【13日詳細】イスラエル軍 地下トンネル海水注入を開始 米報道

イスラエル軍はこの1か月間に、ガザ地区でイスラム組織ハマスの戦闘員など500人以上を拘束したと主張し、攻勢を強めています。
一方、ガザ地区へ運び込む人道支援物資の安全検査について、イスラエル側との境界にある検問所でも始めたと発表し、人道状況の改善につながるかが注目されます。

イスラエルやパレスチナに関する日本時間12月13日の動きを随時、更新してお伝えします。

“シンワル指導者殺害の場合 軍事作戦 終結向かう可能性”専門家

イスラエルに対し、後ろ盾のアメリカからも軍事作戦の早期終結を求める動きが出ていると伝えられるなか、イスラエルの研究所の専門家はハマスのガザ地区トップ シンワル指導者を殺害した場合、イスラエル政府がそれを成果として、大規模な軍事作戦を終結に向かわせる可能性があるという見方を示しました。

ヘブライ大学トルーマン平和研究所のロニ・シャケッド氏はイスラエルとパレスチナの紛争を長年、研究し、2007年には当時、ガザ地区のトップだったハマスのハニーヤ最高幹部と面会したこともあります。

シャケッド氏はイスラエル軍がガザ地区への大規模攻撃を繰り返してきた歴史を振り返ったうえで、「これが最後のラウンドになるだろう。地上作戦でハマスの指導者、武器、地下トンネルを破壊し、新たな体制をガザ地区に作らなければならない」と話し、今回の大規模攻撃はこれまでとは異なると強調しました。

また、地上作戦の今後の展開については、「作戦はハンユニスで続くが、さらに南のラファまで広がることはないと思う。ラファはエジプトに近く、攻撃すれば人々はエジプトに逃げ出そうとするだろう。イスラエルにとってエジプトとの和平は戦略的に極めて重要であり、エジプトの大統領は国境を越えるのは許さないと明言している」と話し、エジプトとの関係を維持するため、ラファへの地上侵攻は控えるだろうという見通しを示しました。

ただ、今月上旬にアメリカの政治専門サイト「ポリティコ」が、バイデン政権が軍事作戦を年末までに終わらせるようイスラエルに求めたと伝えるなど、停戦への圧力が強まっているとして、「目的を実現するチャンスはとても限られ、日に日に狭まっている」と指摘しました。

その上で、「シンワル指導者を殺害すれば、『われわれは目的を成し遂げた。戦争をやめられる』と言いやすくなる」と話し、シンワル指導者を殺害した場合、政府が成果をアピールし、大規模な軍事作戦を終結に向かわせる可能性があるという見方を示しました。

その一方で、ハマスに詳しいシャケッド氏はシンワル指導者について、「イスラエルの刑務所に23年間服役している間に、イスラエルについてのあらゆる本を読み、イスラエル人の考え方やイスラエルの情報機関の手の内も知り尽くしている非常に賢い人物であり、イスラエル国内で言われているような狂った男ではない」と評価し、情報機関に捕捉されないよう携帯電話なども使っていないため、居場所の特定が難しいうえに、人質に紛れているおそれもあり、攻撃は難しい判断を迫られるという見方を示しました。

さらに、イスラエルが過去に多くのハマスの指導者を暗殺してきた経緯を踏まえ、「ハマスはイデオロギーであり、指導者に依存しているわけではない」と話し、シンワル氏を殺害しても、ネタニヤフ首相が掲げるハマスの壊滅は実現できないと指摘しました。

そのうえで、「戦いの連鎖を断ち切るには政策転換が必要だ。互いが多くの努力をしなければならない。イスラエル側からの努力とは2国家解決だ」と話し、イスラエル政府はパレスチナとの2つの国家の共存による和平に真剣に取り組むことが重要だという考えを示しました。

