もはや希少?な男子校 20年で半減 その“生態”は

もはや希少?な男子校 20年で半減 その“生態”は
「1日でしゃべった女子がオカンだけ」
「とりあえず脱ぐとウケる」
個性豊かなキャラクターたちと男子校ならではのリアルなエピソードにあふれた日常を描いた漫画「男子校の生態」。

「女子には謎すぎる」「The青春」「笑えるネタに尽きない」などSNSで話題になり、いま人気を集めています。

全国で共学化が進み、もはや“希少”な存在の男子校。
でも関東の一部の県では例外も…。その理由に迫ります。

男子校の“生態” 描いた漫画が人気

漫画はことし3月に書籍化。

モデルとなった学校がある広島県で書店員らが推薦する「広島本大賞」も受賞しました。
作者の「コンテくん」は広島県にある私立の男子校に中学・高校の6年間通いました。

漫画のエピソードはすべて実話ということで、大きな反響を受け「自分にとって“日常”だったことが世間の“非日常”なんだ」と驚いているそうです。

男子校のリアル

共学出身者には未知の世界、男子校。

そんなに特殊な世界なのか、職場の男子校出身者に開いてみました。
A:東北私学 中高一貫

校則で男女交際禁止。「勉強を頑張って高学歴になればモテる」と信じ込んで必死に勉強した。男子校と世間一般では価値観に差があると思う。学校は厳しかったが男子しかいないことが楽で楽しかった。
B:関西私学 中高一貫

カトリック系。上半身裸でグラウンドを走るなど独特の文化も。それぞれが異性の目を気にせず個性を出せて、オタクも、ノリのいいお調子者もいて、男子の中の多様性はあった。電車で他にも席が空いているのに女性に隣に座られると「え?自分のこと好きなのかな?」と思っていた。
C:関東公立 中学は共学

男子校はオタク文化が醸成されやすく自分もその一員。似たもの同士が集まることで、自分と異なる人がいることを知るのが遅くなる。恋愛をしていなくても許されるので、大義名分をもって勉強に打ち込めたが、大学に入って世界を知りショックを受けた。
D:関西私学 中高一貫

仏教系で、学校の行事で寺で修行する。髪型や服装など校則が厳しい。女子との接点は本当にない。浪人して予備校で女性と一緒になった時には、前の席の女性からプリントを渡されるだけで挙動不審になった。
男子校もさまざま。でも共通しているのは「居心地がよかった」という意見でした。

20年で半減

少子化が進み、性の多様性やジェンダーレスの考え方が尊重されるようになる中で、男子校は実は今や“希少”とも言える存在になっています。

文部科学省の「学校基本調査」によりますと、去年5月1日時点で、全国の国公立や私立高校4824校のうち男子生徒のみが在籍するのは100校で、全体の2%ほどでした。
2002年には男子生徒のみの高校は192校あったので、この20年でおよそ半分に減ったことになります。

一方、女子生徒のみの高校は、483校から275校に。
男子に比べて減少率は若干緩やかです。

現在も残る男子校の多くは私立の高校で、東京をはじめ関東や関西などの都市部に集中しています。

一方、公立高校では異なる傾向が。
NHKが各県の状況を調べたところ、公立の男子校は、
▽群馬県が6校
▽埼玉県が5校
▽栃木県が4校
▽鹿児島県が2校
となっていて、多くが関東の3県に集まっています。
(国立は東京に1校)

関東で男子校が多い理由は「蚕」のせい?

