日銀短観 大企業の製造業の景気判断 3期連続で改善

日銀は短観=企業短期経済観測調査を発表し、大企業の製造業の景気判断を示す指数はプラス12ポイントと前回を3ポイント上回り、3期連続で改善しました。また、大企業の非製造業の指数も7期連続で改善し、1991年以来、およそ32年ぶりの高い水準となりました。

日銀の短観は国内の企業9000社余りに3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

大企業の製造業の指数 プラス12ポイント 3期連続で改善

今回の調査は先月上旬から今月12日にかけて行われ、大企業の製造業の指数はプラス12ポイントと、前回9月の調査を3ポイント上回り、3期連続で改善しました。

自動車の生産の回復が続いていることや、企業の間で価格転嫁の動きが進んでいることが主な要因です。

また、大企業の非製造業の指数はプラス30ポイントと、前回の調査を3ポイント上回り、7期連続の改善でした。

これは、1991年11月の調査以来、およそ32年ぶりの高い水準で、外国人旅行者の増加で宿泊や飲食サービス業が好調だったことが主な要因です。

一方、3か月後の見通しについては、大企業の製造業は4ポイントの悪化、大企業の非製造業は6ポイントの悪化が見込まれています。

中小企業の景気判断を示す指数も改善

今回の日銀の短観は9000社余りを調査対象としていますが、
このうち、大企業が1800社余り、中堅企業が2500社余り、中小企業が4700社余りと、中小企業が最も多くなっています。