“ガザ地区で人質となっていた2人の遺体を収容” イスラエル軍

イスラエル軍は日本時間の13日未明、ガザ地区で人質となっていた2人の遺体を収容したと発表しました。このうちの1人は女性で、家族は人質の解放を訴えるイスラエル政府の事業で来日中でした。

エデン・ゼカリヤさん(28)は恋人や友人と一緒にハマスの襲撃を受けた音楽イベントに参加し、その帰り道に戦闘員から攻撃を受けてガザ地区に連れ去られたことが確認されていました。

エデンさんのおじのサソン・エズラ・ゼカリヤさんと、いとこのエラ・ゼカリヤさんは人質の解放を訴えるイスラエル政府の事業で10日から来日していましたが、13日未明、エデンさんの死亡が確認されたという連絡があったということです。

サソンさんは13日午前、都内でG7=主要7か国の駐日大使などと面会し「私たちにとっては遅すぎましたが、まだ、多くの人が子どもたちの帰りを待っています。遺体となって帰ってくるのはもうたくさんです。人質全員が無事に家に帰れる日まで、私は声をあげるのをやめません。どうか力を貸してください」と訴えていました。

面会後、サソンさんは「エデンには生きていてほしかったです。私たちは悼むことはできますが、ほかの家族は人質の状況が分からず、苦しんでいます。同じ思いを誰にもしてほしくないからこそ、声をあげ続けます」と話していました。

また、エラさんは「現実を受け入れるまで少し時間がかかると思いますが、落ち着いたら人質の解放の訴えに戻りたいと思っています」と話していました。

イスラエル軍 地下トンネルに海水注入を開始 米報道

ウォール・ストリート・ジャーナルの電子版は12日、イスラエル側から説明を受けたアメリカ政府当局者の話として、イスラエル軍がガザ地区のハマスの地下トンネルへの海水の注入を開始したと伝えました。

イスラエル側によると、地下トンネルはハマスがロケット弾などの軍事物資を保管し、指導者が部隊の指揮を行う軍事拠点にしているということです。

アメリカ政府当局者によると、イスラエル軍は7つあるポンプを使って、数週間かけて海水を注入し、トンネルを浸水させる作戦だということです。ただ、地下トンネルはおよそ480キロにもおよび、頑丈な扉も設置されていることから、この作戦が有効かどうかは、イスラエル側ではまだ評価している段階だとしています。

一方、バイデン政権の中では海水の注入は効果的ではなく、ガザ地区での水の供給に影響が出るおそれがあると懸念の声も出ているということです。

また、記事ではイスラエル政府当局者の話として、地下トンネル内にハマスに拘束されている一部の人質がいる可能性があると伝えています。ただ、バイデン大統領はこれについて12日、記者会見で、「確かなことはわからないが、イスラエルはトンネル内に人質はいないと主張している」と述べました。

“新たな検問所 人道状況改善には不十分” ICRC

パレスチナのガザ地区に運び込まれる人道支援物資の安全検査のため新たに設けられた検問所について、ICRC=赤十字国際委員会の幹部は人道状況の改善には不十分だという認識を示したうえで、事態の打開のためには戦闘の休止や停戦に向けた動きが欠かせないと訴えました。

ICRCでガザ情勢を統括するカルボーニ中東事業局長は12日、スイス・ジュネーブの本部でNHKのインタビューに応じました。

このなかでカルボーニ氏は、ガザ地区に運び込まれる人道支援物資の安全検査が12日、イスラエル側との境界のケレム・シャローム検問所でも始まったことについて、「以前よりは良いことだが、十分だとは言えない」と述べ、人道状況の大きな改善にはつながらないという見方を示しました。

その理由についてカルボーニ氏は「いま直面している問題は安全の確保だ。安全が確保できなければ支援物資を搬送できない」と述べ、現地での激しい戦闘のため、支援が行き届かないとしています。

