服が燃える!?「着衣着火」で年間100人死亡 注意点と対策は

「フリース着て料理していたら服に火が」

「袖から肩まで一瞬で燃え広がった」

SNSでこのような投稿が相次いでいます。

ちょっとした不注意がきっかけになる「着衣着火」ですが、去年1年間では全国で101人が死亡するなど、深刻な結果を招きます。

どんな素材の服を着れば防げる?服に火が付いてしまった時の対処法は?
命を守る対策を取材しました。

(※記事後半で対策方法を動画で紹介しています)

ちょっとした不注意で…

今月5日、福島県内の消防がSNSでこんな投稿をしました。

「衣服への着火に注意
 ガスコンロやストーブの炎が衣服に着火し火傷を負う火災が発生 
 異常燃焼がなくとも、ちょっとした不注意で近づきすぎ着火してしまうことも!」

投稿した郡山地方広域消防組合によりますと、管内では3か月連続で「着衣着火」による被害が相次いでいて、注意喚起のために投稿したそうです。

被害はいずれも屋内で、調理など日常の動作をしている最中に起きていました。

●10月15日 調理中の70代女性が軽症

●11月21日 ストーブの火が燃え移り、70代女性が重症の大やけど

●12月 3日 調理中の30代男性が軽症

郡山地方広域消防組合担当者
「冬になるとストーブやコンロの火で着衣着火が発生しています。福島の冬は寒く室内でも厚着をしていて、火が燃え移っても変化に気付きにくいこともあるようです」

一瞬で火が背中まで

SNS上でも、体験談が数多く投稿されています。

「フリース着て料理していたら服が焦げた」

「袖から肩まで一瞬で燃え広がった」

このうち、過去に「着衣着火」を経験したという女性も、注意喚起につながればとSNSに当時の状況を投稿しました。

冬の日の朝のことでした。

とても寒い日で、化学繊維のニットのカーディガンを着ていたそうです。

オムレツを作ろうとフライパンに油をひいて、温度が上がったか確認するために手をかざした瞬間…。

右手首の袖の部分に火が着き、青い炎がメラメラと肩の方に駆け上がっていきました。

火は、一瞬で背中まで回りました。

「死ぬ」

そう感じましたが、恐怖で声も出ませんでした。

幸いにも、コンロのすぐ横に食器を洗うための水が入った大きなたらいがありました。

近くにいた祖母も消火を手伝ってくれたため、服の表面が焦げただけで済んだそうです。

着衣着火を経験した女性
1、2秒の一瞬で背中まで火が回りました。祖母は綿のかっぽう着を着ていましたが、消火する側も化学繊維の服を着ていたら巻き込まれる可能性もあったのではないかと思うと、本当に恐ろしいです。

毎年100人前後が死亡

料理中にコンロの火が服の袖口についたり、ストーブの近くで長時間座っている間に服に火が移ったり。

こうした「着衣着火」と呼ばれる火災による死者は、総務省消防庁によると去年(2022年)は101人、以下のグラフのように去年までの5年間の合計は501人にのぼります。

年間100人前後が、命を落としているのです。

出火原因は「たきび中」や「炊事中」「喫煙中」など、多くは日常的な動作の中で発生しています。

“もふもふ”と“だるだる”に注意!

被害を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。

SNSの投稿で目立ったのは、フリースなど化学繊維の衣服に火が燃え移ったというものでした。

NITE=製品評価技術基盤機構の岡田大樹さんに聞いてみると、特に注意が必要なのが「もふもふ」「だるだる」の服だということです。

「もふもふ」とは、フリース素材のように毛先が長くけばだっている素材のことで、「だるだる」とは、すそや袖が広がっている服のことを指しています。

NITE 製品安全広報課 岡田大樹さん

NITE 製品安全広報課 岡田大樹さん
「もふもふ」した素材は毛先が長く、けばだっている素材はそれだけ表面積が広いので空気と触れあってしまい、けばだった部分にちょっと火が触れてしまっただけでも簡単に燃え広がってしまいます。さらに「だるだる」の服は体から離れているので、火から離れているつもりでも、服自体は火の近くに寄ってしまっています。そういう意味で、火を扱う時にはこうした服は避けてほしいです。

燃えにくい「防炎素材」「難燃素材」

また、服の素材をめぐっては「化学繊維は燃えやすい」「綿100%なら大丈夫」など、さまざまな声がありますが、この点については次のように指摘しています。

NITE 岡田大樹さん
衣類によって燃えやすさの差はありますが、基本的に衣類はひとたび火に近づけてしまえば燃えてしまうものです。素材を気にするのは大事ですが“綿100%だから大丈夫”などという油断は禁物です

自分や大切な家族のために、できるだけ被害を防げる安全な服を求めたい。

そんな時におすすめなのは、燃えにくい加工がされた「防炎素材」「難燃素材」を使った服だということです。

素材ごとの燃え方を比較した実験では、普通の布は一瞬で燃え尽きたのに対し、加工された布だと、火が移っても焦げ付く程度で済みました。

NITEでは「調理中など火を扱う時だけでも、燃えにくい素材で作られたアームカバーやエプロンを身につけてほしい」と呼びかけています。

もしもの時は“ストップ・ドロップ&ロール”

それでも万が一、服に火が燃え移ってしまったら、どうすればよいのでしょうか。

岡田さんによると、服を脱げる時は脱ぎ、近くに水道やシンクがあれば水をかけるなどして消火を試みるのが一番だということです。

もし服を脱ぐことができず、近くに水や消火器もない場合には…。

岡田さんは「ストップ・ドロップ&ロール」という方法が有効だと教えてくれました。

20秒の動画です

【1 ストップ】
 つい焦って走り回ると、空気に触れることで火の回りが早くなってしまいます。

 まずは落ち着いて立ち止まりましょう。

【2 ドロップ】
 炎が燃え上がらないよう、床や地面に倒れ込み、燃えている部分を隙間ができないように押しつけましょう。

 ※この時、「もふもふ」のカーペットなどに倒れ込まないよう注意!

【3 ロール】
 倒れたまま左右に転がって服についた火を消しましょう。

 この時、両手で顔を覆うことで、顔がやけどするのを防げます。

NITE 岡田大樹さん
冬は暖房器具やガスコンロなどを使う機会が増えるだけでなく、かなり着込んでいることで火や熱源に近づきすぎても本人が熱いと思わずに反応が遅れてしまうことがあります。被害を防ぐためには、火から距離を保つ工夫をすることや、燃え移った場合に備えて対処法をあらかじめ知っておくことが大切です。

命を守るために

1人暮らしの高齢者世帯も増える中、ちょっとした不注意で重大な結果を招く「着衣着火」が心配だという人は少なくないと思います。

被害を防ぐために必要なことをおさらいします。

火を使う時は「だるだる」「もふもふ」の素材の服は特に注意を。

燃えにくく加工された「防炎素材」「難燃素材」の服を使うことも検討を。

万が一、服に火が付いてしまったら服を脱いで水をかける

それもできない時は「ストップ、ドロップ&ロール」を。

いざという時にあなたや周りの大切な人の命を守るため、時々思い出してみてください。

(鹿児島放送局 記者 竹脇菜々子 ネットワーク報道部 記者 石川由季)