関東の3県に男子校が多い理由について群馬県の郷土史を長年研究してきた高崎商科大学の熊倉浩靖特任教授は「養蚕が盛んだったこと」が理由の一つではないかと指摘します。
群馬などは江戸時代の後期には養蚕業の一大産地として栄え、現在でも群馬、栃木、埼玉の3県で全国の繭の生産量の6割以上を占めています。
明治5年には群馬に日本で最初の官営の製糸工場である富岡製糸場がつくられるなどさらに発展。

その担い手となったのが「工女」と呼ばれる女性たちです。
女性の社会進出が進んだことで女子教育の必要性も高まり、明治8年に現存する最古の公立女子校栃木女学校(現 宇都宮女子高等学校)が作られるなど、この地域には全国に先駆けて公立の女学校が設立されました。
すでに男子が通う旧制中学はありましたが、女学校が設立されたことで男女別学が根付いたのではないかと熊倉特任教授は指摘します。
「明治時代の関東北部は女性の社会進出が進んだ先進的な地域だったからこそ全国に先駆けて女学校が作られ、男女別学が根付きました。その伝統が今も続いていて、公立の男子校、女子校が多く残っていると考えられます」

フレデリックさんも影響?

栃木では1人のアメリカ人の存在が影響したという話もあります。

戦後、今の高校制度ができたときにGHQは男女共学を原則とし、全国的には男子校の旧制中学や女子校の高等女学校は、共学の高校になりました。

しかし栃木に男子校が残っている理由について、県教育委員会の鈴木啓介さんは「GHQの担当者が男女別学が根強い県の実情に配慮したためではないか」と話しています。

担当者はオハイオ州出身のフレデリック氏。
県教育委員会がまとめた百年史には、以下の記述が。
栃木県教育百年のあゆみ

栃木県においては、地域の実情を尊重し、無理な合併統合はなかったようである。
(中略)
これは、栃木県担当司政官フレデリック氏の円満な人柄によるものと言われている。
(中略)
栃木県の教育の実情、住民感情を十分に尊重してくれた人である
2015年に男女共学について県民を対象に行ったアンケートによりますと、今後の県立高校のあり方について「共学と別学の両方あるのがよい」「どちらかというと両方あるのがよい」と答えた人は6割に上りました。

こうした住民感情は根強く、鈴木さんは「当時も男子校、女子校を残してほしいという県民の声がフレデリックさんに届けられ、その声に配慮した結果、共学化しなかったのではないか」と推測しています。

高崎商科大学の熊倉特任教授は「男女別学で卒業生が活躍するなど成果もあげてきました。しかし、必ずしも男女共学化を進める今の時代の流れと合っているとは言えません。高校生の数が減るなかで、どう舵を切るかという課題に直面しているのかもしれません」と話しています。

鹿児島県では公立男子校が…

一方、九州で唯一公立の男子校が残っている鹿児島県では、その将来像をめぐって議論が起きました。

8年前の2015年に開校した鹿児島県立楠隼中学・高校は当時、公立では全国初となる、中高一貫の全寮制男子校として注目を集めました。
JAXA(ジャクサ)=宇宙航空研究開発機構と協定を結び「最先端の宇宙教育」を看板に掲げ、特色ある教育を行っています。

ただ、高校の入学者数は開校初年度から定員を下回り続け、生徒の確保が思うように進んでいません。

またこの学校だけ県の予算が毎年別枠で組まれていて、公平性の観点から懸念を指摘する声も上がるようになりました。

そのため、「共学化」をマニフェストに掲げて当選した塩田知事は、ことし6月、段階的に共学化を進める方針を議会で表明しました。
これに対し共学化に反対する保護者などでつくるグループは「男子校でしかできない教育がある」「男子校を残すことも1つの多様性だ」などと反発。

しかし、塩田知事は「特色ある教育を受けられる対象を広げることが大事だ。高校がある地域の子どもたちが一緒に勉強したくてもできない状況もある。すばらしい環境を受けられない人々がいるということが問題だ」などとして、共学化とともに通学を希望する生徒を受け入れていく姿勢を崩していません。

グループは9月、県議会に陳情書を提出しましたが結果は不採択。

県教育委員会は3年後の2026年度からの段階的な共学化に向けて、準備を進めることにしています。
保護者や学校OBなどでつくるグループの代表は「生徒や保護者は全寮制の男子校であることに最大の特色を感じ、その環境で受けられる教育を求めている。特色を失い普通の学校になってしまえば、そもそも学校の存続もできないのではないかと危惧している」として方針の再検討を求めています。