そのうえで、「人道支援は政治のようには問題を解決できない。両者の間でのなんらかの合意が必要だ」と述べ、事態の抜本的な打開のためにはイスラム組織ハマスとイスラエルの間で、次の戦闘休止や停戦に向けた動きが欠かせないと訴えました。

ICRCは中立の立場から、これまで、ハマスから解放された人質やイスラエルの刑務所から釈放されたパレスチナ人の引き渡しなどに関わっています。

カルボーニ氏は今後の人質解放に関する新たな情報はないとする一方、「私たちのスタッフは現地に残り、いつでも解放を支援できる。ICRCの立場は明確だ。人道上の基本的な原則は守られなければならない」と述べ、今後の戦闘休止やさらなる人質の解放に備え、現地の態勢を維持していると強調しました。

ネタニヤフ首相 “侵攻はアメリカに支持された正当なもの”

イスラエルのネタニヤフ首相は12日、公開した動画で、「ハマスを壊滅し、人質を取り戻すことへのアメリカの支持に深く感謝する。バイデン大統領からは地上侵攻のほか、戦闘停止を求める国際的な圧力を拒否することについても全面的な支持を得た」と述べ、ガザ地区への軍事作戦はアメリカにも支持された正当なものだと主張しました。

その一方で、「『ハマス後』については見解の相違もあるが、その点でも合意できると願っている」と述べ、戦闘終結後のガザ地区の統治をめぐってバイデン政権と見解の相違があることを認めました。

国連総会の緊急会合 停戦求める決議案 賛成多数で採択

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナのガザ地区の情勢をめぐって、国連総会の緊急特別会合で人道目的の即時停戦を求める決議案の採決が日本時間の13日に行われ、日本を含む153か国が賛成、イギリスなど23か国が棄権、反対はアメリカやイスラエルやなど10か国にとどまり、賛成多数で決議は採択されました。

すべての国連加盟国が参加できる総会での決議は国際社会の総意を示すものとされ、ガザ地区が危機的な人道状況に陥る中、イスラエルとイスラエルを擁護するアメリカの国際的な孤立が際立つ形となりました。

ハマス幹部 イスラエル側を改めてけん制

イスラム組織ハマスの政治部門の幹部が12日、レバノンの首都ベイルートで会見し、「停戦がなければ人質解放の交渉はしない。イスラエル軍が力ずくで取り戻そうとすれば、人質の命を危険にさらすことになる」などと述べ、攻勢を強めるイスラエル側を改めて強くけん制しました。

また、国連の安全保障理事会でアメリカが拒否権を行使し、人道目的の即時停戦を求める決議案が否決されたことについて、「ガザ地区のパレスチナ人に対する民族浄化と虐殺を深刻化させている」などと述べ、バイデン政権を非難しました。

さらに、バイデン大統領がガザ地区の情勢をめぐり、「イスラエルは世界で支持を失いつつある」と述べたことについて問われ、「断固たるパレスチナ人の抵抗によって、軍事作戦が狂気の沙汰であり、バイデン大統領の選挙結果にも悲惨な影響を与えるということをバイデン氏に認識させたということだ」などと述べました。

バイデン大統領「イスラエルは世界で支持を失いつつある」

アメリカのバイデン大統領は12日、首都ワシントンで開かれた支持者らを集めた会合でスピーチを行いました。

この中でバイデン大統領はガザ地区の情勢をめぐって、「無差別的な爆撃によってイスラエルは世界で支持を失いつつある」と述べました。ガザ地区でイスラエル軍の攻撃による民間人の犠牲が増え続け、イスラエルを支援するアメリカに対しても国内外で批判の声が強まる中、これまでよりも踏み込んで苦言を呈したかたちです。

また、イスラエルのネタニヤフ政権について、「イスラエル史上もっとも保守的な政権だ」と述べ、パレスチナとの「2国家共存」による和平の実現を望んでいないと指摘しました。そのうえで、バイデン大統領は「ネタニヤフ首相は今の政府を変える必要がある」と述べて、ネタニヤフ政権の対応に批判的な見方を示しました。