短観では中小企業の製造業の景気判断を示す指数がプラス1ポイントと前回を6ポイント上回り、2期ぶりに改善しました。

これはコロナ禍前の2019年3月の調査以来の水準です。

また、中小企業の非製造業の指数はプラス14ポイントと、前回の調査を2ポイント上回り、7期連続の改善でした。

これは1991年8月の調査以来、およそ32年ぶりの水準です。

多くの業種で価格転嫁の動きが進み、収益が改善したことに加え、自動車の生産が回復したことで、すそ野が広い関連産業や中小企業にも好影響が及んだことが主な要因です。

3か月後の見通しについては、中小企業の製造業は2ポイントの悪化、中小企業の非製造業は7ポイントの悪化が見込まれています。

深刻な人手不足や人件費の上昇のほか、中国など海外経済の減速を懸念する声が多かったということです。

非製造業を中心に人手不足感 一段と強まる

今回の短観では特に非製造業を中心に、人手不足感が一段と強まっていることが示されました。

日銀短観では企業に従業員の数が「過剰」か「不足」かを尋ねて指数化していて、マイナスが大きくなるほど人手不足だと感じる企業が多いことを示します。

今回の短観ではこの指数が大企業の非製造業でマイナス37と、前回からマイナスの幅が1ポイント拡大しました。

これは1992年2月の調査以来、およそ31年ぶりの水準です。

また、中小企業の非製造業はマイナス47と、前回よりマイナス幅が3ポイント拡大しました。

これは1983年5月の調査開始以来、人手不足感としては最も高い水準です。

外国人旅行者の増加によって宿泊や飲食サービスの需要が高まっていますが、中小企業の間では働き手が十分に確保できないため、売り上げが伸び悩むケースも見られます。

このため、中小企業の間では人手を確保するために賃金を引き上げる動きも出ていますが、依然、人手不足は深刻な状況が続いています。

価格転嫁で収益確保 賃上げを実現した福岡の中小企業

コスト高の中、価格転嫁を通じて収益を確保し、賃上げを実現した企業があります。

福岡市の中小企業「フロンティア」は社員およそ20人の自動車部品メーカーで、山口県周南市に工場を設けています。

主力製品は車の左右のドアに取り付ける雨よけの「サイドバイザー」です。

中国企業と契約を結び、完成品を輸入していますが、ドルで支払うため、これまでの円安によって仕入れ価格が3割ほど上昇したということです。

また、工場で作っている車用のフロアマットも、原材料の生地などが値上がりしていると言います。

社長の山田紀之さん(48)は「円安の影響をもろに受けています。自分の会社にとってはデメリットしかありません」と話していました。

コスト高が収益を圧迫していることを受けて、この企業が決断したのは「価格転嫁」でした。

自動車メーカーなどの大手の取引先に対して、売り上げに占める利益の割合=利益率が低下していることを説明。

仕入れ価格の上昇はコスト削減努力だけでは吸収できず、このままでは最終損益が赤字に転落してしまうと強い危機感を訴えました。

大手の取引先は当初、値上げに強い難色を示していたと言いますが、繰り返し訪問して粘り強く交渉を重ねました。

電話もかけ続け、結果的におよそ900社に上る取引先のほぼすべてから、去年3月には5%、ことし1月には10%の値上げを認めてもらえたということです。

山田さんは「毎月、赤字続きで、なんとか交渉を成功させなければと夜も寝られませんでした。価格転嫁に納得してくれたときはとにかくうれしかった」と振り返りました。

企業はことし11月期の決算で、価格転嫁に加え、取引先の自動車の生産が回復したことなどもあって、最終利益を大きく伸ばす見通しです。

こうして自社の収益を確保した山田さんは、すべての社員を対象に、ことし5月に平均5%の賃上げを行ったうえ、今月もことし2回目となる賃上げの方針を決め、いま具体的な上げ幅を検討しています。

「社員のモチベーション上がれば業績アップにつながる」

山田さんは「社員のモチベーションが上がれば会社の業績アップにつながると考えています。業績を毎年上げながら、継続的に賃上げをしていきたいです」と話していました。

さらなる価格転嫁に慎重 持続的な賃上げが厳しいケースも

中小企業の中には、さらなる価格への転嫁は売り上げなどに影響が出る可能性があるとして、持続的な賃上げは厳しいというケースが相次いでいます。

茨城県常陸大宮市にある従業員およそ50人の納豆メーカーは、薄く削った木を使った容器に納豆を入れた商品が人気で、自社の店舗や県内のサービスエリアなどでお土産用などとして販売しています。

一方、今年度、材料費の多くを占める大豆が3%値上がりしたほか、容器の材料となる木材の仕入れ価格は従来より安い品種に切り替えたものの、それでも3%上昇しました。

このほか、納豆にかぶせるシートの材料も来月からおよそ20%の値上がりが決まっていて、こうしたコストの上昇が経営の重荷になっています。

ことし4月には6年ぶりに商品の値上げに踏み切りましたが、観光客向けの販売は回復の途上で、これ以上の価格への転嫁は売り上げなどに影響が出る可能性があるため、慎重にならざるをえないといいます。

ことし5月には定期昇給を含む5%程度の賃上げを実施し、来年度の賃上げは行いたいと考えていますが、持続的な実施は厳しいとしています。

「厳しい状況続く 販路開拓し売り上げ伸ばしたい」

「丸真食品」の三次美知子社長は「削減するところはすでに削減しているので、なかなかこれ以上、経費削減は難しい。ものすごく厳しい状況が続いているが、なんとか販路を開拓して売り上げを伸ばしていきたい」と話していました。

深刻な人手不足 事業の継続に危機感を感じる広島の会社

広島県有数の観光地、宮島では深刻な人手不足になっています。

土産物の販売や団体客に食事を提供する会社では、観光客が増える中で従業員の負担が増え、ギリギリの人数で営業を続けています。

広島県廿日市市の宮島では観光客がコロナ禍前に近い水準まで回復する中、観光業を中心に人手不足が深刻な課題となっています。

このうち、土産物の販売や団体客に食事を提供する会社ではコロナ禍で10人ほどの従業員が退職し、今は30人余りで業務にあたっています。

ただ、観光客が増える中で従業員の負担が増え、ギリギリの人数で営業を続けています。

会社はハローワークなどに求人を出していますが、「島で通勤しにくい」といったイメージもあり、応募はほとんどないということです。

このため、会社では少しでも働きやすい環境を整えようと、子どもの学校行事などにあわせて休みを取りやすくしています。

また、ことし7月からは「スポットワーカー」と呼ばれる短時間のアルバイトを紹介してもらうサービスを利用しています。

繁忙期の先月は、ほぼ毎日、このサービスを利用し、皿洗いや簡単な配膳を担ってもらい、急場をしのいだということです。

このまま人手不足が解消されなければ、将来的に事業が続けられなくなると危機感を感じています。

「マンパワー減ってビジネスが成立できなくなることが怖い」

鳥居屋の佐々木健一社長は「従業員が足りない一方で、観光客は急速に増えていて、サービスが提供しきれない時もあります。例えるならば、200ミリのコップの上から多くの水が流れ込んで、あふれ出ているような状況のように感じます。この先、マンパワーが減ってビジネスとして成立できなくなることが怖いです。やれる手は何でも尽くしていきたい」と話していました。