと考え、しばらくたあいもないやりとりを続けているうちに不信感は薄れていったと言います。

しかし、事態は深夜に動き出します。

「裸の写真を交換したい。お互い、絶対に保存してはダメ」。

メッセージとともに、突然、そのアカウントの女性の裸の写真が届きました。

イメージ画像

コウスケさんは、女性の方から“恥ずかしい”写真が送られてくることに驚き、最初は断りましたが、催促が続き、迷いながらも自分の下半身を写した写真を相手に送ってしまいました。

インスタグラムのダイレクトメールでは、再生回数を1度だけに指定して動画や写真を送る設定ができ、相手の求めに応じて、1度だけ再生できるようにしていました。

「5分以内に支払わないと、ばらまく」

胸がつぶれるほど驚いたのは、翌日の授業中のこと。

保存されていないはずのコウスケさんの性的な画像とともに、「ばらまかれたくなければ、5分以内に3万円を支払え」というメッセージが届いたのです。

インスタグラムの友人の一覧を映し出した画像も添付されていました。

実際のメッセージ

気が動転したまま、電子マネーの「アップルペイ」で3万円を支払いましたが、その後も脅迫は止まず、「次は5万円だ」「2分以内に支払え」などと要求してきました。

結局、近くの警察署に相談して被害届を提出したというコウスケさん。

「『3万円で解決できるなら』と支払いましたが、画像を消してもらえる保証はないことに、当時は気づけませんでした」。

相手が逮捕されない限り、不安は一生残り続けますし、今も、いつ性的な写真をばらまかれるかと不安でいっぱいです。これまでネット上の犯罪について学ぶ機会もあり、まさか自分がこんな被害にあうなんて、全く思いませんでした。

「セクストーション」って何?

このようなサイバー犯罪は「セクストーション」と呼ばれています。

「性的な」という意味の「セックス(Sex)」と「脅迫・ゆすり」を指す「エクストーション(Extortion)」を合わせた造語で「性的脅迫」と訳され、性的な動画や写真を入手し、それを「ばらまく」などと脅して金銭を要求することを指します。

セキュリティー会社などによりますとアメリカでは、10年以上前から被害が確認され、去年には、被害にあった17歳の少年が、自ら命を絶ったとして、ことし5月、アメリカ司法省はSNSで女性になりすましたアカウントで脅迫したナイジェリア人の3人を起訴するなど、被害が深刻化しています。

被害の実態は…

国内でのセクストーションの被害については、警察の公式統計はありませんが、性暴力被害の相談を受け付けているNPO「ぱっぷす」によりますと、相談件数は、増加傾向にあります。

2015年ごろからこうした相談が寄せられるようになり、詳細な件数をまとめ始めた去年の秋から、先月11月までの1年間の相談件数は速報値で523件で、毎月、増加傾向にあります。

相談者は、男女別ではほぼ半々で、これまでは、女性がより過激な画像を要求し続けられるといった被害が多かったということですが、最近は、男性が金銭などを脅し取られるケースが増えているということです。

NPO「性暴力であり、特殊詐欺でもある」

NPO「ぱっぷす」の金尻カズナ理事長

児童や20代前半の若者がターゲットになっている印象だ。特に若い男性は自分の裸の写真が脅しの材料になるという認識が薄い人が多い。セクストーションは、性暴力被害であり、『特殊詐欺』でもあるということをまずは知ってもらい、被害を防いでいきたい。

手口は 不正アプリインストールの誘導も

セクストーションのようなサイバー犯罪からどう身を守ればいいのか。

セキュリティーの専門機関「情報処理推進機構=IPA」に取材しました。

手口としては、SNSや、語学学習・国際交流を目的として外国人と出会える「言語交換アプリ」のメッセージでやりとりをしている際に、性的な動画や写真を送るよう要求されるケースが多く、「もっと動画が交換しやすいアプリがある」などと誘導され、不正アプリをインストールする被害も確認されています。

こうした不正アプリでは、スマートフォンの電話帳の情報が盗み取られ、「友人や知人に動画や写真をばらまく」と脅されるケースもあるということです。

このほか、いきなりメールが送りつけられ、「あなたがアダルトサイトを見ているときに、恥ずかしい姿を録画した」などと、暗号資産のビットコインを要求する手口も確認されています。

セキュリティー会社のノートンによりますと、こうした「セクストーション」に関連するメールは、世界各国で確認されています。ことしの11月24日から12月15日までの間に世界であわせて554万件あまりを検知し、国別で見ると、日本は64万件と、1位のチェコ、2位のアメリカに次いで、3位の多さだったということです。

専門家「相手の手に渡ったものは取り戻せない 十分注意を」

情報処理推進機構セキュリティセンター 中島尚樹さん

SNSなどでやりとりするセクストーションは攻撃側の立場で考えればやり取りの手間がかかっていると思うが、高額な口止め料が手に入るという面がある。『どうすれば相手から画像を取り戻せるか、どうすれば消してもらえるか』という相談も寄せられるが、残念ながら一度、相手の手に渡ったものは消すことも、取り戻すこともできない。日ごろから十分注意する必要がある。

そして、以下のような対策が重要だと指摘します。

他人に見られて困る写真や動画は、スマートフォンに残さない

第三者に送るのは、なおさら非常にリスクが高まるため、共有しない

通常の公式マーケットで配信されていない不正アプリはインストールしない

そして、もし被害に遭ってしまったら。

警察に相談すること

不正アプリをインストールしてしまった場合は、電源を切るか機内モードにするなどして通信を遮断してから警察に相談すること

ずっと負い目が…「苦しむ人が1人でも減るように」

取材に応じてくれたコウスケさん。

今も苦しみは続いているといいます。

私は確かに被害者ですが、見知らぬ人間に性的な画像を送ってしまうような人間だという負い目もずっと残っています。自分を信頼している親や親戚も裏切ったような気持ちで、打ち明けられずにいます。

今回、コウスケさんは自分と同じように苦しい思いをする人が1人でも減るようにと、取材を受ける決断をし、NHKに情報を寄せてくれました。

「被害に遭ったとき、自分で調べるまで『セクストーション』という言葉すら知りませんでした。本当は今もつらいですが、少しでも被害者が減ればと思っています」。

若者や子どもたちに性的な被害と経済的な損失を与え、尊厳を脅かしかねない「セクストーション」。

被害に遭わないように身を守ることが大切ですが、万が一被害に遭った場合、身近な人に話せなくても、警察や相談機関を頼れるよう、日頃から周囲が働きかけることも重要です。


情報やご意見はNHKの情報提供窓口「ニュースポスト」まで、お待ちしています。

◇相談先一覧

・警察相談専用電話 #9110
・性犯罪被害相談電話 #8103
・性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター #8891

・よりそいホットライン 0120-279-338
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556

不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。