その一方で、バイデン大統領は「イスラエルが自衛のために必要とするものの提供をやめることはない」と述べて、イスラエルへの軍事支援を継続する立場に変わりはないと強調しました。

国連総会の緊急会合 停戦求める決議案採決へ

国連総会で12日、日本時間の13日午前5時すぎから、緊急特別会合が始まり、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続くガザ地区の情勢をめぐり、エジプトが提出した決議案の採決がまもなく行われます。

決議案はガザ地区の状況に深刻な懸念を表明した上で、人道目的の即時停戦を求めているほか、すべての人質の解放や人道支援の確保などを求めています。

ガザ地区の情勢をめぐっては、国連のグテーレス事務総長が安全保障理事会に対して停戦を求めるよう要請し、今月8日、安保理で人道目的の即時停戦を求める決議案の採決が行われましたが、アメリカが拒否権を行使して決議案が否決されたことから、同様の内容の決議案が国連総会に提出されたものです。

総会には193すべての国連加盟国が参加できることから、決議は国際社会の総意を示すものとされ、ガザ地区が危機的な人道状況に陥る中、採決の結果や各国の投票行動が注目されます。

避難先ラファ 激しい空爆で子どもたちが犠牲

イスラエル軍がガザ地区南部のハンユニス周辺の住民などに退避先として通告している南部のラファで激しい空爆が続くなか、子どもたちの犠牲も増えています。

ロイター通信は空爆で息子と双子の娘を亡くしたという父親の様子を伝えました。

父親は白い袋にくるまれた遺体を抱きかかえ、顔にほおずりしながら、「イスラエル軍は突然、家を標的にした。ロケット弾3発で、隣り合った4軒の家が攻撃された」と話していました。

また、ラファの難民キャンプに空爆を受け、生後1か月の男の赤ちゃんを亡くしたという祖母は赤ちゃんの遺体を抱きながら、「いとしい私の孫」とささやき、涙を流していました。

イスラエル軍 20人が味方の誤った攻撃や事故で死亡

イスラエルの一部メディアは12日、イスラエル軍がイスラム組織ハマスの壊滅に向けてガザ地区で地上侵攻を始めて以降、これまでに軍の兵士105人が死亡し、このうち20人はハマス側からではなく、味方の誤った攻撃や事故に巻き込まれたと伝えました。

20人のうち13人はイスラエル軍による空爆や砲撃、それに銃撃など、誤った攻撃に巻き込まれたとしていて、軍は「こうした事案について分析し、迅速に対応している」と話しているということです。

WHO 現地の状況に懸念

WHO=世界保健機関はガザ地区で患者の搬送中、イスラエル軍の検問所で長時間留め置かれ、患者1人が死亡したほか、支援車両にも銃弾があたったなどとして、現地の状況に懸念を示し、人道支援活動が円滑に行えるよう訴えました。

WHOの12日の発表によりますと、WHOは9日、パレスチナ赤新月社などと協力し、ガザ地区北部の病院に医療物資を届けるとともに、症状の重い患者を南部へ搬送する活動を行ったということです。

この際、ガザ地区を南北に隔てる地点にあるイスラエル軍の検問所で、検査を理由に重症の患者も含めて長時間留め置かれ、患者の1人が死亡したということです。

また、この検問所では赤新月社のスタッフは尋問のため連行されたうえ、殴られたり、服を脱がされたりしたとしています。

このほか、ガザ市内を通過した際、救援物資を載せたトラックや救急車に銃弾が当たったとしています。

WHOパレスチナ事務所のピーパーコーン代表はオンラインで会見を行い、現地の状況に懸念を示した上で、「人道機関はガザ地区でますます活動しにくくなっている」と述べ、人道支援活動が円滑に行えるよう訴えました。