鹿児島県内では、もう1つの男子校である鹿児島市立鹿児島商業高校が来年度から男女共学になることがすでに決まっていて、このまま計画が進むと公立の男子校は姿を消すことになります。

議論 深めるために

共学化と男女別学の議論について、教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、3つの観点で議論を整理すべきだとしています。
(1) 個別の学校で見るか、複数の学校を1つの教育システムと捉えるか
学校それぞれで男女平等が成立していなければいけないのか、あるいは例えば県内の学校全体を1つの教育システムと捉えて、そのなかで男女それぞれに平等な機会があるかどうか。

(2) ジェンダーの観点か、心身の発達段階の観点か
社会のジェンダー・ギャップを踏まえると女子が安心して学べる女子校の存在意義がある一方で、思春期は、男子の方が女子に比べて心身の発達が1年ほど遅いことが知られている。
男子が安心して学べる環境としての男子校の存在意義があるのではないか。

(3) 学校にどこまでの機能を求めるか
勉強以外にコミュニケーション能力や社会性を学ぶ機能をどこまで学校に持たせるか。
男女が一緒に活動することを学校で日常的に担保すべきなのか。あるいは男女別学でも、定期的な男女共同プロジェクトや、学校以外の地域の集まりなどで実現可能なのか。
「この3つの観点で前提をどこに置くかによって議論の方向性が変わることをまず共有すべき」とおおたさんは言います。

その上で「『男子だけ、女子だけで学びたい人』にも『性別のために入学できないが、その学校に入りたい人』にも理由があります。その目的は何か、ほかの選択肢では達成できないのかに焦点をあてて議論を深めていくべきだ」と話しています。

“それぞれのカルチャーがあってもいい”

最後に、漫画「男子校の生態」からこちらの作品を。
作者の「コンテくん」は共学化の流れや男子校の減少について「『男子だけの集まりは危険』と言う人もいますが、男子校・女子校・共学、それぞれのカルチャーがあるので男子校もあって損はないんじゃないかなと思います。男子校の中が実際どんな感じかほとんどの人は知らないと思うので、議論する前に少しでも知ってもらえるようこれからも作品を描き続けていきたいと思います」と話していました。

参考 群馬・栃木・埼玉の状況は

関東の公立校もこの20年で共学化の流れは少しずつ進んでいます。

群馬
9校あった公立男子校は6校に減少。2025年4月には沼田高校が沼田女子高校と統合する予定。

栃木
公立男子校は8校から4校に減少。ことし7月発表の県の高校再編計画案では、「男女別学校の共学化については、社会情勢や各高校の実情等を踏まえつつ、県民世論にも配慮しながら推進する」としている。

埼玉
公立男子校は5校で変わらず。ことし8月、男女共同参画の問題に対応する苦情処理委員が県教育委員会に対して「男女の役割を定型化する概念は撤廃が求められているとして県立高校においては共学化が早期に実現されるべきである」と勧告。同様の勧告は21年前にも。
※この記事の内容は12月14日(木)「ニュースLIVE!ゆう5時」で放送しました
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(12/21(木) 午後6:00 まで)
ネットワーク報道部 記者
藤目琴実
2008年入局 徳島局、社会部を経て現所属
2人の息子の将来の選択が気になります
おはよう日本 ディレクター
水谷健吾
2019年入局 前橋局を経て現所属
男子校出身
鹿児島放送局 記者
金子晃久
2019年入局 奈良局を経て現在鹿児島局で県政キャップ
小中高と共学で学ぶも大学では男声合唱団に所属
ネットワーク報道部 記者
岡谷宏基
2013年入局 熊本局、経済部を経て現所属
中高6年間は男子校 厳しくも楽しい日々でした
ネットワーク報道部 記者
松原圭佑
2011年入局 富山局、大阪局、京都局を経て現所属
共学出身